胸郭出口症候群の後遺障害等級と立証ポイント
交通事故で後遺障害を負った場合、加害者に対して慰謝料・損害賠償金を請求することができます。
胸郭出口症候群は交通事故によって症状が出ることもありますが、交通事故が原因で胸郭出口症候群を発症したと証明するためには、後遺障害等級の認定を受けなければなりません。
本記事では、胸郭出口症候群の後遺障害等級と、後遺障害として認定されるために必要な手続きおよび注意点を解説します。
目次
胸郭出口症候群とは?
胸郭出口症候群(きょうかくでぐちしょうこうぐん)は、腕を上げる動作時に神経や血管が圧迫されることで起こる疾患です。
首から腕にかけては感覚や運動に関する神経と血管が通っていますが、頸部の斜角筋の間や第1肋骨と鎖骨の間などは通る場所が狭いため、圧迫を受けやすいです。
胸郭出口症候群の症状としては、感覚障害による手の痺れや血行障害による冷え、握力低下などがあり、首から手までの部分に症状が出ることが多いです。
- 腕を上げる動作時の痛み
- 感覚障害(痺れなど)
- 運動麻痺(握力の低下など)
- 血行障害(冷感など)
- 頭痛
- 肩こり
- だるさ(倦怠感)
交通事故による胸郭出口症候群の後遺障害等級
胸郭出口症候群の後遺障害は、症状によって等級が割り当てられるため、後遺障害に伴う慰謝料等を請求する場合、実際の症状に応じた等級認定を受けなければなりません。
交通事故で胸郭出口症候群を発症する原因
胸郭出口症候群は、交通事故でむち打ち(頸椎捻挫)になった際、症状が表れることがあります。
むち打ちは首周りの骨や筋肉、神経などに損傷が起る症状をいい、首に強い力が加わることでむち打ちになります。
交通事故では、シートベルトを着用していても全身に強い衝撃を受けたことでむち打ちになることがありますし、斜角筋等の負傷・圧迫で胸郭出口症候群を発症することもあるため、むち打ちになった際は胸郭出口症候群の有無も確認してください。
胸郭出口症候群の治療方法は、手術を行わないで治療する保存療法が基本です。
事故後しばらくは安静にし、痛みが出る場合は薬物療法で処置をします。
症状が軽いときはストレッチなどの強化運動訓練で症状の改善を目指しますが、症状が重い場合には、手術療法が必要になるケースもあります。
胸郭出口症候群の後遺障害
後遺障害は、事故等で負った怪我の治療後も肉体的・精神的な毀損が存在し、事故と後遺症に因果関係が認められた障害をいいます。
「後遺障害」と似た言葉として「後遺症」がありますが、後遺症は事故等の治療後に肉体的・精神的な毀損が残った状態のみをいい、事故と後遺症の因果関係が認められないものは後遺障害とは言いません。
そのため、後遺障害として認定されるためには、事故と後遺症の因果関係を立証しなければならず、被害者は交通事故後に治療を受けるだけでなく、医師の経過観察を受けるなどの行動が必要です。
胸郭出口症候群が後遺障害として認められた場合、12級13号または14級9号の等級認定を受けます。
等級は後遺障害慰謝料や逸失利益として請求できる額に差が生じますので、症状に見合った等級認定を受けることが大切です。
12級13号に該当する胸郭出口症候群の症状
12級13号に該当する胸郭出口症候群は、「局部に頑固な神経症状を残すもの」がある場合をいいます。
神経症状の後遺障害としては12級13号以外に14級9号がありますが、12級13号の認定を受けるためには医学的な証明が不可欠です。
医学的な証明とは、MRI検査や医師の視診などの他覚的所見により、神経症状の残存が確認できる状態をいいます。
痺れなどの自覚症状があったとしても、それだけで12級13号の後遺障害等級の認定はされません。
14級9号に該当する胸郭出口症候群の症状
14級9号に該当する胸郭出口症候群は、「局部に神経症状を残すもの」がある場合をいいます。
「局部に神経症状を残すもの」は、身体の一部分の神経系統に障害が生じた状態をいい、事故で手足の痺れや握力低下などの症状が残ったときは、14級9号の後遺障害等級の認定を受けられる可能性があります。
認定を受けるためには医師の診断が必要で、治療状況や症状の経過から神経症状が残っているかを確認します。
交通事故で神経症状が残っている点では12級13号と14級9号は同じですが、14級9号は他覚的所見が必須ではありません。
胸郭出口症候群の後遺障害等級認定を受ける方法・流れ
後遺障害に対しての慰謝料や損害賠償金を請求するためには、胸郭出口症候群の後遺障害等級認定を受けなければなりませんが、認定には申請手続きが必要です。
交通事故で胸郭出口症候群を発症したとしても、事故と後遺症の因果関係を証明できないと後遺障害とは認められないので注意してください。
- 医師に症状固定の診断を受ける
- 医師に後遺障害診断書の作成を依頼する
- 加害者が加入する保険会社に必要書類を提出し、後遺障害等級認定申請を行うか、自賠責保険会社に被害者請求をする。
- 損害保険料率算出機構で審査
- 審査内容に応じた後遺障害の等級認定を受ける
後遺障害認定を受ける際のポイントになるのは、症状固定の有無です。
症状固定は、交通事故による怪我が治療を受け続けても改善する見込みがない状態をいいます。
医師が症状が改善する見込みがないと判断するためには、一定期間の通院・治療が必要となるため、怪我の治療だけでなく、後遺障害認定を受けることも目的に病院へ通ってください。
後遺障害診断書は治療等を施した医師が作成する書類で、交通事故による怪我を治療した後に残っている症状(後遺症)の内容や程度が記されます。
医師から受け取った後遺障害診断書は加害者が加入する保険会社または自賠責保険会社に提出し、後遺障害等級認定の申請を行います。
後遺障害等級の認定審査は損害保険料率算出機構で行いますが、損害保険料率算出機構は後遺障害の認定の可否だけでなく、症状に応じた等級も決定します。
損害保険料率算出機構が決定した審査結果に納得できない場合、再審査を求めることもできますが、当初と同じやり方・書類で再申請したとしても、結果が覆ることはありません。
そのため、再審査を求める際は弁護士に依頼し、新たな証拠や書類を揃えた上で再審査の申請手続きを行うことも選択肢の一つです。
胸郭出口症候群で受け取れる後遺障害慰謝料の相場
胸郭出口症候群が後遺障害として認定を受けた場合、「後遺障害慰謝料」と「後遺障害逸失利益」を受け取れる可能性があります。
後遺障害慰謝料は、交通事故で後遺障害認定を受けたときに請求する慰謝料で、慰謝料の基準には自賠責保険基準・任意保険基準・弁護士基準が存在します。
自賠責保険基準 | 自賠責保険から支払われる慰謝料を計算するための基準 |
---|---|
任意保険基準 | 保険会社ごとに設定している基準 |
弁護士基準 (裁判基準) |
交通事故の慰謝料を計算する際に用いる基準 |
基準ごとで受け取れる慰謝料の目安は「自賠責保険基準<任意保険基準<弁護士基準」であり、胸郭出口症候群の後遺障害等級である12級と14級の慰謝料相場は次の通りです。
後遺障害等級 | 自賠責保険基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
第12級 | 94万円 | 290万円 |
第14級 | 32万円 | 110万円 |
慰謝料を多く受け取るためには、弁護士基準に基づき請求することが望ましいです。
ただし、弁護士基準は裁判例などを参考に慰謝料の額を算出する関係上、必要な資料を集めるだけでなく、示談交渉の場で相手方と話し合うことになるため、味方となる弁護士の協力が不可欠です。
後遺障害逸失利益は、交通事故で後遺障害を負ったことで逸した利益をいい、次の計算式で金額を求めます。
基礎収入×労働能力喪失率×ライプニッツ係数=後遺障害逸失利益
基礎収入は、原則交通事故が発生した前年の収入がベースです。
労働能力喪失率は後遺障害等級に応じて規定されており、胸郭出口症候群の後遺障害等級の場合、12級の労働能力喪失率は14%、14級は5%です。
ライプニッツ係数は、逸失利益を預金した際に生じる利息を前もって差し引くための係数で、後遺障害が残った年齢から67歳までの労働能力喪失期間ごとに規定されています。
被害者の年齢が若いほど係数は高くなるため、若い人が後遺症を負ったときほど後遺障害逸失利益として算出される額は大きくなります。
胸郭出口症候群の後遺障害等級認定を弁護士に依頼するメリット
後遺障害を負ったことに対する慰謝料・損害賠償金を請求するためには、後遺障害の認定を受けることが条件です。
交通事故の後、しばらくしても肩や腕等に痛みや痺れなどの後遺症があったとしても、交通事故との因果関係を証明できなければ後遺障害とは認定されず、慰謝料や損害賠償金は受け取れません。
認定された後遺障害等級によって請求できる額は変動し、等級の数字が小さいほど慰謝料等として請求できる額は大きくなりますので、症状に応じた適正な等級認定を受けることが重要です。
後遺障害等級認定の手続きは、交通事故の被害者本人が行うことも可能ですが、ほとんどの方は交通事故に関する手続きをした経験がありません。
被害者が怪我を負っている状態で、医師の診断や通院履歴などの資料を揃えるのは大変ですし、不備があれば申請ができないだけでなく、審査に落ちることも考えられます。
弁護士に依頼すれば、交通事故関連の手続きを一任できる以外に、認定を受けやすくなるメリットがあります。
適正な等級認定が行われれば、相応の慰謝料・損害賠償金を受け取ることができますので、認定手続きを弁護士に依頼するのも選択肢です。
胸郭出口症候群を後遺障害として認定されるためのポイント
胸郭出口症候群の後遺障害認定を受けるためには、医師の診断書だけでなく経過観察など、事故が原因で後遺症を負ったことを証明しなければなりません。
胸郭出口症候群は日常生活で発症することもあるため、事故後に症状が表れたとしても、普段から手の痺れ等があった場合には、交通事故との因果関係が否認される可能性もあります。
交通事故と後遺症の因果関係を証明するために、事故後に医師の診察を受けるだけでなく、症状を正確に伝え、経過観察を受けることが大切です。
症状が改善しないことを理由に治療を途中で止めてしまうと、医師が症状固定と判断できませんし、自覚症状を正しく伝えないと認定された後遺障害の等級が低くなってしまうことも考えられます。
そのため、交通事故で負傷した際は病院で治療を受けるだけでなく、事故が原因で後遺症を負ったことを証明する作業が必要です。
交通事故対応は専門弁護士に要相談
胸郭出口症候群が後遺障害として認定されたとしても、実際に受け取ることができる慰謝料・損害賠償金の額は、加害者または加害者が加入する保険会社と話し合って決めることになります。
示談交渉では相手方が色々な主張をしてくることも考えられ、保険会社は保険金の支払いを抑えるために、被害者に落ち度があったと言い掛かりをつけてくることも想定されます。
代理人を立てない場合、被害者本人が示談交渉に臨むことになりますが、不慣れな場での話し合いは不利になりやすいです。
相手の主張を退けるためには証拠を提示するだけでなく、対等に話し合うための知識や経験も必要になりますので、専門家である弁護士を代理人として立てることを検討してください。
なお、弁護士の能力は個人や事務所ごとに違いますので、交通事故に強い弁護士事務所を選ぶのもポイントです。
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代表社員 弁護士 谷原誠