交通事故の被害者が知っておくべき保険の知識
目次
交通事故の被害にあって傷害(ケガ)を負った時、大切なご家族が亡くなられた時、必要になってくるのが保険です。
では、交通事故に関わる保険にはどういった種類があるのか、ご存知でしょうか?
ご自身が加入している保険は? いざという時に使える保険は?
知っているようで知らない、見落としがちな保険の知識を、今回の記事を参考にして整理していきましょう。
これから、交通事故に関わる保険の知識について解説していきますが、その前に交通事故解決までの全プロセスを説明した無料小冊子をダウンロードしておきましょう。
交通事故に関わる4つの保険を徹底解説
交通事故に関わる保険には次の4つがあります。
2.任意保険
3.労災保険
4.健康保険
これらの保険は何が、どう違うのでしょうか?
被害者の方は、どのように活用すれば良いのでしょうか?
まずは、それぞれの保険の内容や特徴について見ていきましょう。
自賠責保険の内容と特徴について
自賠責保険とは?
☑自動車損害賠償保障法(自賠法)で規定されているもので、正式名称を「自動車損害賠償責任保険」という。
☑自賠法第5条により、自動車やバイクなどの車両を運転するすべてのドライバー、所有者に加入が美務づけられているため、強制保険とも呼ばれる。
☑第5条の規定に反した場合、1年以下の懲役、または50万円以下の罰金が科される。(自賠法第86条の3)
【参考資料】
参考記事:自動車損害賠償保障法(e-Gov)
☑自賠責保険は、人身事故の被害者を救済するために設立されたものであるため、自損事故によるケガや物損事故には適用されない。
☑保険金が支払われるのは、人身事故の被害者の方がケガや死亡した場合のみ。
☑保険金には支払限度額があり、認定された後遺障害等級によって金額が変わってくる。
<自賠責保険の損害の範囲と支払限度額>
損害の範囲 | 支払限度額(被害者1名につき) | |
---|---|---|
傷害(ケガ)による損害 | 慰謝料・治療関係費・ 文書料・休業損害など |
最高120万円 |
後遺障害による損害 | 慰謝料・逸失利益など | ・障害の程度により神経系統・精神・胸腹部臓器に著しい障害を残して介護が必要な場合 常時介護が必要な場合:最高4,000万円 随時介護が必要な場合:最高3,000万円 ・上記以外の場合 |
死亡による損害 | 慰謝料(死亡慰謝料・近親者慰謝料)・葬儀費・逸失利益など | 最高3,000万円 |
死亡するまでの傷害による損害 | ※傷害(ケガ)による損害の場合と同じ | 最高120万円 |
損害の範囲 | 支払限度額 (被害者1名につき) |
|
---|---|---|
傷害 (ケガ) による 損害 |
慰謝料・ 治療関係費・ 文書料・ 休業損害など |
最高120万円 |
後遺障害による 損害 |
慰謝料・ 逸失利益など |
・障害の程度により神経系統・精神・胸腹部臓器に著しい障害を残して介護が必要な場合
常時介護が 随時介護が ・上記以外の場合 |
死亡に よる損害 |
慰謝料(死亡慰謝料・近親者慰謝料)・葬儀費・逸失利益など | 最高3,000万円 |
死亡するまでの 傷害に よる損害 |
※傷害(ケガ)による損害の場合と同じ | 最高120万円 |
【自賠責法別表第1】(※介護が必要となった場合)
第1級 | 4,000万円 |
---|---|
第2級 | 3,000万円 |
【自賠責法別表第2】
第1級 | 3,000万円 |
---|---|
第2級 | 2,590万円 |
第3級 | 2,219万円 |
第4級 | 1,889万円 |
第5級 | 1,574万円 |
第6級 | 1,296万円 |
第7級 | 1,051万円 |
第8級 | 819万円 |
第9級 | 616万円 |
第10級 | 461万円 |
第11級 | 331万円 |
第12級 | 224万円 |
第13級 | 139万円 |
第14級 | 75万円 |
【参考資料】:自賠責保険(共済)の限度額と保障内容(国土交通省)
☑任意保険にあるような示談代行サービスは、自賠責保険にはない。
☑損害賠償金が自賠責保険からの補償では足りない場合は、加害者が加入している任意保会社に請求し、示談交渉を行なっていくことになる。
自賠責保険の請求手続きについて
自賠責保険への請求には、「被害者請求」と「事前認定(任意一括制度)」という2つの方法があります。
詳しく見ていきましょう。
1.被害者請求
☑被害者の方が直接、加害者が加入している自賠責保険の取り扱い会社に損害賠償請求をする方法。
☑提出書類を自分で用意するので、内容を把握しやすいため妥当な後遺障害等級を得やすい、加害者側との示談が成立する前にまとまった保険金を受け取ることができる、というメリットがある。
☑被害者請求には、「仮渡金請求」と「本請求」の2種類がある。
<仮渡金請求とは?>
・被害者の方の経済状況によって、当面の治療費や生活費のための費用などが必要になってくる場合、賠償額が確定する前に一時金を請求することができる制度。
・死亡事故の場合は290万円、それ以外の場合は傷害の程度に応じて、40万円・20万円・5万円に分かれている。
・仮渡金請求は、被害者の方のみが、1度だけ行なうことができる。
<本請求とは?>
・交通事故によるケガの治療が完了、あるいは後遺障害の症状が固定して、すべての損害額が確定した段階で請求することができるもの。
・請求できる金額には、上限があることに注意が必要。
・加害者が加入している自賠責保険会社に必要書類を提出して請求する。
・被害者本人以外にも、被害者の方から委任を受けた者は請求できる。
【参考資料】:自賠責保険金(共済金)支払までの流れ(国土交通省)
2.「事前認定(任意一括制度)」
☑加害者側の任意保険会社に一括して請求を任せてしまう方法。
☑メリットは、必要書類の用意や申請などすべてを任意保険会社が行なってくれるので、被害者の方の手間がかからないこと。
☑しかし、どのような書類を提出したのか、その内容などについて被害者の方は知ることができないため、正しい後遺障害等級が認定されないといった問題が起きることがあるのがデメリット。
被害者請求と事前認定どちらを選ぶ?
被害者請求と事前認定(任意一括払い)には、それぞれメリットとデメリットがあります。
では、どちらを選択したらいいのでしょうか?
たとえば、損害賠償金の適正金額が300万円だった場合で考えてみます。
「被害者請求の場合」
- ・まずは被害者ご自身が自賠責保険に被害者」請求。
- ・自賠責保険の限度額である120万円を受け取る。
- ・その後、残りの180万円を加害者側の任意保険会社に請求する。
「事前認定の場合」
- ・加害者側の任意保険会社が一括で被害者の方に300万円を支払う。
- ・任意保険会社は、あとから自賠責保険分の120万円を自賠責保険に求償して、回収する。
なぜ任意保険会社は正しい金額を提示してこないのか?
任意保険会社は営利法人のため、何を目的に運営されているかというと、利益の追求ということになります。
利益を上げるためには、収入を増やし、支出を減らそうとします。
被害者の方への支払いは支出になるので、これをできるだけ低く抑えようとするのが保険会社の論理です。
たとえば、前述のように損害賠償金が本来300万円のところ、自賠責保険分の120万円だけで収まるのであれば、任意保険会社としては支払金額は0(ゼロ)円になるのですから、この金額内で提示をしてくることがあります。
もちろん、保険会社は適当に金額を算定しているわけではなく、保険のプロとして被害者の方の過失を主張したり、さまざまな根拠を提示して、なぜこの金額なのかについての主張をしてきます。
しかし、これは保険会社の都合により提示されているものです。
別の角度から見れば、また違った算定になるのが交通事故の損害賠償の世界なのです。
ですから、被害者の方がいくら示談交渉を重ねても増額には応じないのに、弁護士が法的な見地から主張をしていくと増額に応じる、ということになるわけです。
任意保険で押さえておきたいポイント
☑車両の運転者や所有者に加入義務はなく、任意に加入する保険。
☑人身事故だけでなく、物損事故、自損事故にも対応している。
☑1997(平成9)年に保険が自由化されたことで、各損保会社がさまざまな内容の保険プランを提供している
そのため、契約によって補償内容や保険金額が異なる。
☑慰謝料などの損害賠償金は、被害者請求の場合、まず自賠責保険からの保険金が支払われるが、被害者の方が重症で、症状固定後、重度の後遺障害が残った場合は損害賠償金が高額になるため、自賠責保険からの保険金だけでは足りないケースが出てくる。
そうした不足分を補うために加入するのが、任意保険になる。
☑多くの場合、示談代行サービスがついているため、保険会社が加害者の代理人となり、被害者の方と示談交渉を行なうことになる。
☑なお、被害者の方自身が加入している任意保険からの保険金を受け取ることもできるで、確認することも大切。
・交通事故で問題になる自賠責保険と任意保険の関係とは?
・【交通事故】自賠責保険に対する被害者請求の方法
・交通事故で被害者が死亡した場合に加害者に請求できる損害賠償の項目とは?
・【交通事故】弁護士費用が保険金で出る。弁護士費用特約。
労災保険で知っておくべき知識
労災保険とは?
☑労働中のケガや病気により、後遺障害を負ったり、死亡した場合を労働災害(労災)という。
☑労災のうち、業務中のものを「業務災害」、通勤中の交通事故などによるケガや後遺障害、死亡を「通勤災害」という。
厚生労働省:労働災害が発生したとき
東京労働局:「通勤災害について」
☑業務災害や通勤災害では、被害者の方は「労災保険」を使うことができる。
☑労災保険というのは、被害者の方が労災認定を受けた場合に、本人やご遺族に対して保険給付を行なう制度。
☑労災保険は国から補償を受けることになる。
それは、災害補償制度が「労働基準法」や「労働者災害補償保険法(労災保険法)」といった法律で定められているから。
【参考資料】:労災保険給付の概要(厚生労働省)
労災保険と自賠責保険はどちらを使うべきか?
次のような場合では、労災保険を優先させたほうが被害者の方が有利になる場合があります。
2.過失割合について相手方と争いになっていて解決のめどが立っていない場合
3.自賠責保険で過失割合が7割以上の場合
自賠責保険では、被害者の方の過失割合が7割以上の場合、「重過失減額」が適用されるので注意が必要です。
・被害者の過失が7割以上8割未満 → 2割の減額
・被害者の過失が8割以上9割未満 → 3割の減額
・被害者の過失が9割以上10割未満 → 5割の減額
こうしたケースでは、労災保険を優先して使ったほうがいいでしょう。
健康保険について
☑一般的な会社員が加入するのが「健康保険」。それ以外の自営業者や学生、年金生活者などが加入するのが「国民健康保険」。
国家公務員や地方公務員、私立学校教職員などは、「共済組合」に加入する。
☑問題となるのは、加害者側の任意保険会社が治療費の打ち切りを言ってくる場合。
保険会社は治療費が自社の負担になる(120万円を超える)タイミングで、症状固定を求め、治療費の支払いを打ち切ってくる場合があるので注意が必要。
☑治療費の支払いを打ち切られた場合は、ご自身の健康保険を使い、その際の領収書等はすべて保管をしておいて、あとで行なわれる示談交渉で請求していくことになる。
☑もうひとつ問題となるのは、病院が「交通事故では健康保険は使えない」と言ってくる場合。
☑通勤災害で労災保険を使っている場合、健康保険は使えないが、原則として健康保険を使うことはできるので、病院に説明する必要がある。
加害者が自賠責保険や任意保険に加入していない場合の対応策
加害者が自賠責保険に未加入の場合
前述したように、自賠責保険は車両の所有者、運転者に加入が義務付けられています。
しかし、加害者が自賠責保険に加入していなかった場合は、どうしたらいいのでしょうか?
こうした場合は、被害者を救済するために、自動車損害賠償保障法において「政府保障事業」という制度が設けられており、政府からの保障を受けることができます。
<政府保障事業から支払いを受けられる条件>
次の場合は、政府保障事業から支払いを受けることができます。
・交通事故の加害車両の保有者が明らかでない場合
ひき逃げで加害者や加害車両が特定できない場合です。
・自賠責保険等の被保険者以外の者が自動車損害賠償保障法3条の責任(運行供用者責任)を負う場合
加害者が自賠責保険に加入していない(無保険車)の場合です。
<政府保障事業から支払いを受けられない場合>
・加害者自身が損害賠償金を支払った場合
・物損事故の場合
さらに次のような場合は、その限度で政府からの保障を受けることはできないので注意が必要です。
・被害者が労災保険や健康保険、介護保険などから給付を受けた場合
・将来給付を受けられる場合
加害者が任意保険に未加入の場合
加害者が任意保険に加入していない場合は、次のような対応が考えられます。
・加害者が加入している自賠責保険に被害者請求をする
・自分が加入している人身傷害保険を利用する
・家族が搭乗者傷害特約に加入していれば利用する
・労災の場合は労災保険を利用する
交通事故問題の解決は弁護士にお任せください!
交通事故に関わる保険について、それぞれ解説しましたが、いかがでしょうか?
・いろいろな手続きがあり、複雑だ…。
・加害者側の保険会社が正しい損害賠償金を提示しないなんて知らなかった…。
と感じた方も多いかもしれません。
被害者の方が加害者側から適切な損害賠償金を受け取るには、現実問題として、なかなか高いハードルがあります。
もちろん、ご自身で加害者側の保険会社と示談交渉をしてみるのもいいと思います。
しかし結局、交渉が進まずに当法律事務所に依頼される方も多くいらっしゃいます。
一方、煩わしい保険会社との示談交渉はしたくないということで、初めから当事務所の無料相談を利用して、そのまま依頼される方もいらっしゃいます。
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代表社員 弁護士 谷原誠