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むちうち症の後遺障害等級認定と示談のポイント

最終更新日 2024年 06月17日

むちうち症の後遺障害等級認定と示談のポイント│慰謝料最大化のための基礎知識

むちうち症は外見に現れづらく、交通事故トラブルの解決ではテクニックのいる症状です。

解決金には「後遺障害等級」と「示談の進め方」の2つが強く影響し、通院実績や検査が少しでも不足すると、それだけで多額の損失に繋がってしまいます。

トラブル解決時に納得できる結果を得るため、等級認定基準と慰謝料の目安の他に、基本的な加害者との示談の心構えを押さえましょう。

適正な認定が得られない可能性を踏まえ、異議申立のポイントも理解しておくと安心できます。

むちうち症の基礎知識


むちうち症とは、事故等の衝撃で頸部が「むち」のようにしなり、筋肉・靭帯・椎間板・神経等の組織が傷ついて生じる症状です。

医学上の正式な診断名として、カルテに「頸椎捻挫」「頸部捻挫」「外傷性頸部症候群」等と記入されるのが一般的です。

▼むちうち症でよく見られる症状
●首の痛み(頸部痛)
●頭痛・めまい
●眼精疲労
●二の腕や手指の痺れ

交通事故トラブルとして扱う上で難しい点は、症状の個人差が大きい点です。

生じるタイミングも一概に言えず、医学的には傷害を負ってから48時間後がピークとされるところ、時間が経ってから違和感を自覚するケースが存在します。

さらに、頭痛等の一部の症状が心因性のものと重複することから、事故の後遺症と認められなかったり、加害者から素因減額を主張されたりすることも問題です。

そうは言っても、むちうち症の解決事例は豊富にあります。

警察庁による令和元年分の調査結果によれば、事故被害者の約56%が主に頸部の軽傷を負っており、例年同じような状況です。

損害賠償請求の実務も研究が進んでおり、十分な解決金を得るための対応は決して難しくありません。

症状の型と治療期間の目安

むちうち症を引き起こす症状と損傷には、複数の型があります。

型を分類しようとする試みは複数ありますが、一般的なのは下記①~⑤の5種類に分ける考え方です。

治療期間については、最も多いとされる「頸椎捻挫型」で最短1か月半とされています。全体では3か月が目安であり、6か月ほどに長引く場合も珍しくありません。

①頸椎捻挫型

…首回りや肩甲骨に、圧痛・運動痛・運動制限等が認められるもの

※頸部の筋線維、項部筋遷移、前後縦靭帯、椎間関節包、椎弓間靭帯等の軟部組織が、過度に伸張または断裂したことが原因

②根症状型

…疼痛や放散痛の他に、知覚障害等が現れるもの

※外傷による椎間孔内出血や浮腫、あるいは外傷前から存在する変形性頚椎症の骨棘等が、外傷を機に頸の神経根を刺激したことが原因

③バレ・リュー症状型

…頭痛やめまい、目の疲労や耳鳴り等、自覚的な症状が主となるもの

※後頚部交感神経の刺激が原因と推定されているものの、まだ解明されていません。

④根症状+バレ・リュー症状混合型

…②と③の両方の症状が現れるもの

⑤脊髄症状型

…知覚や運動機能に障害が生じるもの

※「むちうち症」と呼ぶには重すぎる症状であり、非骨傷性の脊髄損傷と考えられるようになっています。

むちうち損傷の後遺障害等級│12級・14級の認定基準


後遺症にかかる損害賠償請求は、被害者側で書類を準備し、自賠責損害調査事務所から「後遺障害等級認定」を得ることが前提です。

むちうち症で得られる可能性があるのは、下記の等級です(自賠責施行令別表第2より)。

第12級13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
第14級9号:局部に神経症状を残すもの

この後説明するように、後遺障害等級は支払われるべき金額に強く影響します。

以下で解説する各等級の認定基準は、トラブル解決のための必須知識と言っても過言ではありません。

後遺障害等級に該当すると判断される2つの条件

まず理解したいのは、等級認定を得るための基本条件です。

被害者から申請を受け付けた自賠責損害調査事務所では、下記2つのポイントを満たしている場合のみ「等級に該当する」と判断します。

審査で確認されるのは、後遺障害診断書・検査資料等といった提出書類です。

①後遺障害の存在が医学的に証明できるか
②事故と因果関係があると判断できるか

むちうち症の等級認定で問題になりやすいのは、上記①についてどう判断してもらえるかです。

個別具体的な症状は被害者のごく自覚的なものが中心となる特性から、客観的にも明らかになるよう「検査資料」を完備しなくてはなりません。

その準備状況が、該当する等級(あるいは非該当)を左右します。

第12級の認定基準

むちうち症で後遺障害等級12級の認定が得られるのは、その障害の存在が「他覚的に証明」できているケースです。

具体的には、画像所見や神経学的所見といった「検査資料」が揃っており、なぜそのような症状が起きているのか仕組みや原因をはっきり説明できる場合だと言えます。

第14級の認定基準

むちうち症で後遺障害等級14級の認定が得られるのは、障害の存在が「医学的に説明」できているケースです。

かみ砕くと、第12級の認定に必要な検査資料こそ揃わないものの、症状につき「交通事故によって生じたもの」と説明できる場合だと言えます。

認定に必要な説明は、事故様態の他に治療経過(通院実績等)、実際に起こっている生活への影響等の証明を地道に積み上げて、全体で説得力のある資料を用意しなければなりません。

むちうち後遺障害14級の慰謝料についてもっと詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。

むちうち症でもらえる慰謝料・逸失利益の相場


むちうち症について請求できる額は、該当する等級によって異なります。

適正な等級が得られないと、後遺症に対して支払われる下記費目が減少し、全体で数十万円から数百万円と多額の損失になるのです。

▼むちうち症にかかる主な損害の費目

後遺障害慰謝料:後遺症による精神的苦痛に対して支払われる費目
逸失利益:後遺症のせいで失われた労働能力の喪失分(=将来の減収分)

以降で金額の目安や算定基準を見れば、等級認定と解決金の額との関係がよりはっきりと分かるでしょう。

後遺障害慰謝料【12級と14級の違い】

事故被害者に対して支払われる慰謝料には、等級ごとに過去の判例に基づいて定められた目安(=弁護士基準)があります。

仮に、むちうち症で第12級であるべきところを第14級あるいは非該当と認定されれば、それだけで180万円前後の減額に繋がります(下記表参照)。

後遺障害等級 弁護士基準 自賠責基準※
第12級 290万円 94万円
第14級 110万円 32万円

※自賠責基準とは
重過失がない限り、被害者について最低限保障されている保険金の額です。

交通事故の損害賠償では、示談や訴訟で慰謝料全体の額を取り決め、自賠責基準を超える部分について任意保険から支払う手続きを取ります。

交通事故の慰謝料についてもっと詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。

逸失利益【12級と14級の違い】

逸失利益については、事故前の収入を基準とし、労働能力喪失の割合と期間に相当する分を損害とします。ここで、失われた労働能力の評価基準を確認してみましょう。

後遺障害等級 労働能力喪失率の基準 労働能力喪失期間の目安
第12級 14% 10年以下
第14級 5% 5年以下

等級による逸失利益の違いは、実際に計算してみると分かります。

以降の計算例は、令和2年4月1日以降の交通事故で、かつ被害者を過失のない
年収450万円の会社員と想定しているものです。

【計算例①】第14級で労働能力喪失期間を3年とした場合

基礎収入450万円 × 労働能力喪失率5% ×
ライプニッツ係数2.8286
63万6435円

【計算例②】第12級で労働能力喪失期間を5年とした場合

基礎収入450万円 × 労働能力喪失率14% ×
ラライプニッツ係数4.5797
288万5211円

【計算例①】第12級で労働能力喪失期間を7年とした場合

基礎収入450万円 × 労働能力喪失率14% ×
ライプニッツ係数6.2303
392万5089円

※ライプニッツ係数について…逸失利益の受け取りには前払いによる利益が発生すると考え、これを中間利息として控除します。労働能力喪失期間から控除後の額を計算するための値として、実務では「ライプニッツ係数」を用います。

交通事故の逸失利益についてもっと詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。

むちうち症の示談のポイント


むちうち症を負った事故例では、適切な後遺障害等級の獲得を前提に、示談・訴訟の対策も必要です。

事故の加害者に誠意があるとは限らないのはもちろんのこと、保険会社も味方ではありません。

保険金について連絡してくる担当者は、治療の必要性を認めない等、何とかして減額を図ろうとしてくるものです。

事故に遭った時は、解決のため、最低でも次のポイントに留意しましょう。

設備と診療スキルのある医療機関を受診する

示談の第1のポイントは、必ず整形外科等の専門性のある医療機関を受診することです。

大前提として、設備と診療スキルを持つ医療機関でないと、等級認定に必要な後遺障害診断書は作成してもらえません。

自己判断で接骨院・整骨院等にかかると、治療の必要性に疑義があるとして費用請求できなくなる他、等級認定で重視される治療経過に抜け漏れが生じます。

症状固定日まで示談に応じない

第2のポイントは、治療中は示談に応じないことです。

後遺障害として等級認定や損害賠償金が得られるようになるのは、治療を続けても改善の見込みがないと医師が判断した「症状固定日」の後です。

これより前に示談を進めると、後遺障害慰謝料や逸失利益の請求で著しく不利になります。

「まだ通院中なのに示談書が送られてきた」等といった場合は、対応を保留し、すぐ弁護士に相談しましょう。

症状固定についてもっと詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。

治療費打ち切りトラブルは自分で対応しない

第3のポイントは、保険会社から「これ以上は治療費を支払えない」と言われた時の対応です。

自力で交渉しても、支払いを継続してもらえる見込みはほとんどありません。

そうかといって自費や社会保険で治療を続けると、単に経済的な負担が重くなるばかりか、後の交渉で通院実績として認められなくなる等のリスクがあります。

治療の必要性を判断するのは、あくまでも医師となりますので、医師と相談し、治療を続けるかどうか、決めるようにしましょう。

治療費を打ち切られた場合には、後日、示談交渉の際に請求していくことになります。

治療費打ち切りについてもっと詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。

むちうち症で異議申し立てする時の4つのポイント


示談の進め方と合わせて注意したいのは、スムーズに適正な後遺障害等級が得られるとは限らない点です。

再度審査してもらうための「異議申立」では、非該当または低い等級になった原因を押さえ、有力な資料を改めて揃え直すのが基本と考えましょう。

▼異議申し立てのポイント(むちうち症の場合)

●非該当or低い等級になった原因を分析する
●追加の検査で新しい医学的資料を得る
●出来るだけ客観性の高い検査を受ける
●手続きや書類作成は弁護士に依頼する

非該当or低い等級になった原因を分析する

異議申立の着手時には、最初の手続きを検証し、「後遺障害の存在」と「事故との因果関係」について説明できていなかった部分を見つけなくてはなりません。

調査事務所の判断として考えられるのは、認定基準にそぐわない以下のようなものです。

●事故の態様が軽微に見える
●通院実績が不足している
●症状に一貫性や連続性がない
●症状に重篤性や常時性がない

追加の検査で新たな医学的資料を得る

調査事務所が上記のような判断を下したのは、主に「書類の不備・不足」のせいです。

異議申立では、説明できていなかった事情を補う書面を追加しなくてはなりません。

ここで言う追加分とは、受診で得られる医学的資料を指します。認定基準で説明した通り、むちうち症では特に「検査で得られる資料」(画像所見や神経学的所見)が重要です。

▼むちうち症の診断で用いられる検査(参考)

レントゲン
撮像
骨棘の有無、椎骨の並び方、神経根圧迫の有無等を調べるのに向く(画像検査)
MRI検査 靭帯・椎間板・神経根等の軟部組織を調べるのに向く(画像検査)
深部腱反射
検査
打診することで、腱反射の異常を調べる(神経学的検査)
感覚検査 刺激することで、皮膚の感覚の異常を調べる(神経学的検査)
スパークリングテスト 頭部を傾斜させて圧迫し、神経根の障害を調べる(神経学的検査)
ジャクソン
テスト
同上

客観性の高い検査を受ける
(レントゲンやMRI等)

むちうち症で用いられる検査には、個別の信頼度に違いがあります。

調査事務所が高く評価するのは、実施に被害者の応答や積極的協力を必要としない検査手法です。

表で紹介した中では、レントゲン撮像とMRI検査が有力視されます。

こうした客観性の高い検査をまだ受けていないのなら、医師と改めて相談して実施してもらえるようにしましょう。

手続きは弁護士に依頼する

むちうち症について納得できる等級を獲得するための要は、最終的に資料をどう整理するかです。

治療経過・被害者本人の訴え・事故の様態・主治医の意見といった要素をとりまとめ、認定基準に合致する状態をリアルに伝えなくてはなりません。

上記の作業は一般の人には難しく、後遺障害の取扱い実績に優れた弁護士の関与が必須です。

そこで、返ってきた等級認定の結果に違和感があるケースでは、すぐ無料相談を活用する等して弁護士にコンタクトをとるのがベストと言えます。

後遺障害等級認定の異議申立についてもっと詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。

むちうち症で被害者側に有利な結果が出た判例


むちうち症の損害賠償を巡って訴訟になったケースは、今後起こる交通事故の対応の指針になります。

ここで紹介するのは、請求の基準を押さえた地道な立証活動が実を結び、被害者側に有利な結果が出た判例です。

画像・神経学上の所見のない認定事例

追突事故により各部位に捻挫を負い、腰部痛および腰痛に悩まされている男性被害者の例です。

本事例では、症状の存在を証明し得る他覚的所見がないものの、鍼灸接骨院と整形外科で各通院期間22か月・その他クリニックで6か月にも及ぶ治療実績が認められました。

結果、自賠責保険では第14級9号と認定され、これを支持した裁判所でも労働能力喪失率5%×5年間の逸失利益が認められています。

(東京地裁平成28年3月16日判決、交通事故民事裁判例集49巻2号349頁)

頸椎椎間板ヘルニアにつき14級→12級に修正された事例

追突事故に遭った後、頸椎椎間板ヘルニアと診断された路線バス運転手の事例です。

本事例で争われたのは、上記の症状を生じさせたのが事故であるかどうかです。

裁判所は、①事故から2か月後のMRI検査で診断されている事実、②知覚異常が現れている部分と椎間板ヘルニアとの整合性、そして③事故前に被害者が訴える症状で業務に支障が出た形跡がない点に注目しています。

上記①~③に基づき、まず問題の頸椎椎間板ヘルニアと交通事故との間に因果関係があると認められました。

その上で、症状も他覚的に証明されているとし、自賠責の認定(第14級9号)より重い第12級13号相当と判断されています。

(横浜地裁平成26年7月17日判決、交通事故民事裁判例集47巻4号904頁)

労働能力喪失率&期間につき被害者の事情が考慮された事例

自賠責で後遺障害等級14級と認定された、ピアノ講師として働く33歳女性の例です。

被害者は頸部捻挫と頸椎不安定症および右尺骨神経麻痺を負い、具体的には肩凝り・右腕の痛み・しびれ感・握力低下等の症状に悩まされていました。

裁判所は職業・性別・年齢等の固有事情を勘案し、上記の症状を重く見て、労働能力喪失率10%×34年間と多額の逸失利益を認めています。

(神戸地裁平成12年11月20日判決、交通事故民事裁判例集33巻6号1904頁)

労働能力喪失率につき職業への影響が考慮された事例

自賠責で後遺障害等級12級と認定された、下請縫製業者として働く64歳女性の例です。

裁判所が取り上げたのは、①業務用ミシンを使った営業がほとんど困難になったこと、②被害者の年齢を考慮すると再就職も難しいこと、そして③同居家族に家事労働を任せている事情の3つです。

(大阪地裁平成7年3月22日判決、交通事故民事裁判例集28巻2号458頁)

むちうち後遺障害の慰謝料については、次の記事も参考にしてください。

まとめ│むちうち症の解決は後遺障害に強い法律事務所へ

むちうち症の損害額の評価は、「適正な後遺障害等級の獲得」と「正しい示談の対応」があってこそのものです。

治療・検査はしっかりと実施してもらい、ある程度快癒が進んでも焦って示談対応しないようにしましょう。

▼むちうち症の解決のポイント
●設備と診療スキルのある医療機関を受診する
●徹底した検査で所見を揃える
●治療中(症状固定日より前)は示談に応じない
●治療費打ち切り対応や異議申立は必ず弁護士に相談する

過去の事例では、被害者の個別の事情(職業等)や治療実績が裁判所に汲まれているものが少なからず見られます。

知識・経験共に豊かな専門家に任せれば、当初の提示額を上回る解決金を得ることは決して難しくありません。

相談のタイミングが早ければ、治療中の情報共有やサポートが行き届き、より確実な解決が望めます。

自力で対応中のケースでも、少しでも不安があれば、後遺障害に強い法律事務所に状況を打ち明けてみましょう。

【解説動画】交通事故のむち打ち後遺障害
(12級、14級)のポイントと増額事例

監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠
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