交通事故の人身傷害保険とは?
交通事故に関係する保険には、「自賠責保険」と「任意保険」があります。
本記事では、任意保険の中の「人身傷害保険」について解説していきます。
「聞いたことはあるが、よくは知らない」
「加入しているはずだが……よくわからない」
そうした人も多いかもしれませんが、交通事故の被害者の方にとって、人身傷害保険はメリットがあるので、本当のところをお話ししていきます。
自賠責保険の特徴や内容とは?
ここでは、自賠責保険の主な特徴や補償内容について解説します。
加入が義務付けられている
強制保険
自動車損害賠償保障法に基づき、すべての車両(自動車・二輪車)に加入が義務付けられています。
そのため、強制保険とも呼ばれます。
人身事故のみが補償対象
・被害者救済を目的としているため、人身事故のみが補償の対象になります。
・自損事故や物損事故には適用されません。
支払い限度額がある
・支払い限度額(被害者1名ごと)が決められています。
※被害者が複数いる場合でも支払限度額はが減額されません。
<自賠責保険の支払限度額> |
・傷害(ケガ)による損害の場合:120万円 |
・被害者が死亡した場合:3000万円 |
・傷害により後遺障害が残り、介護が必要な場合:4000万~3000万円 |
・その他の後遺障害の場合:1級から14級の後遺障害等級に 応じて3000万円~75万円 |
自賠責法別表第1
(介護を要する後遺障害)
第1級 | 4000万円 | 第2級 | 3000万円 |
---|
自賠責法別表第2
(その他の後遺障害)
第1級 | 3000万円 |
---|---|
第2級 | 2690万円 |
第3級 | 2219万円 |
第4級 | 1889万円 |
第5級 | 1574万円 |
第6級 | 1296万円 |
第7級 | 1051万円 |
第8級 | 819万円 |
第9級 | 616万円 |
第10級 | 461万円 |
第11級 | 331万円 |
第12級 | 224万円 |
第13級 | 139万円 |
第14級 | 75万円 |
参考情報:「後遺障害等級表」(国土交通省)
補償内容の項目はさまざまある
自賠責保険では次のような補償項目があります。
①傷害による損害
- ・治療費
- ・看護料
- ・看護料
- ・諸雑費
- ・通院交通費
- ・義肢等(義眼、松葉づえ、補聴器等)の費用
- ・診断書等の費用
<文書料>
交通事故証明書等の発行手数料
<休業損害>
・交通事故で負った傷害(ケガ)により休業をしたことで得られなかった収入分の補償。
・原則として1日6,100円。(※これ以上の収入減の立証で19,000円を限度として、その実額が支払われます)
<入通院慰謝料>
1日につき4,300円
②後遺障害による損害
障害の程度(1級~14級)に応じて、逸失利益や慰謝料等が支払われます。
<後遺障害逸失利益>
後遺症が残り、後遺障害を負わなければ将来的に得られていたはずの収入(利益)。
(年収)✕(労働能力喪失率)✕(後遺障害確定時の年齢における就労可能年数のライプニッツ係数)
<後遺障害慰謝料>
・被害者の方が認定された等級に応じて金額が決められている。
・ただし、慰謝料の算定基準は次の3つがあり、どの基準で算定するかによって金額が大きく変わってくる。
<慰謝料の3つの算定基準> |
①自賠責基準⇒もっとも金額が低くなる |
②任意保険基準⇒自賠責基準より少し高くなる |
③弁護士(裁判)基準⇒もっとも金額が 高くなる |
<自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の金額表>
③死亡による損害
<死亡慰謝料>
・自賠責基準による死亡慰謝料は、「被害者本人の死亡慰謝料」と「ご家族などの近親者慰謝料」を合計した金額で支払われる。
・被害者本人の死亡慰謝料:400万円(一律)
・近親者慰謝料:配偶者・父母(養父母も含む)・子(養子・認知した子・胎児も含む)の人数によって次のように金額が変わる。
1人の場合/550万円
2人の場合/650万円
3人以上の場合/750万円
※被扶養者の場合は上記の金額に200万円が上乗せされる。
・弁護士(裁判)基準による死亡慰謝料は、被害者の方の家庭での立場などによって、相場金額が設定されている。
<死亡慰謝料(弁護士(裁判)基準)の
相場金額>
被害者が一家の支柱の場合 | 2800万円 |
---|---|
被害者が母親・配偶者の場合 | 2500万円 |
被害者がその他(独身者・ 幼児・高齢者など)の場合 |
2000万~ 2500万円 |
<死亡逸失利益>
・被害者の方が生きていれば、将来的に得られるはずだった収入(利益)。
(年収)×(就労可能年数に対するライプニッツ係数)×(1-生活費控除率)
=(死亡逸失利益)
<葬儀費用>
・通夜、祭壇、火葬、墓石などの費用で、墓地費用や香典返しなどは除く。
・「社会通念上、必要かつ妥当な実費」として認められれば100万円まで支払われる
参考情報:「限度額と補償内容」(国土交通省)
任意保険はなぜ必要なのか?
前述したように、自賠責保険では支払限度額が設定されています。
そのため、後遺障害が重度のケースなどでは、自賠責保険からの金額だけでは被害者の方の損害賠償をすべて賄うことができない場合があり、そのために加入するのが任意保険です。
加入義務はない
車両の運転者や所有者が任意で加入する保険です。
すべての事故に対応
人身事故だけでなく、自損事故にも物損事故にも対応しています。
示談代行サービスがついている
多くの保険では「示談代行サービス」がついているため、任意保険会社が加害者の代理人として被害者の方と示談交渉を行なうことになります。
さまざまな内容の保険がある
・1997(平成9)年に保険が自由化されたことで、各損保会社がさまざまな内容の保険プランを提供しています。
そのため、契約によって保険金額や補償内容が異なることに注意が必要です。
・また、基本補償にプラスして補償内容を厚くすることができる、さまざまな「特約」が用意されています。
<特約の例>
☑人身傷害保険
被害者自身や同乗者のケガの治療費(実費)や、慰謝料、逸失利益、介護費などが過失相殺による減額無しに支払われる保険です。
☑弁護士費用特約
弁護士費用が最大300万円まで補償されるものが多くあります。
☑搭乗者傷害特約
対象の自動車の搭乗者が交通事故で傷害(ケガ)や死亡した場合、一定額が支払われるものです。
☑他車運転特約
契約車以外で事故を起こしてしまった場合に自分の自動車保険を利用して補償を受けるものです。
人身傷害保険の内容を詳しく知る
人身傷害保険は、加入者が被保険自動車や他の自動車に搭乗中の交通事故、歩行中の交通事故で傷害(ケガ)を負った場合に、約款で規定された基準に従って算定された損害額が支払われる保険です。
ここでは、人身傷害保険の特徴を解説します。
損害賠償責任の有無や過失の程度を問わずに支払いを受けることができる
人身傷害保険の最大の特徴は、加入者の損害賠償責任の有無や過失の程度を問わずに支払いを受けることができることです。
交通事故の発生の原因となった過失(責任)が、被害者と加害者それぞれにどのくらいの割合であるのかを表すのが「過失割合」です。
過失割合は、被害者30%に対して加害者70%、といったように表されます。
たとえば、損害賠償金の合計が1,500万円の場合、過失割合が被害者30%対加害者70%であれば、被害者の方の受け取る金額から450万円が減額されてしまいます。
これを「過失相殺」といいます。
被害者の方としては過失割合がつけば、その分を損害賠償金から減額されてしまうわけですが、人身傷害保険では被害者の方の過失割合に関係なく保険金が支払われるというメリットがあります。
示談成立前でも保険金を受け取ることができる
過失割合は、交通事故の損害賠償で争点となることのひとつのため、示談交渉でもめてしまい、なかなか進まないことがあります。
その点、人身傷害保険では交通事故で過失割合が決定していない場合や相手方との示談が成立する前でも迅速に支払いを受けることができるのです。
加害者が任意保険に加入していない場合にも使える
加害者が任意保険に加入していることのほうが多いのですが、中には加入していない場合があります。
そうした場合は、まず自賠責保険に請求し、不足分があれば加害者個人に請求していくことになるのですが、資金力がなく支払えないというケースがあります。
このような場合でも、人身傷害保険から保険金を受け取ることができるので、被害者の方にとってはメリットが大きいといえるでしょう。
自損事故の場合でも支払いを受けることができる
自損事故では加害者がいないので、保険金の請求相手はいないことになります。
このような場合でも人身傷害保険は自損事故にも対応しているので、損害分の補償を受けることができます。
弁護士(裁判)基準より金額が低い
しかし、デメリットもあります。
支払を受けられる保険金額は、加害者に対して法律上請求できる金額ではなく、保険約款が定められた金額です。
そのため、弁護士(裁判)基準で算定する金額より低い金額になっているのが通常です。
内容をよく確認する必要あり
人身傷害保険は、各損保会社によって内容が違いますが、通常は次の場合に支払いを受けることができます。
☑自動車(原動機付自転車を含む)の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故
☑被保険自動車の運行中の、飛来又は落下してきた物との衝突
☑被保険自動車の運行中の火災又は爆発
☑被保険自動車の運行中の落下
被害者の方としては、ご自身のケースが当てはまるかどうか、よく確認する必要があります。
人身傷害保険の請求でのポイント
前述したように、人身傷害保険からの保険金は、被害者の方が加害者側の任意保険会社から受け取ることができる金額より低くなります。
そこで、被害者の方が有利になるように請求する場合のポイントがあります。
①まず、加害者側の保険会社に法律上の慰謝料など損害賠償額の請求をして示談金の支払いを受ける。
その後に、自分の過失分を人身傷害保険に請求する方法。
②先に、人身傷害保険に保険金を請求して支払いを受ける。
その後、不足分を加害者側の任意保険会社に請求する方法。
どちらの方法が被害者の方にとって有利になるのかはケースバイケースといえます。
ですから、交通事故に強い弁護士にまずは相談してみるのもいいと思います。
代表社員 弁護士 谷原誠