死亡事故の場合の自賠責保険の慰謝料はいくら?手続と計算
突然の交通事故で大切な人を亡くしてしまった時、ご家族は大きな悲しみを抱えることになります。
「これから、どうすればいいのか…」と途方に暮れてしまうこともあると思いますが、ご家族には亡くなった大切な人のためにもやらなければいけないことがあります。
それは、加害者の刑事手続きへの参加や慰謝料などの損害賠償請求です。
今回は、まずご家族が最初に取り組まなければいけない「自動車損害賠償責任保険」(自賠責保険)への申請方法と注意点、加害者の刑事事件との関係などを中心に解説します。
目次
自賠責保険に請求できる金額・
慰謝料
どんな損害を請求できるか?
死亡事故の場合に、自賠責保険に請求できる金額は、
・慰謝料
・死亡逸失利益
があります。
葬儀関係費用
自賠責保険に請求できる葬儀関係費用は、100万円です。
慰謝料
自賠責保険に請求できる慰謝料は、被害者本人分とご遺族の慰謝料があります。
被害者本人分は400万円です。
ご遺族の分としては、父母(養父母を含む)、配偶者、子供(養子、認知した子、胎児を含む)が請求することができます。
ご遺族の人数によって以下のように異なってきます。
1人 | 550万円 |
---|---|
2人 | 650万円 |
3人以上 | 750万円 |
被害者に被扶養者がいる場合は、これに200万円が加算されます。
死亡逸失利益
逸失利益というのは、死亡事故に遭わなければ、将来稼げたであろう収入を損害とするものです。
計算式としては、
(被害者の年収ー被害者の年間生活費)
✕ 就労可能年数に対するライプニッツ係数です。
年収は、職業についている人の場合は、事故前1年間の収入額と死亡時の年齢に対応する年齢別平均給与額の年相当額のいずれか高い金額です。
幼児・児童・学生・家事従事者は、全年齢平均給与額の年相当額です。ただし、59歳以上で年齢別平均給与額が全年齢平均給与額を下回る場合は、年齢別平均給与額の年相当額となります。
年間生活費は被扶養者がいる場合は年収の35%、いない場合は50%です。
ライプニッツ係数は、将来受け取るべき金額を今、一括で受け取ることから、中間利息を控除する、というものです。
【参考情報】:「就労可能年数とライプニッツ係数表」国土交通省
具体的な保険金の計算例
それでは、具体例を用いて、自賠責保険金を計算してみます。
65歳兼業主婦の女性で年収300万円、配偶者と子供1人で計算します。
葬儀関係費用は、100万円です。
慰謝料は、被害者本人分が350万円、ご遺族分が650万円となります。
死亡逸失利益は、次のとおりとなります。
年収は、年齢別平均給与額は281万7,600円なので、より高額である300万円を基礎とします。
(300万円 ー(300万円 ✕ 35%))✕ 7.722
= 1,505万7,900円
そうすると、合計額は、2,605万7,900円となります。
次からは死亡事故の自賠責保険に関する注意べきポイントを解説していきます。
自賠責保険と任意保険の関係とは?
自動車に関係する保険には、自動車損害賠償責任保険と任意保険があります。
自動車やバイクを使用する際、すべての運転者は強制的に自動車損害賠償責任保険に加入しなければいけません。
これは、「自動車損害賠償法」という法律の第5条に定められているものです。
すべてのドライバーに加入が義務付けられているため「強制保険」と呼ばれることもありますが、多くの方は「自賠責保険」という略称で覚えていると思います。
自賠責保険は、自損事故による自身のケガや物損事故には適用されません。
人身事故の被害を受けて、ケガや死亡をした場合にのみ保険金などが支払われることになります。
それは、自賠責保険が人身事故の被害者を救済するために作られた保険だからです。
これに対して、任意保険はドライバーや自動車の所有者などが任意で加入する保険で、各損害保険会社がさまざまな内容の保険を扱っています。
じつは、自賠責保険で補償される保険金額等は法律によって定められており、支払限度額が決まっています。
被害者が死亡した場合は上限3,000万円です。
自賠責保険から支払われる金額は、被害者に対する最低限の補償ですから、被害者のご家族としては、自賠責保険からの保険金では足りない部分の損害賠償金額を加害者側の任意保険会社に請求することになります。
その際、金額などで合意に至らない場合は任意保険会社と示談交渉を進めていくことになります。
なお、被害者自らが加入している任意保険から保険金を受け取れる場合もあるので、ご家族は確認をしてください。
遺族がすぐに自賠責保険に
請求してはいけない理由
まず刑事手続きでは、警察や検察による捜査が行なわれます。
交通事故の捜査では、警察は現場検証や加害者への取り調べなどを行ない、実況見分調書を作成します。
その際、警察は被害者のご家族にも聞き取り調査を行ないます。
生前の被害者の様子やご家族の無念さ、加害者に対する処罰感情などについて聞き取りが行なわれるので、ご家族の思いをそのままお話ししてください。
捜査終了後、検察官は加害者を起訴するかどうかを決定します。
起訴された場合は、刑事裁判が行なわれることになります。
刑事裁判の結果、加害者の量刑が確定することになりますが、ここでご家族が注意しなければいけないことがあります。
量刑が確定する前に自賠責保険へ申請をして保険金を受け取ってしまうと、加害者の量刑が軽くなってしまうのです。
これは、加害者側の任意保険会社との示談交渉の際も同様です。
通常、四十九日が終わった頃に、任意保険会社から保険金の提示が行なわれますが、すぐに示談を成立させてしまうと、加害者の弁護人は、「被害弁償が行われて、ご遺族の精神的損害が回復した」と主張します。
その結果、加害者の量刑が軽くなってしまいます。
そこで、加害者の刑事事件が進行している間は、自賠責保険に被害者請求したり、任意保険会社と示談交渉を始めるのを控えることが多くあります。
刑事裁判の進行具合を考えながら示談交渉を進めることが大切なのです。
なお、加害者が起訴されて裁判になった場合、「被害者参加制度」というものがあります。
これは公判(裁判)に立ち会い、ご家族としての意見を述べるなどの参加をすることができるものです。
希望する場合は検察官に申し出ておく必要があります。
【参考記事】:「刑事手続における犯罪被害者のための制度」裁判所
死亡事故で自賠責保険への
被害者請求の必要書類
自賠責保険は、保険なので、原則的な考え方は、契約者である加害者が請求することになります。
しかし、加害者が請求手続を行わないことがあることから、被害者保護の見地より、自賠責保険に対しては、被害者が自分で損害賠償額の請求をすることができるとされています。
この手続を「被害者請求」といいます。
被害者請求をするには、自賠責保険会社に対して請求手続をすることになりますが、この手続は、書類を提出して行うことになります。
死亡事故で自賠責保険に被害者請求をする際に、主に必要な書類は、以下のとおりです。
・損害賠償額
・仮渡金支払請求書
・交通事故証明書
(自動車安全運転センターから取得します)
・事故発生状況報告書
・医師の死体検案書(死亡診断書)
・診療報酬明細書
(死亡までの間に治療を受けた時)
・付添看護自認書または看護料領収書
(死亡までの間に必要であった時)
・休業損害の証明書
(死亡までの間に休業した時)
・委任状および(委任者の)印鑑証明
死亡事故等で請求権者が複数いる場合は、
原則として1名を代理者として、他の請求権者
全員の委任状および印鑑証明が必要です。
・戸籍謄本(被害者との関係を証明します)
被害者請求について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
自賠責保険に直接請求するかどうかの判断ポイントとは?
交通死亡事故の損害賠償金を受け取る方法としては、
受領し、その後任意保険会社と示談交渉する
②自賠責保険金額を含めた全額を
任意保険会社と示談交渉する
という2種類があります。
②の場合には、任意保険会社が遺族に賠償金を支払った後に、任意保険会社が自賠責保険会社に保険金を請求して受領することになります。
自賠責保険会社に先に被害者請求した方がよい場合もあり、それは、以下のような場合です。
高齢者などで損害賠償金を
計算しても自賠責保険の
範囲内に収まる場合
亡くなったのが高齢者の場合、逸失利益(将来、得られるはずだった収入)などが低くなってしまうため、損害賠償金の合計が自賠責保険の限度額を超えないことがあります。
こうした場合は、加害者側の任意保険会社に請求する必要がないので、自賠責保険に請求してよいでしょう。
被害者の過失が大きく
自賠責保険の方が高額となる
場合(過失減額の関係)
被害者の過失が大きくて、損害賠償金の合計が自賠責保険金額よりも低くなってしまう場合は、自賠責保険に請求するのがよいでしょう。
加害者との交渉の前に
一定金額を確保したい場合
ご家族に経済的な余裕がないなどの理由で、まとまった金額を確保したい場合には、先に自賠責保険に申請する方もいます。
一定金額を確保することで、余裕をもって加害者側の任意保険会社との示談交渉にのぞむことができるというメリットがあります。
【参考論文】「自動車損害賠償保障法における 被害者の直接請求」(岳衛著、立命館法学2004年1月)
自賠責保険の過失減額とは?
過失相殺とは、被害者側に過失がある場合、過失割合に基づいて損害賠償額を減額することです。
交通死亡事故では、損害賠償額が数千万円から場合によっては1億円を超えることがあります。
過失割合が10%違っただけで、数百万円から1,000万円以上も賠償額が違ってくることがあるので、過失相殺は非常に重要なものです。
被害者の過失割合が大きい場合、任意保険会社との示談交渉はなかなか成立しない傾向があります。
一方、自賠責保険会社は過失割合がある程度高くても(厳密には7割未満の過失までは)、損害賠償金や保険金の減額はなく、満額が支払われます。
ただし、自賠責保険では被害者の過失割合が7割を超えたときは、賠償金や保険額から次の割合が減額されるので注意が必要です。
→ 2割の減額
・被害者の過失が8割以上9割未満
→ 3割の減額
・被害者の過失が9割以上10割未満
→ 5割の減額
このように、被害者の過失割合が大きい場合は、任意保険会社から支払われる損害賠償金額が自賠責保険会社から支払われる賠償金額におさまってしまうこともあるので、先に自賠責保険に被害者請求をした方がよい、という場合もあります。
過失相殺について、もっと詳しく知りたい方は、「交通事故の過失割合と過失相殺で損をしないため」の記事を参考にしてください。
死亡事故でも自賠責保険金が支払われない場合
死亡事故の被害に遭ったとしても、自賠責保険金が支払われない場合があります。
それは、
・重複契約
の場合です。
保険契約者または被保険者の
悪意による損害
加害者等の保険契約者または被保険者が悪意で事故を起こした場合には、免責事由に該当し、自賠責保険金が支払われません。
この「悪意」が何を意味するのかについては争いがありますが、自賠責保険実務は、被害者保護の観点から、「悪意」は、損害の発生を意欲する「確定的故意」であると解しているようです(概説交通事故賠償法、第3版、藤村和夫、山野嘉朗著、404頁)。
重複契約
重複契約というのは、1台の自動車に2つ以上の自賠責保険契約が締結されている場合です。
この場合には、1契約以外の契約については、保険者は免責され、支払を受けることができません。
自賠責保険について不安な時は
弁護士に相談を!
ここまで、交通死亡事故における自賠責保険への被害者請求などについて解説しました。
被害者のご家族にはやらなければいけないことが山ほどあります。
事故の証拠集め、刑事事件への被害者参加、損害賠償額の計算、保険金の申請、保険会社との示談交渉などです。
しかし、法律や保険に関する知識や手続きは難しいと感じる方もいらっしゃるでしょう。
その場合は一度、交通事故に詳しい弁護士に相談することを検討してみてください。
みらい総合法律事務所は、交通事故の被害者からの無料相談を受け付けています。
まず、無料で弁護士に相談し、弁護士に依頼した方が得になりそうな場合は、正式に弁護士に依頼するという方も多くいらっしゃいます。
その際、必ず契約書を締結して、報酬金額を確認しておくことが大切です。
「報酬は後で話し合いましょう」というような法律事務所は避けたほうがいいでしょう。
また、できる限り、交通事故に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故の事案では、法律知識の他、医学的知識や自賠責後遺障害等級認定に関する実務知識、保険の知識などが要求されますが、すべての弁護士がこうした知識や実務に詳しいわけではないからです。
次の条件に当てはまるのであれば、交通事故に精通した弁護士といえます。
①交通事故に特化したホームページがある
②交通事故の専門書に執筆している
③ニュース番組などから「交通事故の専門家」として取材を受けている
なお、みらい総合法律事務所では、死亡事故と後遺症示談に注力して専門性を高めており、
「典型後遺障害と損害賠償実務」(ぎょうせい)など専門書を複数執筆しています。
また、テレビ、新聞、出版等の各メディアから「交通事故の専門家」として取材を受けています。
交通死亡事故に関して困った時や不安がある時は、ぜひ一度、みらい総合法律事務所に相談していただければと思います。
代表社員 弁護士 谷原誠