交通事故の示談交渉は被害者が自分で解決できるのか?
交通事故の被害にあうと、被害者の方はさまざまな損害を被ってしまいます。
そうした損害を金銭で補償してもらうために、通常は加害者が任意保険に加入している場合は、その保険会社と示談交渉を行ないます。
示談交渉は被害者ご自身が単独・自力で示談交渉をすることはできますが、次の点に注意が必要です。
①慰謝料等を増額できず低い金額で示談成立させてしまう
②シビアな金額交渉に疲れ果ててしまう
保険会社が提示してくる金額は、被害者の方が受け取ることができる適正な金額より低いことが多く、示談交渉で被害者の方が増額を主張しても保険会社はなかなか受け入れません。
なぜ、こうしたことが起きてしまうのか、被害者の方はどのように示談交渉を進めていけばいいのか。
本記事を読むと、その理由と対処法がわかります。
目次
交通事故の示談交渉では何をするのか?
交通事故の示談では、被害者側と加害者側が話し合いによって和解し、次のことを決めていきます。
①交通事故によって、どのような損害が生じたのか?
②その損害額はいくらになるのか?
③慰謝料などの損害賠償金の支払いはどのような方法で行なうか?
交通事故が発生してから示談成立までの手順
今後、示談交渉を行なっていくためにも、まずは交通事故問題の全体の流れと手続きを把握しておきましょう。
示談交渉の前に示談金の中身を理解する
(1)示談金とは?
示談金、損害賠償金、保険金、慰謝料……交通事故ではさまざまな言葉、用語が出てきます。
これらは同じものなのでしょうか? 何が違うのでしょうか?
被害者側と加害者側で示談により金額が合意されるので「示談金」といいます。
被害者の方から見ると、被った損害を賠償してもらうものなので「損害賠償金」ともいいます。
保険会社の立場では、保険契約に基づいて支払うので、「保険金」となります。
つまり、この3つは状況によって呼び方が違うだけで同じもの、ということになります。
(2)慰謝料とは?
交通事故の損害賠償実務では、慰謝料というのは「被害者の精神的苦痛を償うために支払われるお金」となります。
慰謝料には次の4つがあります。
①入通院慰謝料
②後遺障害慰謝料
③死亡慰謝料
④近親者慰謝料
なお、慰謝料というのはたくさんある損害賠償項目のひとつになります。
家計簿に、家賃、光熱費、食費などの項目があるように、示談金(損害賠償金)というのは次のような項目を合計したもの、ということになります。
(3)入通院した場合の損害賠償項目と金額
被害者の方はケガの治療のために入院・通院した場合、次のような損害賠償項目を請求することができます。
「治療費」
・必要かつ相当な範囲での実費金額
・特別個室、過剰診療などの費用は支払われない可能性があることに注意
「付添看護費」
・看護師・介護福祉士等/実費全額
・近親者/入院の場合は1日あたり6500円
通院の場合は1日あたり3300円
※幼児・高齢者・身体障害者等で必要のある場合
「入院雑費」
1日あたり1500円
「装具・器具購入費」
車いす、義足、義歯、義眼、入れ歯、補聴器、かつら等の購入費や処置費などの相当額
「交通費」
原則、本人分の実費
「子供の保育費・学習費等」
実費相当額
「弁護士費用」
訴訟になった場合、裁判所により認容された金額の1割程度
「休業損害」
ケガによって休業したことによる現実の収入減分(交通事故以前の収入を基礎とする)
「入通院慰謝料」
治療のために入通院した日数によって慰謝料を計算する
(4)後遺障害が残った場合の損害賠償項目と金額
入通院をしてケガの治療をしたものの、主治医から「症状固定」の診断を受けた場合、これ以上の改善や完治はみこめないということになるので、被害者の方には後遺症が残ってしまうことになります。
この場合、ご自身の後遺障害等級の認定を受けたうえで、次の損害賠償項目を追加で請求することができます。
「将来介護費」
・看護師・介護福祉士等/実費全額
・近親者/常時介護が必要な場合は1日あたり8000円
※平均寿命までの期間について、中間利息を控除した金額
「家屋・自動車等の改造費」
・自動車や自宅の出口、風呂場、トイレなどの改造費
・介護用ベッドなどの購入費、レンタル費の実費相当額
「逸失利益」
交通事故以前の収入額に、労働能力喪失率、就労可能年数、中間利息の控除分をかけた金額
「後遺障害慰謝料」
被害者の方が認定された後遺障害等級(1~14級)によって金額を算出する
(5)死亡事故の場合の損害賠償項目と金額
被害者の方が死亡した場合に、ご遺族が損害賠償できる項目は次のとおりです。
「葬儀関係費」
自賠責保険では定額で60万円、任意保険は大半の場合で120万円以内、裁判基準では150万円を上限に実際に支払った金額
「逸失利益」
生きていれば得られたはずの収入
「死亡慰謝料」
被害者の方の家庭内での立場によって、次のように相場金額が定められている
被害者が一家の支柱の場合 | 2800万円 |
---|---|
被害者が母親・配偶者の場合 | 2500万円 |
被害者がその他の場合 | 2000万~2500万円 |
「弁護士費用」
裁判をした場合にかかる費用
その他
実際にかかった治療費、付添看護費、通院交通費など
※被害者の方が治療後に亡くなった場合
示談交渉はどのように進めていくのか?
示談交渉を進めていくには、次の方法があります。
(1)弁護士に依頼する
弁護士に依頼することで、代理人として加害者側の保険会社と示談交渉を行なってもらうことができます。
メリットとしては、主に次のことがあげられます。
・難しく、厄介な示談交渉から解放される
・慰謝料などが増額して、被害者の方が本当に受け取るべき示談金(損害賠償金)を手にすることができる
逆にデメリットしては、やはり弁護士費用がかかってしまうことがあげられるでしょう。
実際、弁護士費用にはまだ多くの方の誤解もあるようです。
「弁護士費用は高額だ」というものです。
しかし、相談料や着手金は無料、成功報酬型のため慰謝料などが増額しなければ弁護士費用は0円、という法律事務所も増えています(みらい総合法律事務所もそうです)。
また、ご自身の保険に「弁護士費用特約」がついていれば、それで費用を賄うこともできますし、弁護士に依頼して裁判で判決までいくと、「遅延損害金」や「弁護士費用相当額」が損害賠償金にさらにプラスされます。
弁護士に依頼することも裁判を起こすことも、被害者の方にとってはプラスになることがとても多いという事実を知っておいていただきたいと思います。
(2)被害者自身で示談交渉を行なう
被害者の方が単独で示談交渉を行なうという方法もあります。
弁護士費用のようなものはかかりませんし、ご自身の裁量で交渉を進めていくことができるというメリットがあります。
加害者側の保険会社の提示金額に納得するなら、示談書にサインをして、あとは示談金が振り込まれるのを待つだけです。
<示談書の書き方と注意ポイント>
なお、示談書の書式や書き方には法的な決まりはないのですが、通常どのような内容が書かれているのか、どのような形式なのかの参考として、次のページをご覧ください。
ただし、被害者の方が単独で示談交渉を行なっていくにはデメリットも多い、ということは知っておいていただきたいのです。
被害者が単独で示談交渉を行なう難しさとは?
①本来よりも低い金額で示談を成立させてしまう
慰謝料などの算出には、「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士(裁判)基準」の3つの基準が使われます。
通常、加害者側の保険会社は自賠責基準で計算して、それでは足りない部分については任意保険基準という自社の基準で計算した金額を提示してきます。
なぜかというと、自賠責基準はもっとも金額が低くなり、自賠責保険の範囲内で示談金(損害賠償金)が収まれば、最終的に保険会社が支払う金額は0円になるからです。
これは、まず任意保険会社が被害者の方に支払ったあとに、自賠責保険に請求して、その金額を取り戻すことができるからです。
任意保険会社は営利法人として利益を追求します。
被害者の方への示談金は保険会社にとっては支出ですから、これをできるだけ低くしようとします。
そのため、被害者の方が、もっとも高額になる弁護士(裁判)基準で計算した適正な金額を、いくら主張しても、それを受け入れることはまずありません。
なぜなら、弁護士が代理人として交渉に入ってきて、最終的には裁判も前提として適切な金額を主張してこないかぎりは、慰謝料などの増額には応じる必要はないと考えているふしがあるからです。
そこで、弁護士が交渉に入り、弁護士(裁判)基準で計算した慰謝料などの示談金を主張した場合、保険会社としては金額を増額して和解したほうが得策だという判断をします。
というのは、裁判では弁護士(裁判)基準の金額が認められる可能性がかなり高くなるからです。
理不尽に感じると思いますが、これが交通事故の示談交渉の現実だといえます。
②長引く示談交渉で被害者の方が疲れ果ててしまう
そうした事情から、被害者の方が単独で示談交渉をしても、なかなか希望どおりに増額することがなく、いつまでも解決しないまま、示談交渉が長引いてしまうことがよくあります。
被害者の方はケガを負って、後遺症が残ってしまった場合など、精神的にも肉体的にもとてもつらい状況にあると思います。
そうした苦痛を背負いながら、シビアな示談交渉を続けていくのは、かなり大変なことだと思います。
これらのことを考えると、被害者の方としては、
・まず、ご自身で示談交渉のテーブルについてみる
・本記事を参考にしながら、このままでは長引いてしまう可能性が高いと感じたなら、弁護士に相談・依頼する
という流れで示談交渉を進めていかれるのも、ひとつの方法だと思います。
本記事では、被害者が自分で示談交渉する難しさについて説明しましたが、弁護士が交渉すると増額する理由について、詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
交通事故を弁護士に依頼する6つのメリットと注意点
代表社員 弁護士 谷原誠