交通死亡事故の慰謝料でよくあるQ&A
本記事では、交通事故の慰謝料の種類と内容、請求方法、相場金額、増額方法など、ご遺族などから寄せられる質問についてQ&A形式で解説します。
目次
Q)家族が亡くなった場合の慰謝料について教えてください。
父(70代)を交通事故で亡くしました。
今後、慰謝料などの請求が必要だと思うのですが、その内容などについて教えてください。
A)ご遺族が受け取ることができる慰謝料には、入通院慰謝料、死亡慰謝料、近親者慰謝料があります。
慰謝料というのは、精神的な苦痛や損害に対して支払われるものです。
交通事故に関係する慰謝料は1つではなく、
- 入通院慰謝料(傷害慰謝料)
- 後遺障害慰謝料
- 死亡慰謝料
- 近親者慰謝料
の4種類があります。
このうち、被害者の方が死亡した場合に受け取ることができる慰謝料は次のとおりです。
「入通院慰謝料」
事故後、被害者の方が治療を受けた後に亡くなった場合に支払われます。
「死亡慰謝料」
被害者の方が交通事故で亡くなった場合に支払われます。
「近親者慰謝料」
交通事故で被害者の方が亡くなった場合、または重度の後遺障害が残ってしまった場合に、ご家族の精神的苦痛・損害に対して支払われます。
被害者の方はすで亡くなっているため、慰謝料の受取人は法的な相続人になります。
Q)死亡事故の示談はどのように進むのでしょうか? また、どのような手続きが必要でしょうか?
友人が交通事故で亡くなり、ご家族が悲嘆に暮れています。
何かできることがあれば力になりたいのですが、交通事故の知識がありません。
交通事故が発生してから解決に至るまで、どのような流れで進むのか、必要な手続きなども知りたいです。
A)交通事故の解決までには、さまざまな手続きがあるので、まずはチャート図で全体像を理解するといいでしょう。
1.警察の聞き取り調査への協力
死亡事故の発生後、まず必要な手続きとしては、警察からの「聞き取り調査(実況見分)」への協力があります。
警察は「実況見分調書」を作成するのですが、これはその後の加害者の刑事事件の裁判や示談交渉、民事訴訟でも重要な証拠となる大切なものになります。
2.加害者の刑事裁判への参加
警察の捜査が終わると、実況見分調書などが検察に送られ、起訴か不起訴かが決定されます。
起訴された場合は、刑事裁判が行なわれ、加害者の量刑が確定します。
その際、被害者のご遺族は裁判に参加して意見を述べるなどすることができます。
これは「被害者参加制度」というもので、希望する場合は弁護士に相談してください。
3.加害者側との示談交渉を開始
加害者が任意保険に加入している場合は、示談交渉の相手はその保険会社になります。
死亡事故の場合、通常は亡くなった方の四十九日が過ぎると保険会社から示談金(損害賠償金とも保険金ともいいます)の提示があります。
4.示談成立/示談決裂の場合は裁判へ
慰謝料などの示談金で合意できれば示談成立となります。
しかし通常、加害者側の任意保険会社はかなり低い金額を提示してくるので、これに納得がいかなければ最終的には提訴して、裁判での決着を図ることになります。
Q)死亡事故の慰謝料の金額はいくらくらいになるのでしょうか?
80代の母を交通事故で亡くしました。
四十九日が過ぎて、相手側の保険会社から書類が届き、慰謝料などの金額が書いてありました。
しかし、この金額が妥当なものなのか私には判断できません。
死亡事故の慰謝料の相場金額など、いくらくらいになるのでしょうか?
A)慰謝料の算定では3つの基準が使われ、それぞれ相場の金額が定められているので、ここでは死亡慰謝料と近親者慰謝料について基準別に解説します。
1.慰謝料の算定で使われる3つの基準
どの基準で計算するかによって、かなり金額が変わってくるので要注意です。
「自賠責基準」
自賠責保険が定めている基準で、もっとも低い金額になります。
「任意保険基準」
各任意保険会社が独自に設けている基準で、各社非公表としています。
ただし、これまでの経験から、自賠責基準よりも少し高い金額になるように設定されていると考えられます。
「弁護士(裁判)基準」
これまでの膨大な裁判例から導き出されている基準で、弁護士や裁判所が用います。
この基準で算定した金額が、被害者の方が本来受け取るべき金額で、もっとも高額になります。
なお、弁護士が被害者の方から依頼を受けて、代理人として加害者側の任意保険会社と示談交渉をする場合、また提訴して裁判になった場合は、この規準による金額を主張していきます。
2.死亡慰謝料の相場金額
①自賠責基準の場合
自賠責基準による死亡慰謝料は、次の表のように概ねの相場金額が決められています。
「自賠責基準による死亡慰謝料の金額早見表」
家族構成 | 金額 |
---|---|
本人 | 400万円(一律) |
遺族が1人の場合 | 550万円 |
遺族が2人の場合 | 650万円 |
遺族が3人以上の場合 | 750万円 |
扶養家族がいる場合 | 200万円が加算 |
「遺族」には、亡くなった被害者の方の両親、配偶者、子が含まれます。
自賠責基準による死亡慰謝料は、「被害者本人の死亡慰謝料」と、「ご家族などの近親者慰謝料」を合計した金額で支払われます。
たとえば、亡くなった被害者の方が家族の生計を支えていて、妻と2人の子供がいる場合の慰謝料の相場金額(合計)は、上記の表から次のようになります。
②弁護士(裁判)基準の場合
<弁護士(裁判)基準による死亡慰謝料の相場金額早見表>
被害者の状況 | 死亡慰謝料の目安 (近親者への支払い分を含む) |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
独身の男女、子供、幼児等 | 2000万円~2500万円 |
自賠責基準と弁護士(裁判)基準では、金額に2倍以上の差があることに注目してください。
なお、上記金額はあくまでも相場であり、事故の態様や被害者の方の固有の事情などによって、さらに増額する可能性があります。
3.近親者慰謝料の相場金額
近親者慰謝料は、被害者の方の近親者(ご家族等)が被った精神的苦痛・損害に対して支払われるものです。
(最高裁 昭和33年8月5日判決)
受取人が両親(父母)、配偶者(夫・妻)、子供の場合の金額は、概ね被害者本人の慰謝料の1~2割ほどになります。
なお、内縁の夫や妻、兄弟姉妹、祖父母にも認められる場合があります。
ただし、近親者慰謝料はすべての交通事故で認められるわけではないことに注意が必要です。
どのような場合に認められるのかについては、下記のページを参考にしてください。
Q)遺族が死亡慰謝料を受け取るときの配分割合とは?
お恥ずかしい話なのですが、交通事故で亡くなった父の慰謝料などの受け取りでもめています。
3人兄弟で、姉・私(長男)・妹の間で話がまとまりません。
最終的には、法的に解決しなければいけない可能性もあると感じているのですが、その場合はどのような配分になるのでしょうか?
A)死亡慰謝料は法的には相続になるので、受取人の相続順位と割合が定められているので解説します。
死亡慰謝料は、亡くなった被害者の方の精神的苦痛・損害に対して支払われるものです。
ただし、被害者の方は亡くなっているため、実際の受取人はご遺族となります。
その際の受取人の順位と配分は、法的に次のように決まっています。
相続人の順位と法定相続分
配偶者:2分の1
子:2分の1
☑たとえば子が2人の場合、2分の1を分けるので、1人の相続分は4分の1になります。
☑すでに子が死亡している場合、子の子供(被害者の方の孫)がいれば、「代襲相続」により「孫」が相続人順位の第1位になります。
配偶者:3分の2
親:3分の1
☑被害者の方に子がいない場合は、親が配偶者とともに相続人になります。
☑両親(父母)がいる場合、3分の1を2人で分けるので、1人の相続分は6分の1となります。
☑養子縁組をした場合、その養父母も相続人になります。
配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1
☑被害者の方に子や親がいない場合は、兄弟姉妹が配偶者とともに相続人になります。
☑兄弟姉妹が複数人の場合、兄弟姉妹の相続分である4分の1をその人数で分配します。
☑兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子が同順位で相続人になります。
<相続における注意ポイント>
- ・前提として、被害者の方に配偶者がいれば必ず相続人になります。
- ・認知されている子が遺産相続の対象となります。
- ・胎児も相続人になります。
- ・配偶者がいない場合、筆頭の親族のみが相続人になり、それ以外の親族は相続人にはなりません。
実際、交通事故の慰謝料などの受け取りで、親族同士が争うケースがあります。
当事者同士で、なかなか解決できない場合は弁護士に相談・依頼することも検討されるといいと思います。
Q)死亡事故の示談交渉はいつ始めるべき?
姉が交通事故で亡くなりました。
これから、加害者側との示談交渉を行なわなければいけないことを知ったのですが、いつ始めればいいのでしょうか?
A)死亡事故の場合、通常は四十九日を過ぎると加害者側の任意保険会社から示談金額の提示があるので、その後に示談交渉を始めます。
ただし、注意していただきたいことがあります。
交通事故は、刑事事件と民事事件の両方が関わってきます。
刑事事件は、国が加害者を裁くものです。
民事事件は、加害者側と被害者側が損害賠償金や責任の有無について争うものです。
これらには順番はないので、刑事と民事が同時並行で進んでいくのですが、被害者の方が示談を成立させる場合、刑事裁判の判決が出てからにしてください。
というのは、判決の前に示談を成立させると、「加害者は、被害者に対して一定の弁済をしているので、遺族の被害者感情はやわらいでいる」として、加害者の量刑が軽くなってしまう場合があるのです。
ですから、刑事事件の進行中に示談交渉を開始してもいいのですが、示談の成立時期は慎重に考えるべきなのです。
なお、示談が成立する期間はケースバイケースなのですが、一応の目安となる期間を早見表にまとめてみたので参考にしてください。
<示談成立までの期間>
物損事故 | 交通事故発生日から2~3か月 |
---|---|
後遺障害のない人身事故 | 治療終了(症状固定)から半年程度 |
後遺障害がある人身事故 | 後遺障害等級の認定から半年~1年程度 | 死亡事故 | 葬儀・相続確定後から半年~1年程度 |
Q)なぜ加害者側の保険会社の提示金額は低すぎるのでしょうか?
義理の母の死亡事故について、加害者側の任意保険会社から慰謝料などの損害賠償金額が提示されたようで、聞いたところによると、かなり低い金額だということです。
なぜ保険会社は、そんなに低い金額を言ってくるのでしょうか? まったく納得がいきません。
A)加害者側の任意保険会社が株式会社の場合は営利法人です。そこで、利益を追求するために被害者の方に支払う示談金(保険金)をできるだけ低く見積もって提示してくるのです。
保険会社にとって、被害者の方に支払う示談金は支出になるので、できるだけ低くしたいと考えます。
そこで、次のような理由をつけて被害者の方に提示してくるケースがあります。
1.低い支払い(算定)基準で計算してくる
加害者側の任意保険会社は、自賠責基準や任意保険基準といった金額が低くなる基準で計算した金額を、「これが当社の提示できる限界の金額です」「目一杯の金額を提示させていただきました」などと言ってきます。
しかし本来、被害者の方が受け取るべきなのは、弁護士(裁判)基準で計算した金額であり、これがもっとも高額になるのです。
2.被害者の方の過失割合を高く主張してくる
交通事故が発生した責任(過失)の割合のことを「過失割合」といい、交通事故の損害賠償実務では「加害者80対被害者20」というように表現します。
そして、双方の過失割合によって損害賠償金を差し引きすることを「過失相殺」といいます。
被害者の方の過失割合が大きくなれば、その分が減額されてしまうので、受け取る損害賠償金が減らされてしまいます。
そのため、加害者側の任意保険会社はさまざまな理由をつけて、被害者の方の過失割合を高く主張してくることがあります。
3.被害者の方の逸失利益を低く主張してくる
交通事故で亡くなると、それ以降は働くことができなくなるので、当然ですが収入を得ることができなくなります。
このように、交通死亡事故のために得ることができなくなってしまった将来的な収入(利益)を「死亡逸失利益」といいます。
保険会社にとって、被害者の方の死亡逸失利益が低いほど自社の支出は減るので、これを低く見積もってくるケースがあるのです。
Q)慰謝料が増額するケースとは?
加害者側の保険会社から慰謝料などの提示がありましたが、率直に言って低すぎると思います。
これでは亡くなった妹が可哀想で、やりきれません。
増額するケースというのはあるのでしょうか? また、どうすれば慰謝料などを増額させることができるのでしょうか?
A)死亡慰謝料は増額させることができます。ここでは主に2つの方法について解説します。
1.慰謝料増額事由の有無を確認し、主張する
交通事故の態様や状況によって、次のようなケースは慰謝料が増額される可能性があるので、示談交渉や裁判では積極的に主張していくべきです。
1.加害者の悪質運転(故意や重過失がある場合)
加害者が悪質な危険運転だった場合、慰謝料が増額する可能性があります。
☑飲酒運転
☑ながら運転
☑著しいスピード違反
☑薬物使用
☑無免許運転
☑センターラインオーバー
☑ひき逃げ(救護義務違反)
☑信号無視 など
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車上荒らしがパトカーの追跡を逃れようと時速約80キロで逆走し、事故を起こしたにもかかわらず、被害者を救護せず、被害者が結婚式を挙げたばかりであることなどを考慮し、33歳男性会社員の死亡慰謝料を、相場金額2800万円のところ、本人分3500万円、妻子合計500万円の合計4000万円認めた裁判例があります。(大阪地裁平成25年3月25日判決)
出典:自保ジャーナル1907号57頁)
2.特別な事情が被害者の方にある場合
過去の裁判例では次のような慰謝料増額事例があります。
- ・腕や脚、指などの運動機能に麻痺の後遺症が残り、将来の夢が絶たれた。
- ・後遺障害を負ったことで、肢体障害のある家族の介護などができなくなった。
- ・交通事故で負った傷害(ケガ)が胎児にも影響し、人工中絶を余儀なくされた。
- ・交通事故で負った後遺障害が原因となり、婚約破棄や離婚に至った。
- ・被害者がまだ幼い。
- ・ご遺族が大きな精神的ショックのため、精神疾患を患ってしまった。 など
3.加害者の態度などが悪質な場合
- ・警察に虚偽の供述をした。
- ・被害者やご遺族への謝罪がない。
- ・被害者やご遺族に対して悪態をつく。 など
2.弁護士(裁判)基準での解決を目指すため、弁護士に相談・依頼する
前述したように、被害者の方やご遺族が受け取ることができる適正な慰謝料は弁護士(裁判)基準で計算した金額です。
しかし、ご遺族が弁護士(裁判)基準による正確な金額を算定するのは難しいと思います。
また、仮に正しい金額をご遺族が示談交渉で提示しても、加害者側の任意保険会社は、弁護士が出てきて主張しない限り、受け入れることはまずありません。
ですから、示談交渉は交通事故に強い弁護士に相談・依頼されることをおすすめします。
弁護士に依頼することで、ご遺族はシビアな示談交渉から解放されます。
そして、慰謝料などの損賠賠償金が増額する可能性が、かなり高くなります。
加害者側が任意保険に加入している場合、慰謝料などの損害賠償金は、その任意保険会社から支払われます。
しかし多くの場合、保険会社は相場より低い金額を提示してきます。
ご遺族にとっては、ご家族を亡くしたうえに、さらに保険会社からの低水準の慰謝料で示談してしまえば、それは二次被害ともいえるでしょう。
大切なご家族を交通死亡事故で亡くされたご遺族の方はご心痛のことと思いますが、亡くなった方のためにも慰謝料を正しい金額でしっかり受け取ることが大切です。
そのためにも、まずはみらい総合法律事務所の無料相談をご利用ください。
代表社員 弁護士 谷原誠