妊娠中の妻の死亡事故で慰謝料を増額した裁判例
交通死亡事故で、ご家族を亡くされた場合、ご遺族のうち法的な相続人になる方は慰謝料などの損害賠償金(状況に応じて示談金とも保険金ともいいます)を相続して、受け取ることができます。
死亡事故に関わる慰謝料には①傷害慰謝料(入通院慰謝料)、②死亡慰謝料、③近親者慰謝料の3種類があります。
また、慰謝料の計算には①自賠責基準、②任意保険基準、③弁護士(裁判)基準があり、
弁護士(裁判)基準で計算すると慰謝料はもっとも高額になります。
被害者の方が妊婦の場合、示談交渉や裁判で、加害者側の保険会社が提示してきた慰謝料額から増額させることが可能な場合があります。
また胎児が亡くなった場合でも慰謝料を受け取ることが可能です。
裁判例を含めて解説していきます。
目次
死亡事故の場合に何が請求できる?
交通死亡事故では、様々な損害が発生します。
本人の損害はもとより、ご家族にも損害が生じます。
では、どのよう損害を請求できるでしょうか。
死亡事故の場合に被害者の方のご遺族が加害者側にに請求できる主な項目は、大きく分けると次のようになります。
・逸失利益
・慰謝料
・弁護士費用(裁判をした場合)
逸失利益というのは、死亡しなければ、将来的に稼げたであろうお金です。
慰謝料は、精神的な損害で、本人分の慰謝料と近親者慰謝料があります。
弁護士費用については、被害者が依頼する弁護士の弁護士費用は、本来、被害者が負担するのですが、交通事故の損害賠償の裁判では、判決で、損害額の約10%について、被害者が負担すべき弁護士費用を加害者に対して支払を命じてくれます。
他にも、即死ではなく、治療の後に死亡した場合は、実際にかかった治療費、付添看護費、通院交通費等を請求することができます。
死亡事故における2種類の慰謝料
被害者本人の死亡慰謝料
慰謝料とは交通事故における損害項目のうちの1つで、交通事故によって受けた精神的苦痛に対する補償です。
死亡事故の慰謝料は、死亡した被害者が精神的苦痛を受けたとして被害者本人に発生し、それが、死亡によって相続人に承継されると考えられています。
近親者慰謝料
被害者本人の死亡慰謝料のほか、遺族固有の慰謝料も認められます。
近親者が、交通事故で死亡した場合には、遺族について精神的苦痛が生じます。その精神的苦痛に対する保証が近親者慰謝料です。
【参考記事】
【近親者慰謝料】交通事故の被害者のご家族が受け取ることができる慰謝料を解説
死亡事故の慰謝料の計算
慰謝料の計算基準については、自賠責基準、任意保険基準、裁判基準の3種類があります。
自賠責基準
自賠責保険は、自動車損害賠償保障法により、加入が義務づけられている強制保険です。
自賠責保険で支払われる金額は、以下のとおりです。
【被害者本人の慰謝料】
死亡した被害者本人の慰謝料は400万円です。
【遺族の慰謝料】
遺族の慰謝料は、被害者の父母・配偶者・子に認められており、請求する者の人数によって金額が異なります。
請求者が1名の場合は550万円、2名の時は650万円、3名以上の時は750万円となります。
自賠責保険は、人身事故の場合における最低限の保障を定める金額なので、この金額では、被害者が受けた損害を全て賄うことができません。そこで、多くの自動車所有者は、不足する損害を賄うために、任意保険に加入しています。
任意保険基準
任意保険基準は、自賠責基準よりは高い金額ですが、適正な金額である裁判基準よりは低い金額です。
特に決まった計算方法があるわけではなく、各保険会社が独自に定めています。
そして、示談交渉の際には、保険会社は、この任意保険基準かあるいは、場合によっては自賠責基準で示談金を提示してくる場合があります。
したがって、交通事故の示談交渉に入り、保険会社が示談金を提示していたら、それは、適正な金額だと思わないことが大切です。
特に、死亡事故は、示談金額も高額になりますので、示談金が妥当かどうか、必ず弁護士に相談するようにしましょう。
裁判基準
裁判基準は、裁判になったときに、裁判所が判決で認定する慰謝料の計算基準です。
自賠責基準や任意保険基準よりも高額の基準ですが、裁判基準により計算された慰謝料の金額が、本来遺族が受け取るべき適正な慰謝料の金額と言うことになります。
裁判基準の計算方法としては、被害者の家族における立場によって異なり、被害者が一家の支柱の場合には、2800万円、被害者が配偶者又は母親の場合には2500万円、その他の場合には、2000万円~2500万円の間で決定されます。
【参考記事】
【弁護士基準】交通事故の慰謝料をできるだけ高額で示談する方法とは?
慰謝料が相場より増額する場合
しかし、死亡慰謝料は、必ずこの相場の金額で決まるわけではありません。事情によっては、慰謝料額が相場より増額される場合があります。
例えば、加害者がひき逃げをして救護義務を怠った場合や、加害者が飲酒運転や信号無視をしたような場合には、交通事故の悪質性が高いといえます。
そのために、被害者が受ける精神的苦痛も大きいものと考え、慰謝料が相場より増額されて認められる場合があります。
また、被害者が嘘の供述をしていたり、不誠実な態度をしている場合にも、遺族側の精神的苦痛が大きいとして、慰謝料が相場の金額よりも増額される場合があります。
しかし、保険会社が、示談交渉において、自ら慰謝料を相場より増額するしてくれる事はまずありません。
慰謝料を相場より増額させるためには、裁判を起こし、裁判所によって認めてもらう必要があります。
したがって、まずは、慰謝料増額事由があるかどうかを判断しなければなりません。これは法律問題なので、被害者が自ら判断することは難しいと思いますので、慰謝料増額事由がありそうな場合には、弁護士に相談するのが良いでしょう。
そして、慰謝料増額事由がある場合には、裁判を起こす必要がありますので、交通事故に精通した弁護士を探すことが大切になってきます。
妊娠中の交通事故で慰謝料を増額した裁判例
裁判例その1
それでは、過去の裁判例の中から、妊娠中の被害者が、交通事故により死亡した事案において、裁判所が、慰謝料額を相場の金額よりも増額した裁判例についてご紹介します。
【交通事故の判決】
横浜地裁平成4年1月30日判決(自保ジャーナル980号・2頁)
【死亡事故】
【損害額合計】
7841万7918円
【慰謝料額】
慰謝料の相場金額は、当時の基準で2400万円のところ、慰謝料が増額され、合計3200万円が認められています。
本人分は認定されておらず、それぞれ固有の慰謝料として、夫に1500万円、子2人に各750万円、父母に各100万円が認められました。
なお、原告である子の1人は、本件事故により極小未熟児として出産された者です。
【交通事故の概要】
平成元年7月19日午前8時ころ、神奈川県の交差点において、被害者が横断歩道を横断歩行中、加害者がわき見運転をして被害者に気づかないまま、加害慰謝料である普通通貨物車を交差点に右折進行させたため、被害者と衝突し、被害者は事故の5日後、脳挫傷により死亡しました。
被害者は、事故当時30歳で公務員と主婦業を両立しており、妊娠中でした。
原告は、被害者の夫と子2人、両親の5名です。
原告が弁護士に依頼し、弁護士が代理人として提訴しました。
【判決のポイント】
本件交通事故では、以下の事情から、合計3200万円の死亡慰謝料を認めました。
①被害者は横断歩道を歩行していて何らの過失がなく、一方加害者にはわき見運転という重大な過失があること。
②被害者が事故当時妊娠しており、入院後、重体のまま帝王切開により、子を極小未熟児として分娩した後に、この世を去ったこと。
このように、慰謝料は、事情によっては相場より増額することがありますので、死亡事故のご遺族は、一度弁護士に相談してみましょう。
裁判例その2
大阪地裁平成28年3月23日判決(出典:自保ジャーナル・第1977号)です。
事案としては、無免許、居眠り運転事故で、妊娠中の女性が死亡した交通事故です。
裁判所は、上記の事情に加え、被害者は、原告らと幸せな家庭を築いていたのに、26歳の若さで妊娠中、約3ヶ月後の平成24年7月下旬に出産予定の胎児とともに、本件事故により何らの落ち度なくしてその生命を奪われた無念、愛する家族を突然失った原告らの悲嘆、原告子らの年齢等を考慮すると、原告らの精神的苦痛は甚大であるとしました。
そして、当時の慰謝料相場2400万円のところ、本人分2600万円、夫200万円、子2人合計200万円の合計3000万円の慰謝料を認めました。
【参考記事】
交通事故の慰謝料を相場金額以上に増額させる方法
胎児の死亡について母親に慰謝料を認めた裁判例
高松高裁平成4年9月17日判決(自動車保険ジャーナル・第994号)です。
事案としては、被害者が信号待ちの停車中の追突事故で、母親は、顔面切創、腰部打撲の傷
害だったのですが、出産予定日4日後に控えた胎児を死産してしまった交通事故です。
裁判所は、次のように判示して、胎児死亡による慰謝料として、母親に800万円の慰謝料を認めました。
右の事実によると、被控訴人花子が本件事故により精神的に多大の苦痛を被ったで
あろうことは容易に推察できるところであり、この苦痛を慰謝するには800万円を
もって相当と認める。
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代表社員 弁護士 谷原誠