交通事故で顔を縫って外貌醜状になった場合の慰謝料の相場金額
目次
交通事故の被害にあった場合、さまざまな身体の部位に後遺症が残ってしまうことがあります。
本記事では、交通事故で負った後遺症のうち、顔を縫ったことで外貌醜状を残して後遺障害等級が認定された場合の慰謝料の相場金額や、実際の増額解決事例について解説していきます。
加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社から慰謝料、逸失利益などの損害項目を合計した損害賠償金(状況に応じて、示談金とも保険金ともいいます)が提示されます。
ここで知っておいていただきたいのは、保険会社が提示してくる金額は、本来であれば被害者の方が受け取るべき金額よりも相当低いことが多いという現実です。
そして、被害者の方が示談交渉で増額を主張しても、保険会社が増額に同意することは、あまり期待できないという事実です。
今回は、被害者の方はどうすれば正しい慰謝料などを受け取ることができるのか、についてもお話ししていきます。
外貌醜状と後遺障害の関係について
外貌醜状とは?
外貌とは、上肢や下肢以外の頭部や顔面部、頚部など、日常的に露出する身体の部位をいいます。
これらの部位に目立つほどの傷跡=瘢痕(はんこん)、線状痕、ケロイド、組織陥没などが残ってしまった場合は「外貌醜状」の後遺症が残ったという診断になります。
後遺症と後遺障害等級
これ以上の治療を続けても完治しない場合、医師から「症状固定」の診断を受けます。
後遺症について慰謝料などを受け取るためには、まず後遺症が後遺障害と認められることが必要です。
- 交通事故が原因であると医学的に証明されること
- 労働能力の低下や喪失が認められること
- その程度が自動車損害賠償保障法(自賠法)で定める後遺障害等級に該当すること
そして、その後遺障害に等級が認定されることで、慰謝料や逸失利益などの算定が可能になり、それらを合計した損害賠償金を加害者側に請求することができます。
顔を縫った場合(外貌醜状)に認定される後遺障害等級
認定される等級は3種類
交通事故で顔を縫うケガにより、外貌醜状の後遺症が残った場合に認定される後遺障害等級は次のようになっています。
「7級12号」
後遺障害の内容:外貌に著しい醜状を残すもの
自賠責保険金額:1051万円 |
労働能力喪失率:56% |
次のもののうち、人目につく程度以上のものが該当します。
- ①頭部については手のひら大(指の部分は含まない。以下同じ。)以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損
- ②顔面については、鶏卵大面以上の瘢痕又は10円銅貨大以上の組織陥没
- ③頚部については、手のひら大以上の瘢痕
瘢痕とは、キズが治ったあとにできる皮膚が赤く盛り上がった傷跡のことです。
「9級16号」
後遺障害の内容:外貌に相当程度の醜状を残すもの
自賠責保険金額:616万円 |
労働能力喪失率:35% |
顔面部の長さ5センチメートル以上の線状痕で、人目につく程度以上のものが該当します。
「12級14号」
後遺障害の内容:外貌に醜状を残すもの
自賠責保険金額:224万円 |
労働能力喪失率:14% |
次のもののうち、人目につく程度以上のものが該当します。
- ①頭部については、鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
- ②顔面部については、10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3センチメートル以上の線状痕
- ③頚部については、鶏卵大面以上の瘢痕
瘢痕、線条痕が複数あり、それらが1つの瘢痕や線条痕と同程度以上の醜状と評価できる場合は、それらの長さや面積を合算して等級認定を行ないます。
参考情報:「自賠責後遺障害等級表」(国土交通省)
後遺障害等級の異議申立とは?
なお、認定された後遺障害等級に不満がある場合は「異議申立」をすることができます。
後遺障害等級は、申請時に提出した書類や資料の内容のとおりに認定されるため、不備や不足があると間違った等級が認定されてしまうことがあります。
等級が低いと、慰謝料などの損害賠償金も低くなってしまうので、等級に不満がある場合は交通事故に精通した弁護士に異議申立を依頼することをおすすめします。
顔を縫った(外貌醜状)場合の慰謝料の種類と計算基準
4種類ある交通事故の慰謝料
交通事故の被害者の方が負った精神的苦痛・損害に対して支払われるのが慰謝料です。
慰謝料には、被害者ご自身が受け取ることができる3種類と、近親者(ご家族)が受け取ることができる慰謝料があるので、見ていきましょう。
①入通院慰謝料(傷害慰謝料)
- ・傷害(ケガ)を負って、その治療のために入院・通院した場合に支払われる慰謝料です。
- ・通院1日から受け取ることができます。
- ・対象となる期間は、ケガの治療を始めてから症状固定までで、後遺症が残ったあとは後遺障害慰謝料に切り替わります。
②後遺障害慰謝料
- ・被害者の方に後遺障害等級が認定された場合に支払われる慰謝料です。
- ・後遺障害等級は1級から14級まであり、等級の違いによって金額が大きく変わります。
③死亡慰謝料
- ・被害者の方が亡くなった場合に支払われる慰謝料です。
- ・受取人は法的な相続人になります(被害者の方はすで亡くなっているため)。
- ・相続人には順位と分配割合が定められていることに注意が必要です。
④近親者慰謝料
被害者の方が亡くなった場合、または重傷事故で重度の後遺障害が残ってしまった場合などで、ご家族の精神的な苦痛や損害がより大きいと認定された場合に支払われる慰謝料です。
外貌醜状の後遺障害の場合は、①入通院慰謝料と②後遺障害慰謝料が受け取りの対象になります。
慰謝料計算で使われる3つの基準の違いとは?
交通事故の慰謝料を計算する際には、次の3つの基準が使われます。
どの基準で計算するかによって金額が大きく変わってくるので、加害者側の保険会社から金額の提示があった際には必ず確認する必要があります。
①自賠責基準
自賠責保険で定められている基準で、金額はもっとも低くなります。
②任意保険基準
- ・各任意保険会社が独自に設けている基準で、各社非公表となっています。
- ・自賠責基準よりも少し高い金額になるように設定されていると考えられます。
③弁護士(裁判)基準
- ・金額がもっとも高額になる基準で、被害者の方が本来受け取るべき金額になります。
- ・これまでの膨大な裁判例から導き出されている基準のため、弁護士や裁判所が用いるものです。
- ・弁護士が被害者の方の代理人として加害者側の任意保険会社と示談交渉をする際や裁判になった場合には、弁護士(裁判)基準で計算した金額を主張していきます。
なぜ加害者側の保険会社が提示する金額は低いのか?
加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社から慰謝料などの金額提示があります。
被害者の方が、その金額に納得がいくなら示談交渉は行ないません。
しかし、のちほど詳しくお話ししますが、保険会社の提示額は被害者の方が受け取るべき金額には程遠く、かなり低ことが多いのが現実です。
本来の相場金額の半分、3分の1、さらにそれ以下という金額の場合すらあります。
なぜかというと、保険会社が株式会社の場合には利益を追求する営利法人なので、被害者の方への支払いをできるだけ低く抑えたいからです。
そこで、自社の基準、考え、都合で算定した慰謝料などの損害賠償金を示談金として提示してきます。
保険会社が提示してくる金額は、必ずしも正しいものではありません。
加害者側の任意保険会社が提示してくる金額をそのまま信じて、示談書にサインをしないようにしましょう。
被害者の方が本来、受け取るべきなのは、弁護士(裁判)基準で計算した金額であることを忘れないでください。
顔を縫った(外貌醜状)場合の入通院慰謝料の計算と相場金額
自賠責基準による入通院慰謝料の計算
自賠責基準による入通院慰謝料は、1日あたりの金額が4,300円と定められています。
次の計算式で金額を算出します。
<入通院慰謝料(自賠責基準)の計算の注意ポイント>
ただし、自賠責基準による入通院慰謝料では、入通院日数(治療の対象日数)に注意してください。
A)「実際の治療期間」 |
B)「実際に治療した日数×2」 |
このうちの短いほうが採用されます。
<治療の対象日数の例>
たとえば、次の条件で考えてみます。
- ・治療期間:3か月=90日間
- ・実際に治療した日数:治療期間3か月のうち、平均で週に2回の通院=13週×2日=26日間
A)4,300円×90日=387,000円 |
B)4,300円×52日=223,600円 |
この場合、日数が短いB)が採用されるので、入通院慰謝料として認められるのは、223,600円になるわけです。
弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料の早見表
入通院慰謝料を弁護士(裁判)基準で算定する際には、計算式は使いません。
日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している『損害賠償額算定基準』に記載されている「入通院慰謝料の算定表」から金額を導き出します。
算定表には、ケガの程度によって「軽傷用」と「重傷用」の2種類があります。
<弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料の算定表(むち打ちなどの軽傷用)>
<弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料の算定表(重傷用)>
ここでも自賠責基準の時と同条件(3か月の通院)での慰謝料額について見てみましょう。
「軽傷用」の表で、「入院0か月」と「通院3か月」が交わった部分を見てみると、「53」となっています。
つまり、このケースでの弁護士(裁判)基準での入通院慰謝料は53万円になるわけです。
顔を縫った(外貌醜状)場合の後遺障害慰謝料の計算と相場金額
早見表で等級別の後遺障害慰謝料を確認
後遺障害慰謝料は、被害者の方が認定された後遺障害等級に応じて、あらかじめ相場金額が定められています。
ここでは等級別に、自賠責基準と弁護士(裁判)基準それぞれによる金額を早見表にまとめてみました。
基準の違いによって、金額の差が大きいことに驚かれるのではないかと思います。
<自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の早見表>
慰謝料は弁護士(裁判)基準で解決するべき!
ここまで、計算基準の違いによる慰謝料額の違いについて解説してきました。
たとえば前述した入通院慰謝料では、単純に比較すると、自賠責基準と弁護士(裁判)基準では、5倍近くも慰謝料額が違ってきます。
また、後遺障害等級7級の場合では、後遺障害慰謝料の差は600万円近くにもなってしまいます。
慰謝料は、弁護士(裁判)基準で示談解決することが重要だという事実をぜひ知っていただきたいと思います。
みらい総合法律事務所で実際に慰謝料を増額した解決事例集
ここからは、みらい総合法律事務所で実際に慰謝料などの損害賠償金の増額に成功した、顔を縫った場合の示談解決事例をご紹介したいと思います。
解決事例を見ていただくと、次のようなことがおわかりいただけると思います。
- ・加害者側の任意保険会社は、通常どのくらいの金額を提示してくるのか?
- ・示談交渉に弁護士が入った場合、どのくらい金額が増額するのか?
【慰謝料増額解決事例①】
51歳男性の慰謝料などが約2.2倍に増額
51歳の男性が交通事故の被害にあい、顔の外貌醜状、耳鳴りなどの後遺症が残ってしまい、併合8級の後遺障害等級が認定されました。
加害者側の任意保険会社は、被害者の方に慰謝料などの損害賠償金として約887万円を提示。
その後、被害者の方が示談交渉などのすべてを専門家に任せるため、みらい総合法律事務所に依頼されました。
弁護士が交渉を開始したところ、保険会社は外貌醜状について当初は逸失利益を認めませんでした。
そこで弁護士が主張・立証を重ねたところ譲歩し、逸失利益を認めたこともあり、最終的には約2.2倍に増額の2,000万円で示談解決となった事例です。
【慰謝料増額解決事例②】
55歳男性の慰謝料などが約7倍に増額
55歳の男性が道路を歩いて横断中、直進してきた自動車に衝突された交通事故です。
前額部瘢痕などの後遺症を負い、後遺障害等級は12級14号が認定され、加害者側の任意保険会社との示談交渉に入りましたが、約48万円の示談金しか提示されませんでした。
その理由は、「弁護士ではないので、弁護士(裁判)基準で計算した金額を提示することはできない」というものでした。
そこで被害者の方が、みらい総合法律事務所に示談交渉を依頼。
弁護士が交渉に入ったところ、保険会社は計算基準を弁護士(裁判)基準に引き上げることに合意し、被害者の方の過失割合を15%から10%に譲歩しました。
結果、最終的には当初提示額の約7倍、340万円に増額して解決となった事例です。
【慰謝料増額解決事例③】
16歳男性の外貌醜状で慰謝料などが約6倍に増額
交通事故の被害にあった16歳男性が顔面を負傷し、線条痕の後遺症を残し、症状固定となった事例です。
後遺障害等級は12級14号(現在の基準では9級が認定される)が認定され、加害者側の任意保険会社は被害者の方に対し、約266万円の示談金(損害賠償金)を提示しました。
被害者本人もご家族も交通事故は初めてで、この金額が適切なものかどうか判断できなかったため、みらい総合法律事務所の無料相談を利用。
弁護士の見解は「まだ増額は可能」というものだったことから、示談交渉のすべてを依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉した結果、示談金が1,605万円に増額して解決。
当初提示額から約6倍に増額したことになります。
【慰謝料増額解決事例④】
31歳女性の損害賠償金が支払い拒否から約4,300万円で解決
31歳の女性が、交通事故で左鎖骨骨折、右手指骨折、顔面神経損傷などの傷害(ケガ)により、外貌醜状で7級12号、上肢機能障害で10級10号の併合6級の後遺障害等級が認定されました。
刑事裁判で加害者は「事故の原因はすべて被害者にある」と主張していたため、加害者側の任意保険会社は被害者の方への損害賠償金の支払いを拒否。
途方に暮れた被害者の方が、みらい総合法律事務の無料相談を利用することにしました。
当事務所の弁護士は、「裁判を起し、非は加害者にあったことを主張し、認めさせることが最善の解決策」との見解を伝え、納得のいった被害者の方が示談交渉のすべてを依頼されました。
すぐに弁護士が提訴。
裁判では弁護士の主張が認められ、約4,300万円の支払い命令が出された事例です。
外貌醜状の後遺症では逸失利益が争われるケースに注意
交通事故の損害賠償項目の1つに「逸失利益」があります。
逸失利益とは、交通事故で負った後遺症のためにそれまでのようには仕事ができなくなり、得られなくなってしまった(失ってしまった)収入(利益)のことです。
通常、逸失利益は労働可能と判断される67歳までの見込み収入から算定されるため、金額が大きくなります。
そこで、加害者側の任意保険会社は逸失利益をできるだけ低く見積ってくるため、示談交渉や裁判では争いになるケースが多いのです。
特に外貌醜状の場合、運動障害などとは違い、「仕事への支障はなく、働くことが可能」として、保険会社は逸失利益を低く主張してきます。
しかし、接客業や女優、ホステスのような職種によっては大きな損害となるため、被害者の方は逸失利益を正当に主張し、保険会社に認めさせることが大切になってきます。
みらい総合法律事務所では後遺症事案について、随時、無料相談を行なっています。
まずはお気軽に、ご相談下さい。
代表社員 弁護士 谷原誠