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名義貸し・名義が残っていた場合の交通事故の損害賠償責任

最終更新日 2024年 09月01日

名義貸し・名義が残っていた場合の交通事故の損害賠償責任

名義貸しや名義が残っていた(名義残り)場合の自動車やバイクによる交通事故の損害賠償責任について解説します。

家族、友人、知人など自分以外の人が自動車を購入する際に、代わりに自分の名義で自動車を購入することを「名義貸し」といいます。

また、自動車を売却、譲渡したものの、名義変更をしていないままで、もとの所有者に名義が残っている状態を「名義残り」といいます。

「名義貸し」と「名義残り」の自動車やバイクなどで大きな問題になるのが、交通事故を起こした場合に運転者だけでなく、所有者も損害賠償責任を負う可能性があることです。

この場合、「運行供用者責任」が問われる可能性があります。

裁判で、名義人の運行供用者責任を認めるか否定するかの判断のポイントとしては、次のことがあげられます。

  • ・所有名義人と真実の所有者ないし事故を起こした運転者などとの関係
  • ・名義人と所有者が別になった経緯
  • ・当該車の使用、保管の状況
  • ・当該車の自動車保険の契約関係(自動車から生じる危険について責任を負うために誰が備えていたか)
  • ・税金や車検、整備費用の負担状況 など

これらのポイントを踏まえながら、裁判例を交えて解説していきます。

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自動車を運転するために必要な登録手続き

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自動車の所有者登録とは?

法律上、自動車はそのままでは公道を走らせることはできません。

「道路運送車両法」
第4条(登録の一般的効力)
自動車(軽自動車、小型特殊自動車及び二輪の小型自動車を除く。)は、自動車登録ファイルに登録を受けたものでなければ、これを運行の用に供してはならない。

そこで、自動車を新車で購入した場合は、所有者の新規登録をする必要があります

その自動車が、「道路運送車両法」などの法律に適合しているかどうかを、国土交通省の検査場である運輸支局や自動車検査登録事務所で検査。

検査に合格したら書類の申請。

その後、車検証とナンバープレートが交付される、という流れになります。

名義変更とは?

以下の3つに当てはまる場合、車検証の「名義変更」を行なう必要があります。

  • ①家族や友人などから自動車を譲り受けた場合
  • ②個人で中古車を購入した場合
  • ③結婚などで所有者の氏名が変わった場合

①②の場合は移転登録、③は変更登録となります。

なお、軽自動車等についても検査が求められ、所有者が変更する際には自動車検査証の名義変更が必要とされています。

名義変更をせず、そのままの状態でも自動車に乗り続けることはできますし、車検に出すこともできます。

しかし、自動車を売却する際や廃車にする際、所有者でないとさまざまな手続が進まないという不具合が起きる可能性があります。

そして大きな問題になるのが、「名義貸し」や「名義残り」の自動車が交通事故を起こした場合です。

「名義貸し」と「名義残り」の交通事故の問題点

「名義貸し」と「名義残り」の交通事故の問題点

「名義貸し」と「名義残り」について

家族、友人、知人など自分以外の人に自分の名前を貸すことを「名義貸し」といいます。

たとえば、相手が自動車を購入する際に、仕事が忙しくて時間が取れない、ローンが組めないなどの理由から、代わりに自分の名義で自動車を購入すれば、名義貸しとなります。

「名義残り」とは、文字通り前の所有者に名義が残っている状態です。

たとえば、自動車を売却、譲渡したものの、名義変更をしていないままの場合などです。

「名義貸し」や「名義残り」の自動車が交通事故を起こすとどうなるのか?

「名義貸し」や「名義残り」の自動車が交通事故を起こした場合、当然ながら運転者の責任が問われます。

しかし問題なのは、運転していないにもかかわらず、所有者として登録されている名義人(名義上の所有者)の責任が問われる場合があることです。

「自動車損害賠償保障法」
第3条(自動車損害賠償責任)
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によって他人の生命又は身体を害したときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかったことを証明したときは、この限りでない。

自己のために自動車を運行の用に供する者を、法的に「運行供用者」といい、ここでは、「運行供用者責任」が問題となるのです。

名義上の所有者は運行供用者責任を負うのか?

ただたんに、自動車の名義上の所有者というだけでは運行供用者責任を負いません。

しかし名義人が、より実質的に事故を起こした自動車の運行に関与している場合は、運行供用者責任を負うと判断される可能性があります。

運行供用者責任が問われた裁判例

ここでは、「名義貸し」と「名義残り」について運行供用者責任が問われた裁判例で、運行供用者責任を認めたもの、否定したものそれぞれを見ていきましょう。

【裁判例①(名義貸し)名義人の運行供用者責任を認めた判決】

<事件の経緯>
父親と同居して農業に従事していた子供(事故時20歳)が、父親名義で購入し、自宅の庭に保管していた自動車で起こした交通事故。
父親は、その後に名義人になっていることを知らされ、名義人になることを了承していた。

<判決内容>
自動車の所有者から依頼されて、自動車の所有者登録名義人となった者が、登録名義人になった経緯、所有者との身分関係、自動車の保管場所、その他の諸般の事情に照らし、自動車の運行を事実上支配、管理すべき立場にある場合には、登録名義人は、自動車損害賠償補償法第3条所定の「自己のために自動車を運行の用に供する者」にあたると解すべきであるとして、父親を運行供用者であると認めた。
(最高裁昭和50年11月28日判決 民集29巻10号1818頁)

【裁判例②(名義貸し)名義人の運行供用者責任を否定した判決】

<事件の経緯>
自動車ローンが組めない同棲相手Bのために、Aが車両購入時に名義貸しをしたが、同棲解消後にBが起こした事故について、Aの運行供用者責任が問われた。

<判決内容>
Aの名義預金から代金が引き落とされていたが、Bが実質的な負担をしていたこと、またAは当該車を運転したことがなく、同乗は数回だったことから、Aの運行支配および運行利益を否定した。
(名古屋地裁平成17年12月21日判決 判時1930号130頁)

【裁判例③(名義残り)名義人の運行供用者責任を認めた判決】

<事件の経緯>
結婚前に購入して、通勤などで使用していた自動車を、結婚後は実家に預けたままにしていたところ、弟が継続的に使用していて交通事故を起こした。

<判決内容>
自動車税および車検時の費用は実家の父ないし弟が負担していたが、事故前に弟に名義変更手続きを申し入れたことがなく、事故後に申し入れたのを弟が応じない状態を黙認して、現在も名義人のままでいることなどから、当該車の使用および運行に対して、事実上、支配、管理をおよぼすことが可能であり、社会通念上、その運行が社会に対して害悪をもたらさないよう監視、監督すべき立場にあったとして、運行供用者責任を認めた。
(東京地裁平成11年12月27日判決 交民32巻6号2013頁)

【裁判例④(名義残り)名義人の運行供用者責任を否定した判決】

<事件の経緯>
義理の親から譲渡された原付自転車で、子が交通事故を起こした。

<判決内容>
両者が同居していないこと、税金や維持費用を名義人が何ら負担していないことなどから、名義人である義父は譲渡後にその運行に何ら関与しておらず、車両を管理すべき立場には何らなかったとして、運行供用者責任を否定した。
(大阪地裁平成25年7月16日判決 交民46巻4号946頁)

運行供用者責任の判断で問題となるポイント

裁判で、名義人の運行供用者責任を認めるか否定するかの判断のポイントとしては、次のことがあげられます。

  • ・所有名義人と真実の所有者ないし事故を起こした運転者などとの関係
  • ・名義人と所有者が別になった経緯
  • ・当該車の使用、保管の状況
  • ・当該車の自動車保険の契約関係(自動車から生じる危険について責任を負うために誰が備えていたか)
  • ・税金や車検、整備費用の負担状況 など

名義貸し、名義残りの自動車が交通事故を起こした場合は、その所有名義人も損害賠償責任を負う可能性があるので、十分注意するべきです。

そもそも名義貸しは違法

ところで、そもそも名義貸しは違法であることを知っておいてください。

刑法第157条の「公正証書原本不実記載等」に該当し、名義を貸したほうと借りたほう双方に適用されます

刑事罰は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金です。

また、道路運送車両法の第12条(変更登録)と第13条(移転登録)では、所有者の変更などがあった時は15日以内に移転登録行なうように規定されています。

これに違反した場合は、50万円以下の罰金となります。

なお、名義貸しの場合、基本的には任意保険に加入することができないので、この点も注意してください。

監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
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