交通事故で外傷性白内障による視力低下等で13級になり慰謝料増額した裁判例
目次
外傷性白内障とは
水晶体は、チン氏帯と呼ばれる細い糸によって眼球壁に固定されていますが、交通事故の衝撃により、水晶体を固定しているチン氏帯と呼ばれる細い糸の力が弱くなって水晶体亜脱臼を起こしたりなど、水晶体に傷ができ、白く濁って視力が低下することがあります。
これが外傷性白内障です。
濁りが進行すると、ぼやけてものが見えにくくなったりかすんだりする事が常態化し、場合によっては、失明する事もあります。
通常、白内障は、加齢性白内障がほとんどですが、外傷性白内障は、交通事故による衝撃によって、年齢に関係なく発症します。
治療をしても、場合によって、後遺症として「視力低下」「失明」等の後遺障害が起こる事もあります。
【参考記事】
「外傷性白内障」メディカルノート
失明(視力低下)の後遺障害等級
後遺症慰謝料は、自賠責後遺障害等級が何級かによってその計算方法が異なります。
自賠責後遺障害等級というものは、後遺症が残った場合に、その後遺症がどの程度重いものかどうかを判定するものです。
したがって、視力低下が、後遺障害等級の何級に回答するかということがとても重要になります。
失明や視力低下の後遺症が残った場合の後遺障害等級は、次のとおりとなります。
後遺障害等級1級1号(自賠法別表第2)
・両眼が失明したもの
・後遺症慰謝料 2800万円
後遺障害等級2級1号(自賠法別表第2)
・一眼が失明し、他眼の視力が0.02以下になったもの
・後遺症慰謝料 2370万円
後遺障害等級3級1号(自賠法別表第2)
・一眼が失明し、他眼の視力が0.06以下になったもの
・後遺症慰謝料 1990万円
後遺障害等級5級1号(自賠法別表第2)
・一眼が失明し、他眼の視力が0.1以下になったもの
・後遺症慰謝料 1400万円
後遺障害等級7級1号(自賠法別表第2)
・一眼が失明し、他眼の視力が0.6以下になったもの
・後遺症慰謝料 1000万円
後遺障害等級8級1号(自賠法別表第2)
・一眼が失明し、又は一眼の視力が0.02以下になったもの
・後遺症慰謝料 830万円
自賠責の後遺障害認定は、原則として、労災補償の災害補償の障害認定基準に準拠すべきとされています。
【参考記事】
労災保険における「眼(眼球及びまぶた)の障害に関する障害等級認定基準」厚生労働省
失明及びその他の眼の後遺障害とは
自賠責後遺障害等級認定でいう視力とは、矯正視力のことをいい、眼鏡による矯正と医学的に装用可能なコンタクトレンズによる矯正もしくは眼内レンズによる矯正が含まれます。
視力は、原則として、万国式試視力表によって測定されますが、例外も認められます。
失明
失明は、眼球を亡失(摘出)したもの、明暗を弁じ得ないもの、及びようやく明暗を弁ずることができる程度のものをいいます。
調節機能障害
調節機能とは眼に近い物体を見る馬合、毛様体の作用によって水晶体が膨らみ、その物体から来た光線が適当に屈折されて網膜に像を結ぶ機能のことを言います。
この機能に障害が残った場合が、調節機能障害です。
眼の調節機能障害の自賠責後遺障害等級は、以下のとおりです。
・第11級1号 両眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの
・第12級1号 1眼の眼球に著しい調節機能障害を残すもの
「眼球に著しい調節機能障害を残すもの」とは、調節力が通常の場合の2分の1以下に減じたものをいいます。
調節機能障害については、事故と調節機能障害との間の因果関係が争われることも多いです。
運動機能障害
「眼球に著しい運動障害を残すもの」とは、眼球の注視野の広さが2分の1に減じたものです。
注視野とは、頭部を固定し、眼球を運動させて直視することのできる範囲です。
運動機能障害による自賠責後遺障害等級は、以下のとおりです。
・第10級2号 正面を見た場合に複視の症状を残すもの
・第11級1号 両眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
・第12級1号 1眼の眼球に著しい運動障害を残すもの
・第13級2号 正面以外を見た場合に複視の症状を残すもの
複視
複視は、眼球の向きが同じ方に向かないために外界の像が左右眼の対応点でない部位に投影されて二重に見える状態です。
視野障害
視野とは、眼前の一点を見つめていて、同時に見ることができる外界の広さを言います。
これに障害が生じる場合が視野障害であり、半盲症、視野狭窄、視野変状があります。
視野障害の自賠責後遺障害等級は、以下のとおりです。
・第9級3号 両眼に半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
・第13級2号 1眼の半盲症、視野狭窄又は視野変状を残すもの
外傷性散瞳
散瞳とは、瞳孔の直径が開大して、対光反応が消失または減弱するものを言います。いわゆるまぶしい状態です。
流涙
涙が眼からあふれ出るようになる障害です。
1眼に常時涙流を残すものは14級、両眼に常時涙流を残すものは12級相当が認定されます。
まぶたの障害
まぶたに著しい欠損を残すもの、まぶたの一部に欠損を残すもの、があります。
また、まぶたの運動障害の後遺症もあります。
まつげはげ
まつげはげを残す後遺障害は、まつげの生えている周縁の2分の1以上にわたってまつげのはげを残す場合です。
【参考記事】
交通事故で失明した場合の後遺障害等級と解決事例集
みらい総合法律事務所の解決事例
32歳の男性が頭部や眼に障害を負いました。
被害者が自賠責後遺障害等級認定に申請したところ、頭部外傷に基づく脳挫傷痕で12級13号、失明と視力障害で8級1号、眼瞼運動障害で12級2号の併合7級が認定されました。
被害者は、後遺症が重いため、自力解決は困難と考え、みらい総合法律事務所に示談交渉を依頼しました。
弁護士が加害者側の保険会社と示談交渉をし、最終的に5500万円で示談解決したものです。
このように、失明の場合には、賠償額が多額になりがちですので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
【参考記事】
みらい総合法律事務所の解決実績はこちら
神経症状の自賠責後遺障害等級
自賠責後遺障害等級
神経症状の後遺障害等級は12級13号または14級9号が認定されることになります。
12級13号は、頑固な神経症状と言われるもので、高く所見により神経系統の障害が証明されるものをいいます。
14級9号の神経症状は神経系統の障害が医学的に推定される場合に出されます。
判断の材料となるのは自覚症状・他覚所見・画像等によります。
自覚症状は自分で自覚している症状のことです。
他覚所見は、様々なテスト、例えばジャクソンテストやスパーリングテストなどを行い異常所見があるかどうかを判定します。
画像というのはレントゲンやMRI画像ということになります。
そしてこの3つが医学的に整合しているかどうかを見ることになります。
神経症状を医学的に証明できる場合には12級が認定されることになります。
【参考情報】
国土交通省「自賠責後遺障害等級表」
神経症状で後遺障害が認められなかった裁判例
神経学的な症状を各種検査などによって、「医学的に証明できる」場合は12級、「医学的に説明できる」場合は14級となるが、その程度に達しない場合には非該当となります。
非該当となるのは、他覚的な神経学的所見(検査結果による異常)が認められない場合、痛みの発生箇所と神経根の支配領域が整合しない場合、事故の衝撃が軽微である場合などが考えられます。
東京地判平成13年4月11日(交民34巻2号497頁)
27歳公務員の男性の交通事故です。
自賠責後遺障害等級は非該当で、被害者は、裁判により、後遺障害を認めてもらおうとしました。
しかし、裁判所は、後遺障害を認めませんでした。
理由は、以下のとおりです。
後遺障害診断書には、傷病名「頸椎捻挫」、自覚症状「後頸部痛、上肢のしびれ感及び脱力感」、他覚症状等「X-P上骨傷はなし 明らかな神経学的所見なし」、「今後時間がたてば軽快していく見込みあり」と記載されている。
原告は、後遺障害認定手続をしたが、平成12年1月、頸椎捻挫に伴う自訴の症状は、症状の発症、将来の残存性を医学的に証明、説明することは困難であるとして後遺障害別等級表の後遺障害には該当しないと判断されたこと
その結果、頸椎捻挫については、「他覚的所見はなく、神経症状を医学的に証明し得るとはいえないし、医学的に説明可能な神経系統又は精神の障害を残すものとも認められない」としました。
札幌地判平成9年12月22日(交民30巻6号1810頁)
38歳男性の交通事故です。
自賠責後遺障害等級は非該当で、被害者は、裁判により、後遺障害を認めてもらおうとしました。
しかし、裁判所は、後遺障害を認めませんでした。
理由は、以下のとおりです。
他覚的神経学的所見は認められないこと
頸椎の変性所見は複数の椎間に認められるが、いずれも加齢によるものと考えられること
脊髄の圧迫所見がないこと
被害者が衝突の瞬間を認識している態様で発生したものであること
双方車両の損傷状況も凹損程度のものであったこと
から考えると、
被害者が本件事故により受けた衝撃は、それほど大きなものではなかったと推認されること
高血圧症が外傷を契機としたストレスによっても発症すること
等を総合し、本件事故により被害者に生じた傷害は、神経根症状に至らない程度の軽度の頸椎捻挫と、それに起因する症状からのストレスによる高血圧症であった。
その後の治療経過においても検査の結果神経学的所見はなかったこと
結局、被害者の症状については、他覚的所見が認められないことや本件事故による損害賠償の問題が未解決であることなどに対する不満、焦燥などが合わさって、心因的あるいは気質的要因により症状が残存し、治療が長期化したものである、としました。
視力低下と神経症状で慰謝料増額した裁判例
事案の概要
名古屋地裁平成19年4月25日判決(自動車保険ジャーナル・第1714号・6)
【後遺障害等級】
後遺障害等級併合13級
【損害額合計】
10,073,362円(治療費を除く)
【慰謝料額】
2,200,000円
【交通事故の概要】
平成12年11月21日午後9時20分ころ、名古屋市熱田区内の青信号の交差点を被害者が自転車で横断中、加害者の普通乗用自動車に衝突され転倒しました。被害者は、右肩、右膝、右腰臀部、右足関節、左手挫傷等の傷害を負い、平成15年2月19日に症状固定しました。
被害者の後遺障害は、外傷性白内障による右眼の視力低下について13級1号、左頬以外の顔面全体におけるしびれの神経症状について14級10号(現9号)、これらを併合して後遺障害等級併合13級に認定されました。
被害者は、交通事故当時49歳の女性で、主婦である。
被害者が弁護士に依頼し、弁護士が被害者の代理人として提訴した。
判決のポイント
相場の慰謝料額 1,800,000円
本件交通事故では、以下の事情から、2,200,000円の後遺症慰謝料を認めました。
・被害者の交通事故による後遺障害が、右眼の矯正視力が0.5となるという視力低下と左頬以外の顔面全体におけるしびれであり、後遺障害等級13級に認定されたという後遺障害の等級及び内容を考慮しました。
以上、交通事故で49歳の女性が右眼の視力低下等により後遺障害等級13級が認定された事案を、弁護士が解説しました。
交通事故で後遺障害等級13級が認定され、争いになった時は、弁護士にご相談ください。
代表社員 弁護士 谷原誠