交通事故の示談でよくあるQ&A
目次
「交通事故の示談交渉はもめる」という話を聞いたことがあるでしょうか?
交通事故の被害者の方は、慰謝料や治療費、逸失利益などさまざまな損額項目について損害賠償金を受け取ることができます。
段取りとしては、まず加害者が任意保険に加入している場合は、その保険会社から金額の提示があります。
この金額に納得がいけば、示談成立となり交渉には進みません。
しかし、ここで2つの大きな問題があります。
まず通常、保険会社の提示額はかなり低いことが問題です。
そのため、金額に納得がいかない場合は示談交渉が開始されます。
そしてさらに、この示談交渉はもめることが多いのも問題となります。
なぜもめるかといえば、示談交渉で被害者の方が慰謝料などの増額を求めても、保険会社がそれに応じることはまずない、という現実があるからです。
そこで本記事では、被害者の方が示談交渉にどう対処していけばいいのか、について被害者の方から寄せられる「よくある質問」にQ&A形式で解説していきたいと思います。
これから、交通事故の示談に関する質問にQ&A形式で解説していきますが、その前に交通事故解決までの全プロセスを説明した無料小冊子をダウンロードしておきましょう。
Q)交通事故の示談とはどういうものですか? 何をするのでしょうか?
人生で初めて交通事故の被害にあいまして、まだ心が落ち着いていません。
現在、通院しながら治療を受けていますが今後、示談というものが必要だということを知りました。
示談では何をするのでしょうか?
A)示談とは、交通事故の損害賠償問題について被害者と加害者の双方で話し合いによって解決することです。
交通事故では次のことが問題になります。
- ・その交通事故により、どのような損害が生じたのか
- ・損害額はいくらになるのか
- ・支払い方法はどのようにするのか
これらについて、民事上の裁判によらず、被害者と加害者双方の話し合いによって合意して、解決することを示談とをいいます。(民法第695条)
示談は、法律的には民法での「和解」にあたります。
白黒をつけるとか、勝ち負けを決めるというものではないということです。
なお、加害者が任意保険に加入している場合、示談交渉の相手はその保険会社になります。
Q)交通事故の示談解決までに、どのような手続きが必要なのでしょうか?
交通事故で負ったケガの治療のため現在、入院中です。
今後、被害者にとってどのような手続きが必要なのか、交通事故の全体の流れを教えてください。
A)交通事故発生から示談解決までには、さまざまな手続きが必要になってきます。
ここでは、チャート図で「見える化」してみました。
全体の流れを大まかに分けて考えると、次の5つの段階があります。
- ①事故後の処理
- ②ケガの治療
- ③後遺障害等級の申請と認定
- ④示談交渉
- ⑤示談が決裂した場合の裁判
Q)示談交渉は、いつ始めるのがいいのでしょうか?
交通事故の被害にあい、現在は通院中です。
なるべく、すぐに交渉を始めて、早く示談をしてしまいたいと思っているのですが、いつ始めればいいのでしょうか?
A)示談交渉を始める時期は、ケガの場合は症状固定後に、ご自身の後遺障害等級が認定されてから。
死亡事故の場合、通常は四十九日を過ぎて加害者側の任意保険会社から示談金額の提示があってから示談交渉を始めます。
<被害者の方が傷害(ケガ)を負った場合>
ケガの場合、重要になってくるのが「症状固定」と「後遺障害等級認定」です。
1.症状固定とは?
入院・通院をして治療を受けたものの、これ以上の回復は見込めない、完治は難しいとなった場合、主治医から症状固定の診断を受けます。
症状固定後、被害者の方には後遺症が残ってしまうことになります。
2.後遺障害等級認定が大切な理由
被害者の方に後遺症が残ってしまった場合は、後遺障害等級認定の申請をします。
後遺症に次の要件が求められると、後遺障害と認められます。
・交通事故が原因であると医学的に証明されること |
・労働能力の低下や喪失が認められること |
・その程度が自動車損害賠償保障法(自賠法)で定める後遺障害等級に該当すること |
では、なぜ後遺障害等級が大切かというと、加害者側の任意保険会社が、被害者の方の慰謝料や逸失利益などを計算し、損害賠償金を提示するには、被害者の方の後遺障害等級が必要だからです。
なお、後遺障害等級は1級から14級まであり、もっとも障害が重度なものが1級になります。
また、障害が残った身体の部位などの違いによって各号数が定められています。
参考情報:「自賠責保険(共済)の限度額と保障内容」(国土交通省)
慰謝料には、①「入通院慰謝料(傷害慰謝料)」、②「後遺障害慰謝料」、③「死亡慰謝料」、④「近親者慰謝料」の4つがあります。
傷害(ケガ)を負って入通院した場合は入通院慰謝料(傷害慰謝料)を受け取ることができますが、後遺障害等級が認定されると、より金額の大きな後遺障害慰謝料に切り替わります。
後遺障害慰謝料は認定された等級によって金額が変わってくるので、加害者側の任意保険会社は等級が決まって初めて、損害賠償金の算定ができるのです。
<被害者の方が亡くなった場合>
交通死亡事故の場合、被害者の方の四十九日が過ぎると、加害者側の任意保険会社から示談金の提示があることが通常なので、金額に納得がいかなければ示談交渉を開始します。
注意していただきたいのは、加害者の刑事裁判の判決が出る前に示談を成立させてしまうことです。
そうすると裁判で、「加害者は一定の弁済を被害者側にしたので、遺族の被害者感情はやわらいでいる」と判断されて、量刑が軽くなってしまうことがあるのです。
ですから、刑事事件の判決が出るまでは示談交渉はしない、又は、刑事事件の判決が出てから示談を成立させる、あるいは交渉が決裂したなら訴訟を提起して裁判に進むのがいいでしょう。
Q)示談に関わる損害項目を教えてください。
加害者側と示談をするにも、どういった損害項目があるのか知らなければいけないと思い、勉強しようと思っています。
慰謝料などの他に、どういった項目があるのでしょうか?
A)被害者の方、ご遺族が受け取ることができる損害賠償項目はさまざまありますが、大きく3つに分けることができます。
1.入通院に関連する損害
入通院をして、傷害(ケガ)の治療をした場合に受け取ることができる損害項目には次のようなものがあります。
- ・治療関係費(手術費、治療費、薬品代など)
- ・付添費
- ・入院雑費
- ・休業損害
- ・入通院慰謝料
- ・交通費 など
2.後遺障害による損害
後遺障害が残った場合に受け取ることができる損害項目は次のとおりです。
- ・将来介護費
- ・後遺障害慰謝料
- ・後遺障害逸失利益
- ・家屋・自動車等の改造費 など
3.死亡事故の損害
- ・死亡慰謝料
- ・死亡逸失利益
- ・葬儀関係費
- ・弁護士費用 など
上記のように、慰謝料というのは1つではないことを覚えておいてください。
なお、示談金の他に損害賠償金、保険金がありますが、これら3つはどの立場から見るかによって表現が変わるだけで、同じものになります。
「損害賠償金」
被害者の方から見た場合、交通事故で被った損害を加害者側から金銭で賠償してもらうもの。
「示談金」
被害者側と加害者側(保険会社)の示談によって賠償金額が合意されるもの。
「保険金」
加害者側の任意保険会社の立場から見た場合、加害者との保険契約に基づいて被害者の方に支払うもの。
Q)示談成立までには、どのくらいの期間がかかるものなのでしょうか?
交通事故の被害者です。
示談交渉に入ったのですが、先が見えない不安があります。
示談交渉を終えるまでには、どのくらいの期間がかかるものなのでしょうか?
A)一定の決まった期間というものはありません。
ケースバイケースなのですが、目安となる期間について表にまとめてみました。
<示談成立までの期間>
物損事故 | 交通事故発生日から2~3か月 |
---|---|
後遺障害のない人身事故 | 治療終了(症状固定)から半年程度 |
後遺障害がある人身事故 | 後遺障害等級の認定から半年~1年程度 | 死亡事故 | 葬儀・相続確定後から半年~1年程度 |
上記の期間を超えるとすれば、示談成立までに時間がかかっていると考えていいでしょう。
Q)示談交渉がもめてしまう原因は何ですか?
交通事故被害の経験のある知人から、「示談交渉は、もめることも多く、なかなか進まない」と聞きました。
もめる原因は何なのでしょうか?
A)基本的には、加害者側の任意保険会社の提示金額が少なすぎるからです。
その理由について詳しくお話ししていきます。
保険会社というのは営利法人ですから、利益を上げることが至上命題です。
被害者の方に支払う示談金(損害賠償金)は、保険会社にとってはマイナスとなる支出なので、当然この金額を低く抑えようとするわけです。
では、加害者側の任意保険会社はどのような理由で慰謝料などの損害賠償金を低く見積もってくるのでしょうか?
1.保険会社が低い支払い(計算)基準を使ってくる
慰謝料などの計算では、次の3つの基準が使われています。
任意保険基準:自賠責基準より少し金額が高くなる程度
弁護士(裁判)基準:もっとも金額が高くなる(これが被害者の方が受け取るべき金額)
ここで注意が必要なのは、加害者側の任意保険会社は、自賠責基準か任意保険基準で計算した低い金額を提示して、「これが適正金額です」「当社の支払限度ギリギリです」などと言ってくるケースが多いことです。
しかし本来、被害者の方が受け取るべきなのは、弁護士(裁判)基準で計算した金額ですから、これを主張して、保険会社に認めさせなければ、損害賠償金の増額は実現しないのです。
2.保険会社が被害者の過失割合を高く主張してくる
その交通事故が発生した責任(過失)の割合のことを過失割合といいます。
通常、過失割合は「加害者70対被害者30」といったように表現されます。
被害者の方の過失割合が大きくなれば、さらにその分が減額されてしまい、受け取る損害賠償金が減らされてしまいます。
被害者と加害者双方の過失割合によって損害賠償金額をプラス・マイナスすることを「過失相殺」といいます。
加害者側の任意保険会社は、被害者の方の過失割合を高く主張してくることがあるので注意が必要です。
3.保険会社が被害者の逸失利益を低く主張してくる
交通事故で被った傷害(ケガ)のために後遺障害が残ってしまうと、以前のように働くことができなくなってしまいます。
そこで、将来的に得られなくなった収入(利益)を逸失利益といいます。
逸失利益は、将来に渡る収入分ですから金額が大きくなります。
そのため保険会社は、被害者の方の逸失利益を低く見積もってくることがあるのです。
4.保険会社・担当者の態度・対応が悪い⇒二次被害
以前から問題になっているのが、被害者の方やご遺族に対する保険会社の対応の悪さです。
たとえば、次のような事例が報告されています。
- ・「被害者は助かるはずがなかった」として医療費の支払いを拒否。
- ・被害者の方が提訴するまでに時間がかかったことに対して「遅延金目当てだ」と発言。
- ・裁判で保険会社側が、ありえない荒唐無稽な主張をしてきた。
保険会社のこうした対応・態度のために、被害者の方やご家族が二次被害ともいえる精神的苦痛を味わい、示談を拒否するケースもあります。
ところで、被害者の方が示談を拒否し続けるとどうなるのでしょうか?
じつは「消滅時効」が成立してしまい、被害者の方やご遺族が損害賠償金を1円も受け取ることができなくなってしまうなどのデメリットもあるので注意してください。
<損害賠償請求権の消滅時効>
物損事故の損害 | 事故発生日の翌日から3年 |
---|---|
人身事故の損害 (後遺障害なしの傷害(ケガ)の場合) |
事故発生日の翌日から5年 |
人身事故の損害 | 症状固定日の翌日から5年 | 死亡事故の損害 | 死亡した時の翌日から5年 |
加害者が不明の事故による損害 | 事故発生日の翌日から20年 |
その後に加害者が判明した場合 | 物損事故は判明した時の翌日から3年 人身事故は判明した時の翌日から5年 |
消滅時効を成立させないための方法などについては一度、弁護士に相談してみることをおすすめします。
・慰謝料に関する3つの計算基準。弁護士解説。
・示談金が減額される「過失相殺」とは?
・相場以上の逸失利益を獲得する方法。弁護士解説
Q)示談金の相場金額はあるのでしょうか? あれば教えてください。
現在、加害者側の任意保険会社と示談交渉中なのですが、実際のところ慰謝料などの示談金をいくらで示談すればいいのかわかりません。
示談金の相場金額を教えてください。
A)交通事故の態様はさまざまで、1つとして同じものはありません。
また、被害者の方が受け取ることができる損害項目はさまざまあるため、示談金(損害賠償金)の明確な相場金額というのはありません。
ただし前述したように、慰謝料などは弁護士(裁判)基準で計算した金額が、本来であれば被害者の方が受け取るべき金額になるので、これが相場金額とえいます。
ここでは、後遺障害慰謝料と死亡慰謝料の相場金額について表にまとめてみたので参考にしてください。
<自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の金額表>
弁護士(裁判)基準と自賠責基準の金額の違いは明白です。
<弁護士(裁判)基準による死亡慰謝料の相場金額早見表>
被害者の状況 | 死亡慰謝料の目安 (近親者への支払い分を含む) |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 | 母親、配偶者 | 2500万円 |
独身の男女、子供、幼児等 | 2000万円~2500万円 |
Q)示談交渉で気をつけるべきポイントを教えてください。
加害者側の保険会社が提示してきた示談金額に納得がいきません。
これから示談交渉をしようと思いますが、注意するべきポイントについて教えてください。
A)まずは、加害者側の保険会社の言うことをそのまま信じてはいけません。
そのうえで、注意するべきポイントについて簡潔にお話ししていきます。
<被害者の方が気をつけるべき示談交渉のポイント>
1.加害者側の任意保険会社の言い分・提示金額を信じてはいけない
前述したように、加害者側の任意保険会社は示談金を低くするために、あれこれと理由を主張してきます。
被害者の方やご遺族は、彼らが言うこと、提示してくる金額を鵜呑みにして簡単に示談をしてはいけません。
2.認定された後遺障害等級が間違っていないか確認する
後遺障害等級が認定されても、それは間違っている可能性があります。
万が一、低い等級が認定されてしまうと、慰謝料なども低くなってしまいます。
正しい後遺障害等級のためには、次のことが必要です。
- ・まず弁護士に確認してもらう
- ・間違いの可能性があれば弁護士に異議申立を正しく行なってもらう
3.提示金額が正しいかどうか弁護士に確認してもらう
示談金の項目はたくさんあり、また計算方法が複雑な項目もあるため、被害者の方が自力で正しい金額の確認をするのは難しいと思います。
ですから、示談の前にはまず、交通事故に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
みらい総合法律事務所では死亡事故と後遺障害事案について、随時、無料相談を行なっています。
事故状況等をお聞きした弁護士が正しい示談金額を計算してお伝えすると、ほとんどの相談者の方が驚かれます。
なぜかというと、提示金額から2倍、3倍、場合によっては10倍以上も増額した金額が「本当に自分が受け取るべき金額だとわかるから」です。
代表社員 弁護士 谷原誠