自動車保険|交通事故で自賠責保険と任意保険はどっちを使う?
交通事故の被害にあった場合、被害者の方は慰謝料や治療費、逸失利益などの損害賠償金(保険金とも示談金ともいいます)を受け取ることができます。
その際、必要なのが自賠責保険(共済)と任意保険といった自動車保険です。
では、この自賠責保険と任意保険の違い、きちんと理解できていますか?
ひょっとしたら、覚え違いもあるかもしれません。
万が一、交通事故にあって傷害(ケガ)を負った場合、また治療のかいなく後遺障害が残ってしまった場合、これらの保険はとても大切になってきます。
そこで今回は、「自賠責保険と任意保険は何が、どう違うのか?」「それぞれの特徴は?」「どちらに請求するのか?」「慰謝料の相場は?」といったことを中心に、損害賠償請求する際に損をしないための知識などについてお話ししていきます。
目次
自賠責保険と任意保険の違いと特徴を理解する
自賠責保険
自賠責保険は、正式名称を自動車損害賠償責任保険といい、自動車損害賠償保障法(自賠法)で規定されています。
「自動車損害賠償保障法」
第3条(自動車損害賠償責任)
自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
法律により、自動車やバイクなどの車両を運転するすべてのドライバーに加入が美務づけられているため、強制保険と呼ばれることもあります。(自賠法第5条)
そのため、自賠責保険に加入せずに車両を運転した場合は、1年以下の懲役、または50万円以下の罰金が科されます。(自賠法第86条の3)
自賠責保険は、人身事故の被害者を救済するために設立された保険です。
そのため、自損事故によるケガや物損事故には適用されません。
保険金が支払われるのは、人身事故で被害者の方がケガや死亡した場合のみになります。
自賠責保険は法律により、支払い限度額が決められています。
損害の範囲 | 支払限度額(被害者1名につき) | |
---|---|---|
傷害(ケガ)による損害 | 慰謝料・治療関係費・ 文書料・休業損害など |
最高120万円 |
後遺障害による損害 | 慰謝料・逸失利益など | ・障害の程度により神経系統・精神・胸腹部臓器に著しい障害を残して介護が必要な場合 常時介護が必要な場合:最高4000万円 随時介護が必要な場合:最高3000万円 ・上記以外の場合 |
死亡による損害 | 慰謝料(死亡慰謝料・近親者慰謝料)・葬儀費・逸失利益など | 最高3000万円 |
死亡するまでの傷害による損害 | ※傷害(ケガ)による損害の場合と同じ | 最高120万円 |
損害の範囲 | 支払限度額 (被害者1名につき) |
|
---|---|---|
傷害 (ケガ) による 損害 |
慰謝料・ 治療関係費・ 文書料・ 休業損害など |
最高120万円 |
後遺障害による 損害 |
慰謝料・ 逸失利益など |
・障害の程度により神経系統・精神・胸腹部臓器に著しい障害を残して介護が必要な場合
常時介護が 随時介護が ・上記以外の場合 |
死亡に よる損害 |
慰謝料(死亡慰謝料・近親者慰謝料)・葬儀費・逸失利益など | 最高3000万円 |
死亡するまでの 傷害に よる損害 |
※傷害(ケガ)による損害の場合と同じ | 最高120万円 |
介護が必要な後遺障害以外の場合は、1級から14級の後遺障害等級に応じて
3000万円~75万円が支払われます。
【自賠責法別表第1】
(※介護が必要となった場合)
第1級 | 4000万円 |
---|---|
第2級 | 3000万円 |
【自賠責法別表第2】
第1級 | 3000万円 |
---|---|
第2級 | 2590万円 |
第3級 | 2219万円 |
第4級 | 1889万円 |
第5級 | 1574万円 |
第6級 | 1296万円 |
第7級 | 1051万円 |
第8級 | 819万円 |
第9級 | 616万円 |
第10級 | 461万円 |
第11級 | 331万円 |
第12級 | 224万円 |
第13級 | 139万円 |
第14級 | 75万円 |
【参考記事】
国土交通省「自賠責保険(共済)の限度額と保障内容」
任意保険にあるような示談代行サービスは、自賠責保険にはありません。
【参考記事】
「自賠責保険の限度額と保障内容」(国土交通省)
任意保険
加入義務はなく、車両の運転者や所有者が任意に加入する保険です。
人身事故(自損事故も含む)だけでなく物損事故にも対応しています。
交通事故の慰謝料などの損害賠償金は、まず自賠責保険からの保険金が支払われますが(被害者請求の場合)、被害者の方に重度の後遺障害が残ってしまった場合では高額になるため、自賠責の保険金だけでは足りない、カバーしきれないということが起きてきます。
そうした場合に備えて加入するのが任意保険になります。
被害者の方の立場からすると、自賠責保険からの保険金では足りない部分(自賠責保険金を上回る分)の損害賠償金額については加害者が加入している任意保険に請求し、
示談交渉を行なっていくことになります。
1997(平成9)年に保険が自由化されたことで、各損保会社がさまざまな内容の保険プランを提供しているので、契約によって保険金額や補償内容が異なります。
多くの場合、示談代行サービスがついているので、保険会社が加害者の代理人として被害者の方と示談交渉を行なうことになります。
交通事故発生から示談成立までの流れと手続き
通常、交通事故が発生してから示談が成立して、損害賠償金が支払われるまでには次の手続きや流れで進行していきます。
自賠責保険と任意保険のどちらを使うか?
「被害者請求」
被害者の方ご自身で直接、加害者が加入している自賠責保険に請求する方法を被害者請求といいます。
提出書類を被害者の方が用意しなければいけないので手間がかかります。
しかし、自分ですべてを把握できるので、提出資料・書類に不備・不足があったために本来よりも低い後遺障害等級しか認定されないといったことを防ぐことができます。
「仮渡金請求と本請求」
被害者請求では、仮渡金請求と本請求という2つの請求方法があります。
①仮渡金請求
加害者側から交通事故の損害賠償金の支払いを受けられないといったことがあります。
そうした時、被害者の方が当面の治療費や生活費のための費用として、一時金を請求することを仮渡金請求といいます。
・死亡事故の場合:290万円
・傷害(ケガ)の場合:その程度に応じて、40万円・20万円・5万円
②本請求
ケガの治療が完了するか、後遺障害の症状が固定して損害項目と金額が確定した段階で請求することを本請求といいます。
自賠責保険には限度額があるため、請求できる金額には上限があることに注意が必要です。
加害者が加入している自賠責保険会社に必要書類を揃えて提出して、請求します。
被害者本人でなくても、被害者から委任を受けた者は請求できます。
なお、以前は内払金請求というものがありましたが、本請求と統一されたため現在はありません。
<主な提出書類>
• 支払請求書兼支払指図書
• 交通事故証明書
• 交通事故発生状況報告書
• 医師の診断書または死亡診断書
• 診療報酬明細書
• 通院交通費明細書
• 休業損害証明書
• 印鑑証明書
• 委任状(被害者本人が請求できないとき)
• 戸籍謄本
• 後遺障害診断書
• レントゲン写真等
詳しい内容は下記のサイトを参考にしてください。
【参考記事】
「自賠責保険(共済)の支払までの流れと請求方法」(国土交通省)
「事前認定(任意一括制度)」
加害者側の任意保険会社に一括して請求を任せてしまう方法が事前認定です。
必要書類の用意や申請などすべてを任意保険会社が行なってくれるので、被害者の方としてはラクなのですが、どういった書類を提出したのか、その内容などを被害者の方自身は知ることができません。
そのため、正しい後遺障害等級が認定されないなどの問題が起きる場合があります。
被害者請求と事前認定の関係とは?
たとえば、交通事故でケガを負い、損害賠償金額の合計が350万円だった場合、被害者請求ではまず自賠責保険に被害者請求をして、限度額の120万円を受け取ってから、残りの230万円を加害者側の任意保険会社に請求することになります。
事前認定の場合、まず350万円を任意保険会社が一括して被害者の方に支払い、そのうちの120万円(自賠責保険の支払限度額)をあとから自賠責保険に求償することで、任意保険会社は自賠責保険から回収するという仕組みになっています。
ここで問題なのは、任意保険会社は自分たちの支払い分をできるだけ少なくするために、そもそも350万円という金額を提示せず、120万円といった低い金額を提示してくる場合があることです。
ここで被害者の方がこの金額に納得してしまえば、任意保険会社から被害者の方への支払いは0円になるので、任意保険会社の支払いはなくなるのです。
ですから、被害者の方としては損をしないように、正しい金額を主張していくことが大切なのです。
このように、被害者請求と事前認定にはそれぞれメリットとデメリットがあるので、よく検討して請求することが大切です。
自賠責保険に請求できる損害項目と支払い基準
傷害(ケガ)を負った場合の自賠責保険の支払いの対象となる損害項目と基準額は
次のとおりです。
<支払いの対象となる損害項目と基準額
(傷害の場合)>
支払いの対象となる損害項目 | 基準額 |
---|---|
治療費(診察料・手術料・投薬料・処置料・入院料等) | 必要かつ妥当な実費 |
入院中の看護料 (原則として12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合) |
1日4200円 |
自宅介護・通院介護 | 1日2100円 |
入院諸雑費 | 1日1100円 |
通院交通費 | 必要かつ妥当な実費 |
義肢等の費用(義肢・義眼・眼鏡・補聴器・松葉杖等) | 必要かつ妥当な実費 (メガネの費用は 50000円まで) |
診断書等の費用(診断書・診療報酬明細書等) | 必要かつ妥当な実費 |
文書料(交通事故証明書・印鑑証明書・住民票等) | 必要かつ妥当な実費 |
休業損害(事故の傷害で発生した収入の減少分) | 原則として1日6100円 (これ以上の収入減の立証ができる場合は別途) |
傷害慰謝料 | 1日4300円 |
支払いの対象となる 損害項目 |
基準額 |
---|---|
治療費 (診察料・手術料・投薬料・処置料・入院料等) |
必要かつ妥当な 実費 |
入院中の看護料 (原則として12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合) |
1日4200円 |
自宅介護・通院介護 | 1日2100円 |
入院諸雑費 | 1日1100円 |
通院交通費 | 必要かつ妥当な 実費 |
義肢等の費用 (義肢・義眼・眼鏡・補聴器・松葉杖等) |
必要かつ妥当な 実費 (メガネの費用は 50000円まで) |
診断書等の費用 (診断書・診療報酬明細書等) |
必要かつ妥当な 実費 |
文書料 (交通事故証明書・印鑑証明書・住民票等) |
必要かつ妥当な 実費 |
休業損害 (事故の傷害で発生した収入の減少分) |
原則として 1日6100円 (これ以上の収入減の立証ができる場合は別途) |
傷害慰謝料 | 1日4300円 |
<支払いの対象となる損害項目と基準額
(後遺障害の場合)>
支払いの対象となる損害項目 | 基準額 |
---|---|
逸失利益 (後遺障害が残ったことで将来発生すると考えられる収入源) |
前年の収入を基礎として、 各障害等級等級(1~14級)に応じた労働能力喪失率、喪失期間などから算出する。 |
後遺障害慰謝料 (精神的・肉体的な苦痛に対する補償) (原則として12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合) |
自賠責法別表第1・2を参照 |
支払いの対象となる 損害項目 |
基準額 |
---|---|
逸失利益 (後遺障害が残ったことで将来発生すると考えられる収入源) |
前年の収入を基礎として、各障害等級等級(1~14級)に応じた労働能力喪失率、喪失期間などから算出する。 |
後遺障害慰謝料 (精神的・肉体的な苦痛に対する補償) (原則として12歳以下の子供に近親者等が付き添った場合) |
自賠責法別表 第1・2を参照 |
なお、死亡事故の場合はこちらを参考にしてください。
自賠責保険の重過失減額に注意!
被害者側に過失が認められる場合、加害者側の任意保険会社は必ず過失相殺を主張してきます。
しかし、自賠責保険は被害者救済を目的としているため、被害者側の過失が70%未満の場合は減額されずに全額が支払われます。
ただし、注意が必要なのは被害者側の過失が70%を超える場合では「重過失減額」が適用されることです。
<重過失減額の割合>
・被害者の過失が7割以上8割未満
→ 2割の減額
・被害者の過失が8割以上9割未満
→ 3割の減額
・被害者の過失が9割以上10割未満
→ 5割の減額
任意保険には弁護士基準の金額を主張するべき
交通事故の慰謝料などの損害賠償金額を算出する場合、次の3つの基準が使われます。
「自賠責基準の相場」
法律によって定められた自賠責保険の基準。
自賠責保険は被害者救済のために設立されたもので金額には上限があるため、3つの基準の中ではもっとも低い金額になる。
「任意保険基準の相場」
各任意保険会社が独自に設けている基準。
各社非公表としているが、概ね自賠責基準より少し高い金額で設定されていると考えられる。
「弁護士(裁判)基準の相場」
過去の裁判例から算出されている基準のため、もっとも金額が高額になる。
弁護士が加害者側の任意保険会社と交渉する際は、この基準で算出した金額を主張していく。
法的根拠がしっかりしているため、裁判で認められる可能性が高い。
自賠責の保険金だからといって、被害者の方が自賠責基準の金額で納得する必要はありません。
また、任意保険会社は自賠責基準や任意保険基準で計算した金額を提示してきますが、それは本来であれば被害者の方が受け取るべき金額より低いものです。
ですから、被害者の方は本来受け取るべき弁護士(裁判)基準で計算した金額を主張していくべきなのです。
加害者が自賠責保険に加入していない場合の対処法
ところで、被害者の方としては困った事態が起きる場合があります。
それは、加害者が自賠責保険に加入していない、あるいは自賠責保険には加入しているが任意保険に加入していない、といった場合です。
そうした場合、どのように対応したらいいのかについては次のページをぜひ参考にしてください。
以上、交通事故の被害にあった場合に大切な自賠責保険と任意保険の違いや、それぞれの内容について解説しました。
保険会社の提示額に納得がいかない、示談交渉がなかなか進まないといった問題を抱えている場合は一度、交通事故に強い弁護士に相談してみることをおすすめします。
弁護士は被害者の方の代理人として交渉に挑み、慰謝料などの損害賠償金が増額するように全力を尽くします。
必ず、あなたの心強い味方になってくれるでしょう。
代表社員 弁護士 谷原誠