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交通事故で線状痕等による外貌醜状等で慰謝料増額した裁判例

最終更新日 2024年 06月14日

交通事故の慰謝料とは

突然の交通事故。思ってもみない出来事です。

交通事故で怪我をした場合には、被害者に損害が発生します。

その損害は、加害者に全て請求していく必要があります。

まずは、治療に専念することになりますが、治療が終了すると、損害が確定しますので、その後で加害者に請求していくことになります。

慰謝料がその一つです。

交通事故の損害賠償金は、慰謝料とイコールではありません。

損害の中には、治療費、休業損害、慰謝料、逸失利益など様々な項目があります。

その合計金額が損害賠償金であり、慰謝料はその中の一部と言うことになります。

そして、慰謝料には、傷害慰謝料、後遺症慰謝料、死亡慰謝料、近親者慰謝料、の4種類があります。

では、慰謝料は、どのように計算するのでしょうか。

慰謝料の最新情報解説!

慰謝料の相場金額

交通事故では、過去に膨大な裁判が行われています。

その結果、慰謝料の金額については、一応相場の計算方法ができあがっています。

本来であれば、事案毎に裁判官が慰謝料金額を判断するのですが、交通事故といっても、事情はそれぞれなので、個別に金額を判断すると、かえって不公平になることもあります。

また、裁判の迅速化のためには、事故を分類し、一応の相場金額を決めておくことが合理的です。

以下では、死亡事故と後遺症にわけて、慰謝料の相場金額を説明します。

交通事故が死亡事故だった場合、慰謝料の相場は、次のようになっています。

被害者が一家の支柱の場合 2800万円
被害者が母親・配偶者の場合 2500万円
被害者がその他の場合 2000万~2500万円

このように、死亡事故の慰謝料の計算では、家族の中で、被害者がどのような立場だったかによって金額が違ってくることになります。

次に、交通事故で怪我をして、後遺症が残った場合の慰謝料の相場についてです。

弁護士(裁判)基準で定められている後遺症慰謝料の相場は、認定された後遺障害等級に応じて、以下のようになっています。

後遺障害等級1級の場合 2800万円
後遺障害等級2級の場合 2370万円
後遺障害等級3級の場合 1990万円
後遺障害等級4級の場合 1670万円
後遺障害等級5級の場合 1400万円
後遺障害等級6級の場合 1180万円
後遺障害等級7級の場合 1000万円
後遺障害等級8級の場合  830万円
後遺障害等級9級の場合  690万円
後遺障害等級10級の場合  550万円
後遺障害等級11級の場合  420万円
後遺障害等級12級の場合  290万円
後遺障害等級13級の場合  180万円
後遺障害等級14級の場合  110万円

【参考記事】
正しい後遺障害等級が認定される人、されない人の違いとは

慰謝料が相場より増額される場合

慰謝料には相場があります、事案によっては、相場より高額の慰謝料が認められる場合があります。

大きく分けると、次の3つです。

・被害者の精神的苦痛が通常の場合より大きいと思えるような場合
・被害者側に特別な事情がある場合
・その他の損害賠償の項目を補完するような場合

被害者側の精神的苦痛がより大きいと思われる場合

通常の場合に比べ、被害者の精神的苦痛が大きいと思われる場合には、慰謝料が相場よりも増額される可能性があります。

たとえば、
・加害者が赤信号無視したり、無免許であったり、飲酒運転であったり、というよな悪質な事故の場合
・事故後に被害者を助けることなく、ひき逃げ等をしたもの
・ひき逃げをしておきながら反省していない、などの場合
のような事例です。

また、後遺症の場合は、障害の程度が重度で、被害者本人や、介護する親族の精神的負担が大きいと思われるような場合に、後遺症慰謝料が増額される傾向にあります。

慰謝料増額するには裁判を起こす

しかし、いくら慰謝料増額事由があっても、黙っていては、保険会社は、慰謝料を増額してはくれません。

示談では慰謝料を相場よりも増額させるのは困難です。

慰謝料を相場以上に請求するためには、裁判を起こす必要があります。

裁判をし、裁判所が、慰謝料増額事由があると判断した場合に、初めて慰謝料が相場金額よりも増額されることになります。

そのためには、どういう事情があれば、慰謝料が増額されるのかについての知識が必要となり、それを的確に裁判で主張していくことが必要になります。

法律の素人では、この点について正しく判断し、主張していくことは難しいと思いますので、やはり交通事故に精通した弁護士に依頼することが重要になってきます。

慰謝料増額事由がありそうな場合には、なるべく早い段階で、弁護士に相談するようにしましょう。

【参考記事】
交通事故の慰謝料を相場金額以上に増額させる方法

外貌醜状の自賠責後遺障害等級


外貌醜状とは、交通事故によって、頭部、顔面部、くび又は上肢・下肢の露出面などに、目立つほどの傷跡が残ってしまった場合に、後遺障害として評価するものです。

瘢痕、線状痕、ケロイド、組織陥没などの種類があります。

外貌醜状の後遺症が残った場合には、自賠責後遺障害等級の認定を受けることになります。

7級12号(外貌に著しい醜状を残すもの)

次のもののうち、人目に付く程度以上のものです。
①頭部については手のひら大(指の部分は含みません。以下同じ。)以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損

②顔面については、鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没

③頚部については、手のひら大以上の瘢痕

9級16号(外貌に相当程度の醜状を残すもの)

顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目に付く程度以上のものです。

12級14号(外貌に醜状を残すもの)

次のもののうち、人目に付く程度以上のものです。

①頭部については、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損

②顔面部については、10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕

③頚部については、鶏卵大面以上の瘢痕

自賠責の後遺障害認定は、原則として、労災補償の災害補償の障害認定基準に準拠すべきとされています。

14級4号

上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残す場合

上肢又は下肢の露出面とは、上肢にあっては、肘関節以下(下部を含む。)、下肢にあっては、膝関節以下(足背部を含む。)をいいます。

14級5号

下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残す

【参考記事】
「外貌の醜状障害に関する障害等級認定基準について」厚生労働省

外貌醜状の逸失利益


後遺障害が残った場合の逸失利益とは、後遺障害によって労働能力が制限されることにより、将来の収入が減少することによる損害です。

しかし、外貌醜状は、手足切断や手足の可動域制限などと異なり、身体機能の障害ではありません。

そこで、裁判においても労働能力喪失の有無や程度が争われます。

その結果、逸失利益が否定される結論となることもあります。

しかし、女優やホステス、接客業などの場合には、外貌醜状により、退職や配置転換を受ける場合もあり、労働の障害となる場合もあり、そのようなケースでは、逸失利益が認められる場合もあります。

その他、逸失利益を否定しつつ、慰謝料を増額する場合もあります。

外貌醜状で逸失利益を認めた裁判例


被害者は22歳のホステスです。

交通事故により、左右の瞼からおでこにかけて15cm×4cm、左頬に8cm×3cm、鼻の下に2cm×2cm、顎に1cm×1cmの瘢痕ケロイド拘縮の外貌醜状が残り、自賠責後遺障害等級7級12号が認定されました。

裁判では、労働能力喪失の有無、程度が争われました。7級の標準労働能力喪失率は56%です。

裁判所は、13年間について、56%、以降67歳まで25%の労働能力喪失率を認めました。

理由は、以下のとおりです。

ホステスの職業が、容貌が非常に重要な意味を持つとした上、上記後遺障害では同職業を継続することが客観的に困難であると認定と認定しました。

その上で、事故が無ければ少なくとも35歳までホステスとして稼働するであろうと考え、事務員転職後半分以下の収入になっていることや、契約社員で安定した就労状態ではいい難いことを考慮し、35歳までの13年間は事故当時の収入を基礎に56%の喪失率を認定しました。

その後67歳までは、選択し得る職業の制限や、就労意欲等に影響を与えたりする可能性を考慮し女子の平均年収を基礎に25%の喪失率を認定しました(名古屋地裁平成21年8月28日判決、自保ジャーナル1814号)。

逸失利益のかわりに慰謝料を増額する裁判例

このように、外貌醜状の場合には、逸失利益の計算が難しい、ということから、裁判例の中には、逸失利益を認めない代わりに、慰謝料を相場の金額をより増額して認めるものが多数あります。

(1)自賠責後遺障害等級7級の事例

ホテル勤務の22歳女性が、額前面の点状瘢痕の外貌醜状で自賠責後遺障害等級7級が認定された事案において、同僚から「どうしたのか」などと聞かれて辛い思いをしたり、腕の瘢痕を気にして半袖等の着用を控えていることなどを理由として、相場の後遺症慰謝料基準額1000万円のところ、1450万円を認めました(大阪地裁平成11年8月31日判決)。

(2)自賠責後遺障害等級9級の事例

(一)アルバイトの33歳女性が、顔面の外貌醜状で自賠責後遺障害等級9級が認定された事案について、逸失利益を否定したかわりに、相場の慰謝料基準額690万円のところ、830万円を認めました(東京地裁平成28年12月16日判決)。

(二)小学生である7歳女性が、右前額部の線状痕で自賠責後遺障害等級9級が認定された事案について、逸失利益は否定しましたが、線状痕の部位及び程度からすると、髪型の制限を受けること自体が精神的負担になるなどとし、相場の後遺症慰謝料額690万円のところ、870万円を認めました(京都地裁平成29年2月15日判決)。

(3)自賠責後遺障害等級12級の事例

(一)17歳女性が、交通事故により骨盤骨変形(12級)と外貌醜状(12級)の併合11級が認定された事案について、逸失利益については、骨盤骨変形に対する14%のみ認めた上で、相場の後遺症慰謝料基準額である420万円のところ、550万円を認めました(東京地裁平成13年12月18日判決)。

(二)5歳の男子が顔面3箇所の線状痕で自賠責後遺障害等級12級が認定された事案について、逸失利益は否定しましたが、慰謝料で斟酌するとして、相場の後遺症慰謝料290万円のところ、440万円を認めました(さいたま地裁平成22年6月25日判決)。

外貌醜状で慰謝料が増額した裁判例

事案の概要

名古屋地裁平成20年6月27日判決(自動車保険ジャーナル・第1755号・16)

【死亡・後遺障害等級】
後遺障害等級併合6級

【損害額合計】
56,705,336円

【慰謝料額】
13,000,000円

【交通事故の概要】
平成12年9月25日午前11時50分頃、滋賀県下の高速道路で、被害者が普通乗用車に同乗中、同乗用車の運転者が前方を走行する自動車に衝突し、さらに後方から走行してきた大型貨物自動車に衝突されました。

被害者は、右大腿骨骨幹部骨折、骨盤骨折、顔面打撲・挫創、坐骨骨折、腰椎捻挫、左下第2小臼歯歯根破折等の傷害を負い、平成17年3月31日に症状固定しました。

被害者の後遺障害は、右前額部の線状痕及び右頬部の瘢痕について外貌醜状で7級12号、骨盤骨変形(右座骨痛、跛行を含む。)で11級11号、これらを併合して後遺障害等級併合6級に認定されました。

被害者は、交通事故当時32歳の女性で、会社員です。
被害者が弁護士に依頼し、弁護士が被害者の代理人として提訴しました。

判決のポイント

後遺症慰謝料の相場 11,800,000円

本件交通事故では、以下の事情から、13,000,000円の後遺症慰謝料を認めました。

①女性である被害者にとって、特に、顔面の線状痕、瘢痕の後遺障害及び分娩の際に障害を生じる可能性のある産道狭窄の後遺障害は精神的苦痛の大きい後遺障害であること。

以上、32歳女性が交通事故により後遺障害等級6級に認定された事案を弁護士が解説しました。

交通事故で後遺障害等級6級が認定された時は、弁護士にご相談ください。

 

監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠
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