交通事故の後遺障害慰謝料で被害者がやってはいけない5つのこと
交通事故の被害者の方は、慰謝料などの損害賠償金を受け取るために、ご自身の後遺障害等級を申請する必要があります。
後遺障害等級は、もっとも重い1級から順に14級まであり、障害が残った体の部位によって各号数が定められています。
【参考記事】
国土交通省「自賠責保険(共済)の限度額と保障内容」
被害者の方は、後遺障害等級の認定を受けるためにやるべきことがあるのですが、同時に、やってはいけないことがあります。
この記事では、後遺障害等級に関する大切なポイントと、後遺障害慰謝料の請求でやってはいけないことについて解説していきます。
目次
1.加害者側の保険会社の言いなりになってはいけない
交通事故にあい、ケガをした場合は入院や通院をして治療を行ないます。
当然、医療機関は被害者の方のケガの治療に全力で当たりますが、治療のかいなく完治しないこともあります。
その場合、担当医師が「症状固定」と診断します。
症状固定とは、もうこれ以上の治療をしてもケガがよくならない、完治しないという状態のため、ここで残った体の不具合は後遺症ということになります。
ところで、通院・入院などの費用は誰が支払うのかというと、加害者側の任意保険会社です。
そのため、加害者側の任意保険会社から
「今月で治療費の支払いを打ち切るので、症状固定としてください」
などと言われる場合がありますが、ここであまり深く考えずに、保険会社の言いなりになってはいけません。
なぜなら、原則として症状固定としてしまうと、症状固定日以降に治療を行なったとしても、その治療費や交通費、休業損害などを加害者側に請求することができなくなってしまうからです。
ですから、症状固定については保険会社の話をうのみにせずに、担当医師としっかり相談することが肝心です。
2.症状固定の前に示談交渉を進めてはいけない
被害者の方は、加害者側の任意保険会社に対して「損害賠償請求」をすることができますが、中には「早く示談交渉を始めなければいけない」、「交渉は早く終わらせてしまいたい」と焦ってしまう人もいます。
しかし、焦ってはいけません。
なぜなら、ご自身の自賠責後遺障害等級が決定してからでないと、慰謝料などの正確な金額が出せないため、示談交渉を始めても無駄になってしまうからです。
ですから、症状固定の診断があってから後遺障害等級の申請をして、それから示談交渉をするようにしましょう。
通常は、事故後6ヵ月ほどで症状固定とされることが多いといえます。
なお、後遺障害等級は損害保険料率算出機構(損保料率機構)という機関に申請することになります。
【参考情報】損害保険料率算出機構
https://www.giroj.or.jp/
この機関のもとで自賠責損害調査事務所が調査を行ない、最終的に損保料率機構が審査を行ないます。
該当する場合には、後遺障害等級の認定を受けることになります。
認定を受けると、ご自身の後遺症は後遺障害となり、その等級によって慰謝料などの損害賠償金額が決まることになります。
【参考記事】
【後遺障害等級】認定を受けると得られるメリットとデメリットとは?
3.損害賠償請求の時効消滅を忘れてはいけない
損害賠償金(保険金とも示談金ともいいます)は、加害者側の任意保険会社と示談交渉することにより決めていきます。
その際、注意しなければいけないのは、請求には「時効」があることです。
自賠責保険に対する被害者請求の時効
傷害・死亡の場合は事故日から3年、後遺障害がある場合は症状固定日から3年です。
加害者に対する損害賠償請求の時効
加害者に対する損害賠償請求の時効は、「損害及び加害者を知った時」(民法724条)から、物損については3年、人身損害部分については5年です。
あるいは、損害及び加害者がわからなかったとしても、事故日から20年を経過すれば時効により消滅します。
後遺障害がある場合には、症状固定した時点で初めて後遺障害を含む損害について知ったことになるので、人身損害の時効は症状固定日から5年となります。
より正確には、事故等の時点が午前零時でない限り、初日不算入とされますので、当該日の翌日が起算点となります。(最高裁昭和57年10月19日判決)
4.間違った等級が認定されてはいけない
ここでひとつ、注意しなければいけないことがあります。
それは、ご自身の後遺障害等級が間違って認定される場合があることです。
では、本来であれば認定されるべき等級よりも低い等級が認められてしまった場合、どのようなことが起きるでしょうか?
たとえば、慰謝料などの損害賠償金額で大きな違いが出てきてしまいます。
特に、後遺障害慰謝料と逸失利益は、自賠責後遺障害等級に応じて計算されるためです。
後遺障害慰謝料の相場は、以下のようになっています。
弁護士基準による後遺障害慰謝料の相場金額
等級 | 慰謝料額 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
特に重度の後遺障害の場合、等級が1級違っただけで、数千万円単位で賠償金額が違ってくるのが通常です。
ですから、間違った後遺障害等級が認定されないようにしなければいけません。
後遺障害等級の認定を受けるためには、さまざまな医学的な資料や書類を提出しなければいけません。
担当医から書いてもらう診断書などの資料もあります。
じつは、こうした資料が不足していたり、内容に不備があったために、本来とは違った後遺障害等級が認められてしまうこともあるのです。
ですから、不備や不足がないようにしっかり確認することが大切です。
5.等級に納得がいかない場合は泣き寝入りをしてはいけない
通常、申請から1ヵ月ほどで後遺障害等級が認定されます。
なお、高次脳機能障害などの症状が複雑な場合には、申請から6ヵ月かかるようなこともあります。
ところで、ここで問題が起きる場合があります。
それは、後遺障害等級が認定されない、あるいは認定された後遺障害等級が低くて、納得がいかない、という不服がある時です。
こんな時は、どうすればいいでしょうか?
じつは、被害者自らが「異議申立」(いぎもうしたて)ができるのです。
場合によっては、それでも納得のいかない結果が出されることもありますが、その時は何度でも異議申立することができます。
【参考情報】国土交通省「異議申立」
https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/04relief/jibai/proper.html#igimoushitate
ただし、注意しなければいけないのは、ただ「なぜ等級が認められないのか!」、「その等級は低すぎるのではないか?」と不満を書いても、「後遺症の症状がつらくて耐えられない」と訴えても、そうした書面提出では結果は変わることは期待できない、ということです。
望む結果を手に入れたいのであれば、損保料率機構からの回答に書いてある理由をよく読み、検討し、その理由を覆すような新たな医学的な証拠、たとえば新たな検査結果や画像、医師の診断書、意見書等の書面を提出して他覚的所見を補う必要があります。
つまり、被害者自らが積極的に新たな資料を集めなければいけないのです。
ですから、交通事故の後遺障害等級に詳しい医師に再検査や診断書の作成などの依頼をして、さらに、その内容に足りない部分がないか、交通事故に強い弁護士に確認してもらうことも検討するといいと思います。
【参考記事】
後遺障害等級認定とは?認定の仕組みと異議申立のポイント
代表社員 弁護士 谷原誠