自転車事故の過失割合と解決事例
目次
近年、自転車の危険運転や自転車が関わる交通事故が問題になっています。
ここでポイントとなるのは過失割合、そして慰謝料など損害賠償金などに関する問題です。
というのは、これらが原因となり、加害者側との示談交渉でもめてしまったり、慰謝料などの損害賠償金を低く見積もられ、いつまでも示談解決しないということが起きがちだからです。
そこで本記事では、被害者の方が自転車に乗っていた場合を中心に、自転車事故での慰謝料の適正な相場金額、増額方法、示談交渉での注意ポイントなどを解説していきます。
交通事故の過失割合の重要ポイント4つ
交通事故で過失割合が重要な理由
過失割合とは、交通事故の発生と損害の拡大について、加害者側と被害者側それぞれの過失(責任)の割合を表したものです。
たとえば、慰謝料額が1000万円で、加害者の過失70%、被害者の過失30%の場合、
過失相殺分:1000万円×0.3=300万円
被害者の方が受け取る金額:1000万円
-300万円=700万円
となり、被害者の方が受け取る金額が大きく減額されてしまうわけです。
保険会社が被害者の過失割合を大きく主張してくる理由
加害者が任意保険に加入していれば、その保険会社から慰謝料や逸失利益などの損害賠償金の提示があります。
その金額について、被害者の方が納得がいかなければ示談交渉をしていくわけですが、その相手は加害者側の保険会社になります。
ところで保険会社は、本来であれば被害者の方が受け取ることができる金額よりも低い金額を提示してくることをご存じでしょうか?
株式会社である保険会社は営利企業ですから、利益を上げるために運営されています。
そのため、適正金額よりも2分の1、3分の1,さらにはもっと低い金額を提示してくることすらあります。
単純にいうと、こういうことなのですが、これが交通事故の損害賠償実務の現実なのです。
過失割合を決めているのは誰なのか?
ところで、過失割合は誰が、どうやって決めているのでしょうか?
交通事故の損害賠償では、加害者が任意保険に加入していれば、その保険会社から慰謝料などの損害賠償金が提示されます。
この時、過失割合や金額に納得がいかなければ示談交渉を開始、という流れで進行していきます。
ここで過失割合を決めているのは誰なのかというと…保険会社が自分たちの見解に基づいて提示しているということになります。
警察には民事不介入のルールがあります。
また、検察は刑事事件として加害者を起訴するかどうかを決めるので、民事における交通事故の過失割合には関わらないのです。
ただし、保険会社が主張してくる過失割合は法的に正しいというものではなく、自分たちの都合、判断で言っているだけです。
ですから、最終的には被害者側と加害者側双方の話し合いによって過失割合は決まることになります。
提示された過失割合を正しいと思ってはいけない
「保険会社が言うのだから、過失割合というのは正しいのだろう…」
そんなふうに思っていませんか?
じつは、加害者側の保険会社が主張してくる過失割合は正しいとはかぎりません。
過失割合には一定の基準があり、裁判所、弁護士、保険会社はすべて同じ基準により算定します。
しかし、それぞれの立場によって見解は異なります。
保険会社は自らが支払う慰謝料額をできるだけ低く抑えるため、被害者の方の過失割合をできるだけ高く見積もってきます。
被害者の方やご遺族から依頼を受けた弁護士は、過失割合の基準をもとに被害者の方にとって適切な割合を算定し、主張していきます。
裁判になった場合、裁判所は公正な立場から過失割合を導いていきます。
ですから、被害者の方は不当に高い過失割合で示談してしまわないように、過失割合の知識を身につけることが大切なのです。
自転車事故の現状を知る
警視庁の統計データ(2020年)によると、自転車が関わる交通事故の件数は6万7673件で、交通事故全体に占める割合は21.9%となっています。
東京都で見てみると、交通事故全体に占める割合は40.6%にも及んでいます。
この数字をどう感じるでしょうか? 多いと感じるでしょうか? 少ないと思うでしょうか?
いずれにせよ、毎年多くの方が自転車事故の被害者になっているという現実があるのです。
自転車は多くの人が日常的に使うものですから、自転車と車の交通事故は、他人事ではない、ともいえるでしょう。
万が一、自転車で交通事故にあった場合、被害者の方としては泣き寝入りなどせず、適切な過失割合、慰謝料や逸失利益などの損害賠償金額を知り、示談交渉を行なっていくことが大切です。
自転車と車の交通事故の過失割合について
ここでは交通事故の態様、状況別に基本となる過失割合について解説します。
直進車同士の交差点での出合い頭の事故の場合
自転車と車の事故でもっとも多いのが、出合い頭によるものです。
交差点での事故では信号があるかないかで過失割合が変わってきます。
信号がある交差点での事故
自転車の進行方向が青(自動車側は赤)の場合の過失割合 | 自転車0対車100 |
---|---|
自転車の進行方向が黄(自動車側は赤)の場合の過失割合 | 自転車10対車90 |
自転車の進行方向が赤(自動車側は赤)の場合の過失割合 | 自転車30対車70 |
自転車の進行方向が赤(自動車側は黄)の場合の過失割合 | 自転車60対車40 |
自転車の進行方向が赤(自動車側は青)の場合の過失割合 | 自転車80対車20 |
信号がない交差点での事故
道幅が双方とも同程度の場合の過失割合 | 自転車20対車80 |
---|---|
車側の道幅が広い場合の過失割合 | 自転車30対車70 |
自転車側の道幅が広い場合の過失割合 | 自転車10対車90 |
自転車側に一時停止規制がある場合の過失割合 | 自転車60対車40 |
車側に一時停止規制がある場合の過失割合 | 自転車10対車90 |
自転車側が優先道路の場合の過失割合 | 自転車10対車90 |
車側が優先道路の場合の過失割合 | 自転車50対車50 |
自転車側が一方通行違反をした場合の過失割合 | 自転車50対車50 |
右折車と直進車の交差点での事故の場合
※双方の道幅が同程度の道路が交差しており、信号がない交差点
自転車と車の双方が対向車線から交差点に進入
自転車側が直進、車側が右折の場合の過失割合 | 自転車10対車90 |
---|---|
車側が直進、自転車側が右折の場合の過失割合 | 自転車50対車50 |
右折車とその道路との交差道路の直進車が出合い頭で衝突
自転車側が直進、車側が右折の場合の過失割合 | 自転車20対車80 |
---|---|
車側が直進、自転車側が右折の場合の過失割合 | 自転車30対車70 |
横断歩道での事故の場合
※自転車が横断歩道を渡っており、車が横断歩道を通過
直進車が横断歩道に進入した場合
自転車の進行方向(横断歩道)が青(自動車側は赤)の場合の過失割合 | 自転車0対車100 |
---|---|
自転車の進行方向(横断歩道)が青点滅(自動車側は赤)の場合の過失割合 | 自転車10対車90 |
自転車の進行方向(横断歩道)が赤(自動車側は赤)の場合の過失割合 | 自転車25対車75 |
自転車の進行方向(横断歩道)が赤(自動車側は黄)の場合の過失割合 | 自転車55対車45 |
自転車の進行方向(横断歩道)が赤(自動車側は青)の場合の過失割合 | 自転車75対車25 |
車が右折で横断歩道に進入した場合
自転車の進行方向(横断歩道)が青(自動車側は青)の場合の過失割合 | 自転車10対車90 |
---|---|
自転車の進行方向(横断歩道)が青(自動車側は赤)の場合の過失割合 | 自転車60対車40 |
進路変更時の事故の場合
※前方者が進路変更をしたため後続車が衝突
車側が進路変更した場合の過失割合 | 自転車10対車90 |
---|---|
自転車側が進路変更した場合の過失割合 | 自転車20対車80 |
自転車側が障害物を避けるために進路変更した場合の過失割合 | 自転車10対車90 |
自転車側の過失が0(ゼロ)になる事故
自動車対自転車の事故の場合では、通常、自転車のほうが過失割合が小さくなる傾向があります。
しかし、自転車は道路交通法上、軽車両であり、一定の危険もともないます。
そのため、自転車側の過失が0(ゼロ)と判断されるケースは、じつはそれほど多くはないというのが現実です。
ただし、次のようなケースでは自転車の過失が0と判断されます。
自動車が自転車を追い越して左折
状況:信号機のない交差点の手前で、自動車が自転車を追い越し、その後、左折した際に衝突
ポイント:自動車が自転車より先行していた場合は、自転車は注意しなければいけないところを怠った、として自転車の過失が認められます。
対向車が車線をはみ出し衝突
状況:対向してきた自動車がセンターラインを越えて自転車と衝突
<コラム:自転車同士の事故の場合はどう判断する?>
自転車同士の事故については、日弁連交通事故相談センターから「試案」という形で事故状況の分類や過失割合について参考にできる基準が公表されています。
「自転車同士の事故で過失割合が100対0になる例」
青信号で進行した自転車と赤信号で進行した自転車が接触 | 赤信号の自転車が過失100 |
---|---|
後続車が先行車を追い抜くために並走状態となり接触 | 後続の自転車が過失100 |
後続車が先行車を追い抜いた後に先行車の進路上に出て接触 | 後続の自転車が過失100 |
過失割合を下げるには修正要素が重要
被害者の方としては、やはり過失割合を少しでも低くしたいと考えるでしょう。
その際、重要なのが「修正要素」です。
自転車対自動車の交通事故では、前述した過失割合はあくまでも基準であり、絶対にその割合になるわけではありません。
実際の損害賠償実務では、次のようなさまざまな「修正要素」が考慮され、最終的に判断されます。
加害者側(自動車)に過失が加算される場合の例
自動車の著しい過失・重過失
自動車が大型車
自動車の速度超過
自動車のウィンカーなし
住宅地・商店街の交通事故
被害者が児童・高齢者
被害者が自転車横断帯・横断歩道通行中
※児童(13歳未満)や高齢者が自転車を運転していた場合は、判断能力が低いことなどが考慮され、自転車側の過失が減らされる。
被害者側(自転車)に過失が加算される場合の例
夜間の交通事故
見通しの悪い交差点での交通事故
自転車の著しい過失・重過失
直近左右折
早回り左右折
大回り左右折
※夜間の事故では、自転車を見つけにくい状況だったことが考慮され、自転車側の過失が増やされる。
<コラム:過失と重過失とは?>
著しい過失とは、通常の限度を超えるような過失のことで、それよりさらに重い過失を重過失といいます。
重過失は過失というよりも、故意と同視されるようなものになります。
「著しい過失の例」
・酒気帯び運転
・15~30km/h程度の速度超過
・運転中のスマートフォンなどの使用
・脇見運転
・ハンドル、ブレーキ等の不適切な操作
・一般道路でのヘルメットの付着用(二輪車の場合) など
「重過失の例」
・酒酔い運転
・居眠り運転
・無免許運転
・30km/h以上の速度超過
・危険な体勢での運転(二輪車の場合)
・高速道路でのヘルメットの付着用(二輪車の場合) など
自転車の交通事故で知っておきたいポイント
自転車事故は判例が少ないため過失割合でもめやすい
そもそも交通事故では過失割合が争点となり、過失相殺で被害者と加害者がもめてしまうケースが多くあります。
弁護士が被害者の方の代理人となり加害者側の任意保険会社と示談交渉をする場合や、裁判で争う場合、過失割合について前述したような、これまでの判例をもとに設定された「事故類型別の基本の過失割合」に、それぞれの細かい事故状況を反映させながら最終的には決定されます。
自転車が関わる交通事故の場合も同じように判断していくのですが、自転車事故については判例がまだ少ないため、示談解決まで時間がかかる場合もあります。
自転車側が加害者で保険に未加入だと示談交渉が進まない
自動車の場合、自賠責保険への加入が義務づけられていますが、自転車の保険はまだ一部の自治体でのみ加入が義務づけられている状況です。
自転車保険の加入義務を定めている自治体では違反すると条例違反になりますが、罰則はないため、いまだ加入者は少ないのが現状です。
そうすると、自転車側が加害者になってしまった場合では、加害者自らが示談交渉を行なわなければいけないため、示談交渉がなかなか進まないということが起きてきます。
さらには、被害者としては慰謝料などの損害賠償金(保険金)が支払われないという可能性もあるのです。
自転車事故で被害にあった場合は、ご自身で示談交渉に挑むより、弁護士に依頼したほうがスムーズに進みますし、最終的には慰謝料などの損害賠償金が増額する可能性が高くなります。
みらい総合法律事務所の慰謝料増額解決事例
最後に、みらい総合法律事務所で実際に解決した慰謝料などの解決事例をご紹介します。
今後の示談交渉の参考になると思います。
17歳の女性が自転車に乗っていた際、飲酒で脇見運転の自動車に衝突された死亡事故。
ご遺族は地元の弁護士に依頼し、弁護士が加害者側の任意保険会社と交渉したところ、示談金は約5893万円になりました。
弁護士から、「裁判になると金額が下がる可能性があるので、ここで示談を成立させたらどうか」という提案があったため、ご遺族がセカンドオピニオンで、みらい総合法律事務所に相談。
みらい総合法律事務所の弁護士の見解は「増額可能」というものだったため、正式に依頼し、提訴して裁判に突入しました。
最終的には慰謝料を相場より増額させることができ、約3000万円増額の約8835万円で解決した事例です。
増額事例②:49歳女性の自転車事故で慰謝料等が約2.5倍に増額
49歳の女性が集荷業務中に自転車に衝突された交通事故。
右前十字靭帯損傷などのケガを負い、関節可動域制限などの後遺症が残り、後遺障害等級12級7号が認定されました。
加害者側の任意保険会社の提示金額は約283万円。
納得がいかなかった被害者の方が、みらい総合法律事務所の無料相談を利用し、そのまま示談交渉を依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉したところ、最終的には700万円まで増額。
当初提示額から約2.5倍に増額したことになります。
増額事例③:15歳女性の自転車事故で慰謝料等が約4.7倍に増額
15歳女性が自転車で二人乗りをしていた際に転倒した交通事故。
脳挫傷、頭蓋底骨折などのケガを負い、後遺障害等級は12級13号が認定されました。
保険会社は示談金として約199万円を提示しましたが、この金額が正しいものかどうか判断できなかった被害者のご両親が、みらい総合法律事務所の無料相談を利用。
そこで依頼された弁護士が保険会社と交渉したところ、最終的に約935万円で解決した事例です。
当初提示額から約4.7倍に増額したことになります。
15歳の男性が自転車で交差点に進入したところ、直進してきた自動車に衝突された交通事故。
脳挫傷などのため脳に障害が残ってしまい、後遺障害等級は2級1号が認定されました。
障害が非常に重いこともあり、ご両親は自分たちでは解決できないと考え、みらい総合法律事務所に交渉を依頼。
加害者側の保険会社は将来介護費用の支払いを拒否してきましたが、弁護士が粘り強く交渉し、最終的には1億1900万円で示談解決した事例です。
代表社員 弁護士 谷原誠