嗅覚障害、味覚障害、高次脳機能障害による後遺障害等級併合4級で慰謝料増額した裁判例
高次脳機能障害
交通事故の被害を受けた場合には、様々な怪我を負うことになります。
交通事故で脳挫傷など脳に損傷を受けた場合に、高次脳機能障害の後遺症が残る場合があります。
高次脳機能障害とは、認知機能の働きに問題が生じた状態で、脳の血流障害や損傷の影響により生じます。
認知機能と言うのは、記憶、注意力、集中力といった思考判断の機能と、快・不快といった感情の動きを含めた精神機能の全体のことをいいます。
見た目ではわからないことも多く、それでも、身の回りのことを全くできない上大になることもあります。
【参考記事】
「高次脳機能障害を理解する」国立障害者リハビリテーションセンター
高次脳機能障害の自賠責後遺障害等級
高次脳機能障害の後遺症が残った場合には、以下の自賠責後遺障害等級が認定されることになります。
1級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」
① 食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を必要とする場合
② 高度の痴呆や情意の荒廃のため、常時監視を要する場合
2級1号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの」
① 食事・入浴・用便・更衣等が一人でできず、随時介護を要する場合
② 痴呆、情意の障害、幻覚、妄想、頻回の発作性意識障害等のため、随時監視を必要とする場合
③ 自宅内の日常生活動作は一応できるが、1人で外出することなどが困難であり、随時他人の介護を必要とする場合
3級3号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」
① 職場でコミュニケーションを図ることができない
② 仕事を手順どおり進めることができず、働くことができない
③ 集中力が維持できず、作業を終えることができまない
④ 突然、感情を爆発させたりするため、他の人と共同で働くことができない
5級2号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」
次のうち、ひとつ以上の能力の大部分が失われているか、あるいは半分程度が失われていることにより、正常に働くことができません。
① 職場で他の人とコミュニケーションを図る能力
②手順通りに仕事を進める能力
③ 集中して作業をする能力
④ 感情を制御する能力
7級4号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外に労務に服することができないもの」
9級10号「神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」
【参考情報】
2018年5月31日「自賠責保険における高次脳機能障害認定システムの充実について」(報告書)
嗅覚障害
嗅覚障害とは
鼻は、呼吸をするとともに、嗅覚を司る器官です。
嗅覚の障害は、次の4種類に分類されます。
(1)呼吸性嗅覚障害
嗅裂粘膜や鼻粘膜の膨張、嗅裂の分泌物充満その他の理由によって嗅素を運ぶ空気が嗅上皮に到達しない障害です。
(2)末梢神経性嗅覚障害
嗅粘膜に障害があるための嗅覚異常である嗅粘膜性嗅覚障害と、狭義の末梢神経性嗅覚障害とに分けられます。
(3)混合性嗅覚障害
呼吸性嗅覚障害と末梢神経性嗅覚障害が混合した障害です。
(4)中枢神経性嗅覚障害
嗅球及びそれより中枢までの障害です。
嗅覚障害の後遺障害等級
鼻の障害としては、9級5号に「鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの」と定められています。
鼻の欠損を伴わない後遺障害には、嗅覚脱失と嗅覚減退があります。
嗅覚脱失とは嗅覚が完全になくなることを言い、嗅覚減退とは、嗅覚の機能が減少したことをいいます。
嗅覚脱出した場合には、12級相当、鼻呼吸困難で12級相当、嗅覚減退で14級相当が認定されます。
嗅覚の脱失・減退についての検査は、T&Tオルファクトメータで行われます。
但し、嗅覚脱失については、アリナミン静脈注射(「アリナミンF」を除く)による静脈性嗅覚検査による検査所見のみによって確認しても差し支えないとされています。
嗅覚障害と逸失利益
交通事故で後遺障害が残存した場合は、逸失利益を請求することができます。
これは、後遺障害が残ることによって、労働に支障が出てしまい、そのために、交通事故がなかったならば稼げたであろうお金を稼げなくなることによる補償です。
自賠責後遺障害等級によって計算されることになります。
嗅覚障害も後遺障害なのですが、嗅覚が労働に影響が出る職業というのは限定的です。
そこで、嗅覚障害の場合には、逸失利益について争われることが多くあります。
裁判例を紹介します。
交通事故により、頭部顔面打撲裂創、頭蓋骨骨折、脳挫傷、外傷性くも膜下出血、等の傷害を負いました。
自賠責後遺障害等級は、併合12級(嗅覚脱失12級、頭痛等14級)です。
標準労働能力喪失率は、14%です。
裁判所は、原告が、嗅覚脱失により溶剤の区別がつかなくなったことや目眩のため高所での作業ができなくなる等したこともあって会社を退職したことの事情に照らせば、嗅覚障害が労働能力に少なからず影響を及ぼしていることは明らかであり、目眩、頭痛、背中や肩のこり、手足のしびれ等の症状もあることを考慮し、等級通り、労働能力喪失率14%を認めました。
みらい総合法律事務所の解決事例
46歳女性が交通事故により、嗅覚脱失の後遺症が残り、自賠責後遺障害等級12級が認定されました。
保険会社は、被害者に対し、示談金として、89万3400円を提示しました。
被害者がみらい総合法律事務所に示談交渉を依頼し、弁護士が交渉したところ、最終的には984万9623円で解決しました。
保険会社提示額の約11倍に増額したことになります。
味覚障害
味覚脱失の後遺障害等級
味覚障害には、味覚の脱失と味覚の減退があります。
味覚脱失とは、頭部や周辺組織の損傷や舌の損傷によって、味覚が全く感じられない後遺障害います。
味覚減退とは、味覚のうち1つの味覚以上が全くわからなくなる障害を言います。
自賠責後遺障害等級としては、味覚脱失で12級、味覚減退で14級が認定されることになります。
みらい総合法律事務所の解決事例
49歳女性が交通事故により、味覚脱失、嗅覚脱失の後遺症が残り、自賠責後遺障害等級12級が認定されました。
保険会社は、被害者に対し、示談金として、276万2570円を提示しました。
被害者がみらい総合法律事務所に示談交渉を依頼し、弁護士が交渉したところ、最終的には800万円で解決しました。
保険会社提示額の約2.9倍に増額したことになります。
【参考記事】
みらい総合法律事務所の解決実績はこちら
高次脳機能障害、嗅覚障害、味覚障害で慰謝料を増額した裁判例
それでは、高次脳機能障害、嗅覚障害、味覚障害、これらを併合して後遺障害等級併合4級に認定された事案で、慰謝料が相場より増額された裁判例を紹介します。
事案の概要
【交通事故の判決】
京都地裁 平成17年12月15日判決(自動車保険ジャーナル・第1632号・5)
【後遺障害等級】
後遺障害等級併合4級
【慰謝料額】
合計19,000,000円
後遺症慰謝料の本人分として、17,000,000円
近親者(被害者の妻)に、2,000,000円
【交通事故の概要】
平成14年2月18日午後7時35分ころ、滋賀県大津市内の幹線道路の交差点の横断歩道を被害者が歩行横断中、左折してきた加害者の大型バスに衝突しました。
被害者は、左頭頂骨骨折、脳挫傷、急性硬膜下血腫、外傷性クモ膜下出血、急性硬膜外血腫、外傷性てんかん、頸椎椎間板ヘルニア、聴力障害等の傷害を負い、平成15年6月19日に症状固定しました。
被害者には、記憶障害、記銘力障害、地誌的障害、遂行機能障害、注意障害、情動・人格障害等の高次脳機能障害、及び嗅覚障害、味覚障害の症状が残り、高次脳機能障害について5級2号、嗅覚障害について12級相当、味覚障害について12級相当、これらを併合して後遺障害等級併合4級に認定されました。
被害者は、交通事故当時43歳の男性で、デザインの嘱託社員です。
原告は、被害者、被害者の妻です。
被害者らが弁護士に依頼し、弁護士が被害者らを代理して訴訟提起しました。
判決のポイント
慰謝料相場金額は、1670万円です。
本件交通事故では、以下の事情から、合計で、19,000,000円の後遺症慰謝料を認めました。
被害者は、高次脳機能障害の後遺障害を負い、高次脳機能障害の特性である易怒性のため、見知らぬ人を突き飛ばしたり、怒鳴りつけたりするなどすることもあり、病識の欠如のために自己矯正も困難な状況にあるため、被害者の妻は、人格が大きく変化した被害者の介助を強いられ、相当な精神的負担を負う状況に置かれていること。
このように、事情によっては、慰謝料が相場の金額から増額することがありますので、同じような事情がある場合には、弁護士に相談するようにしましょう。
代表社員 弁護士 谷原誠