膝の靭帯損傷の後遺障害等級と慰謝料の相場金額の計算方法
交通事故の被害では、身体のさまざまな部分に傷害(ケガ)を負ってしまう場合があります。
下肢(脚)のケガで多いものの1つが膝の靭帯損傷です。
本記事では、膝の靭帯損傷を負った場合に認定される後遺障害等級と被害者の方が受け取ることができる慰謝料の相場金額を中心に解説していきます。
膝の靭帯とは?
膝の靭帯は、大腿骨と脛骨を結びつけ安定させるためにある結合組織で、主にコラーゲンを主成分とし、繊維状の束になっています。
靭帯には次の4つの種類があります。
- 内側側副靭帯(ないそくそくふくじんたい)
- 外側側副靭帯(がいそくそくふくじんたい)
- 前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)
- 後十字靭帯(こうじゅうじじんたい)
内側側副靭帯は関節の内側、外側側副靭帯は関節の外側にあります。
前十字靭帯と後十字靭帯は、関節内部に交差するようにあります。
交通事故による下肢のケガでは膝の靭帯を損傷することが多いので、被害者の方は正しい後遺障害等級認定を受け、適切な額の慰謝料を受け取ることが大切です。
参考情報:膝靭帯損傷(日本整形外科学会)
膝靭帯の損傷で認定される後遺障害等級
膝の靭帯損傷の後遺障害については、次の3つのポイントから判断していきます。
神経症状(痛みやしびれ等)
- ・膝を動かした時の痛み
- ・膝の屈曲時の痛み
- ・重いものを持った時の痛み など
「12級13号」
後遺障害の内容:局部に頑固な神経症状を残すもの
自賠責保険金額:224万円 |
労働能力喪失率:14% |
認定される要件:他覚所見により神経系統の障害が証明されるもの |
「14級9号」
後遺障害の内容:局部に神経症状を残すもの
自賠責保険金額:75万円 |
労働能力喪失率:5% |
認定される要件:神経系統の障害が医学的に説明可能なもの |
<神経症状で注意するべきポイント>
・「12級13号」と「14級9号」の後遺障害の内容の違いは、「頑固な」が入っているかどうかです。
認定要件の違いは、「他覚所見により神経系統の障害が証明できるか」と「医学的に説明可能かどうか」の違いです。
・他覚所見とは、レントゲンやCT、MRI等の画像検査などのことで、12級13号はこれらによって症状の原因となる損傷が確認され、医学的に証明できる場合に認定されます。
・画像検査などでは症状の原因となる損傷が確認できないが、神経症状が交通事故の後遺症として生じていると医学的に説明できる場合、14級9号が認定されます。
機能障害(可動域制限)
靭帯損傷により、膝関節の可動域が制限されて狭くなり、以前のようには動かすことができなくなった状態。
「8級7号」
後遺障害の内容:一下肢の三大関節中の一関節の用を廃したもの
自賠責保険金額:819万円 |
労働能力喪失率:14% |
・三大関節とは、下肢の場合は「股関節」、「膝関節」、「足首関節」です。
・次のいずれかに該当した場合、「関節の用を廃したもの」と認められます。
☑関節が強直
☑関節の完全弛緩性麻痺
☑自分で動かした時に、正常なほうの関節と比較して可動域角度が10%以下になった場合
☑人工関節、人工骨頭を挿入置換した場合、正常なほうの関節と比較して可動域が2分の1以下に制限されている場合
「10級11号」
後遺障害の内容:一下肢の三大関節中の一関節の機能に著しい障害を残すもの
自賠責保険金額:461万円 |
労働能力喪失率:27% |
関節の機能に著しい障害を残すものとは、正常なほうの関節と比較して可動域が2分の1(50%)以下になった場合です。
「12級7号」
後遺障害の内容:一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの
自賠責保険金額:224万円 |
労働能力喪失率:14% |
関節の機能に障害を残すものとは、正常なほうの関節と比較して可動域が4分の3以下になった場合です。
動揺関節(関節の不安定さ)
靭帯を損傷したために関節の安定性が失われ、不安定でぐらつく状態になったり、本来の可動域以上に関節が曲がってしまうような状態。
「8級(8級7号準用)」
「一関節の用を廃したもの」に該当します。
膝の場合は安定性を維持するために、つねに硬性補装具が必要な状態です。
「10級(10級11号準用)」
「一関節の機能に著しい障害を残すもの」に該当します。
膝の場合は安定性を維持するために、時々、硬性補装具を必要とする状態です。
「12級(12級7号準用)」
重激な労働等の際以外には、硬性補装具を必要としない状態です。
靭帯損傷の慰謝料の種類と計算基準
交通事故の慰謝料は4種類あります
交通事故の慰謝料は、被害者の方が負った精神的苦痛や損害に対して支払われます。
被害者ご自身が受け取ることができる3種類の慰謝料と、近親者(ご家族)が受け取ることができる慰謝料の計4種類あることを覚えておいてください。
①入通院慰謝料(傷害慰謝料)
- ・傷害(ケガ)を負って、その治療のために入院・通院した場合に支払われる慰謝料。
- ・通院1日から受け取ることができる。
- ・対象となる期間は、ケガの治療を始めてから症状固定まで。
②後遺障害慰謝料
- ・被害者の方に後遺障害等級が認定された場合に支払われる慰謝料。
- ・後遺障害等級は1級から14級まであり、等級の違いによって金額が大きく変わる。
③死亡慰謝料
- ・被害者の方が亡くなった場合に支払われる慰謝料。
- ・受取人は法的な相続人になる(被害者の方はすで亡くなっているため)。
- ・相続人には順位と分配割合が定められていることに注意が必要。
④近親者慰謝料
被害者の方が亡くなった場合や重度の後遺障害が残ってしまった場合に、ご家族の精神的な苦痛や損害がより大きいと認定されたときに支払われる慰謝料です。
膝の靭帯損傷の後遺障害の場合、入通院の期間中は入通院慰謝料を受け取ることができますが、後遺障害等級が認定されてからは、後遺障害慰謝料に切り替わります。
慰謝料計算では基準が変わると金額が大きく違ってくる
交通事故の慰謝料はどうやって計算するのかというと、じつは次の3つの基準が使われています。
どの基準で計算するかによって金額が大きく変わってくるので、加害者側の保険会社から金額の提示があった際には必ず確認してください。
①「自賠責基準」
自賠責保険で定められている基準で、金額はもっとも低くなる。
②「任意保険基準」
- ・各任意保険会社が独自に設けている基準で、各社非公表。
- ・自賠責基準よりも少し高い金額になるように設定されていると考えられる。
③弁護士(裁判)基準
- ・金額がもっとも高額になる基準で、被害者の方が本来受け取るべき金額になる。
- ・これまでの膨大な裁判例から導き出されている基準で、弁護士や裁判所が用いる。
- ・弁護士が被害者の方の代理人として加害者側の任意保険会社と示談交渉をする際や裁判になった場合には、弁護士(裁判)基準で計算した金額を主張していく。
示談交渉は慎重に!
加害者が任意保険に加入している場合、その保険会社が被害者の方に自賠責基準や任意保険基準で計算した金額(慰謝料などの損害賠償金)を提示してきます。
被害者の方が、この金額に納得するなら示談成立です。
しかし前述したように、自賠責基準や任意保険基準で計算した金額はかなり低く、被害者の方が受け取るべき正しい金額ではありません。
保険会社というのは(株式会社の場合)利益を追求する営利法人ですから、自社の支出となる被害者の方への支払い分(示談金とも保険金ともいいます)をできるだけ低く計算して、提示してきます。
保険会社が提示してくる金額は正しいとは限らないので、そのまま信じて、示談書にサインをしてはいけないのです。
膝の靭帯損傷の慰謝料の計算方法と相場金額
ここでは、膝の靭帯損傷における「入通院慰謝料」と「後遺障害慰謝料」について、「自賠責基準」と「弁護士(裁判)基準」それぞれでの適切な相場金額を計算してみます。
自賠責基準による入通院慰謝料の計算
自賠責基準による入通院慰謝料は、1日あたりの金額が4,300円と定められており、それをベースに次の計算式で算出します。
<入通院慰謝料(自賠責基準)の計算の注意ポイント>
ここで注意が必要なのは、入通院日数(治療の対象日数)です。
次のうち、短いほうが採用されます。
B)「実際に治療した日数×2」
<治療の対象日数の例>
ここでは、次の条件で考えてみます。
治療期間 | 1か月の入院 + 3か月の通院 = 120日間 |
実際に治療した日数 | 1か月の入院 + 3か月の通院のうち、平均で週2回の通院をしたとすると……30日 + 26日(13週 × 2日) = 56日間 |
B)4,300円 × (56日 × 2) = 481,600円
この場合、日数が短いB)が採用されるので、入通院慰謝料として認められるのは、481,600円になります。
弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料の早見表
入通院慰謝料を弁護士(裁判)基準で算定する際には、日弁連交通事故相談センター東京支部が発行している『損害賠償額算定基準』に記載されている「入通院慰謝料の算定表」から金額を導き出します(計算式は使いません)。
なお、算定表にはケガの程度によって「軽傷用」と「重傷用」の2種類があります。
<弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料の算定表(むち打ちなどの軽傷用)>
<弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料の算定表(重傷用)>
ここでも自賠責基準の時と同条件(1か月の入院+3か月の通院)での慰謝料額について見てみましょう。
「重傷用」の表で、「入院1か月」と「通院3か月」が交わった部分を見てください。
「115」となっているので、弁護士(裁判)基準での入通院慰謝料は115万円になるわけです。
後遺障害慰謝料の計算(自賠責基準/弁護士(裁判)基準)
後遺障害慰謝料は、被害者の方が認定された後遺障害等級に応じて、次の早見表のようにあらかじめ相場金額が定められています。
<自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の早見表>
たとえば、膝の靭帯損傷で後遺障害10級11号が認定された場合、弁護士(裁判)基準での相場金額は550万円です。
仮に、加害者側の任意保険会社から提示された金額が190万円くらいなら、それは自賠責基準で計算した金額ですから、被害者の方が受け取るべき正しい相場金額ではない、ということになります。
また、これはあくまでも相場金額なので、事故の態様や状況によっては増額する可能性があります。
いずれの場合も、すぐに交通事故に強い弁護士に相談されることをおすすめします。
みらい総合法律事務所による靭帯損傷の解決事例
ここでは、みらい総合法律事務所が実際に解決した、膝の靭帯損傷での慰謝料等増額事例をご紹介したいと思います。
通常、加害者側の任意保険会社は、いくらくらいの金額を提示してくるのか?
弁護士に示談交渉を依頼すると、どのくらい増額するのか?
ぜひ、交通事故の損害賠償における示談の現実を知っていただきたいと思います。
【靭帯損傷の解決事例①】
61歳女性の慰謝料などが約2.2倍に増額
61歳の女性(主婦)が膝の左前後十字靭帯損傷などの傷害(ケガ)を負って、後遺障害10級11号が認定された交通事故です。
加害者側の任意保険会社が提示した示談金(損害賠償金)は約689万円で、この金額が妥当なものかどうか確認するため、被害者の方がみらい総合法律事務所の無料相談を利用。
弁護士から「増額可能」との判断が伝えられたため、示談交渉のすべてを依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉した結果、最終的に1550万円で解決。
当初提示額から約2.2倍に増額したことになります。
【靭帯損傷の解決事例②】
49歳女性の自転車衝突事故で慰謝料などが約2.5倍に増額
49歳の女性が集荷の仕事中、自転車に衝突されて膝の右前十字靭帯断損傷などの傷害を負った自転車事故です。
被害者の方には関節可動域制限等の後遺症が残り、後遺障害12級7号が認定され、加害者側の任意保険会社は示談金として約283万円を提示。
被害者の方が増額を希望し、みらい総合法律事務所の無料相談を利用しところ、弁護士の見解は「増額可能」というものだったため、示談交渉のすべてを依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉した結果、保険会社の当初提示額から約2.5倍の700万円まで増額したところで合意に至った事例です。
【靭帯損傷の解決事例③】
20歳男性の慰謝料などが約4.2倍に増額
20歳の男性が横断歩道を歩行中、右折自動車に衝突された交通事故です。
右膝の前十字靭帯損傷により、機能障害の後遺症が残り、後遺障害12級7号が認定され、加害者側の任意保険会社は約264万円の損害賠償金(示談金)を提示。
被害者の方は、この金額の妥当性を確認するため、みらい総合法律事務所の無料相談を利用したところ、弁護士の意見は「増額可能」とのことだったため、示談交渉のすべてを依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉したところ、逸失利益が争点となりましたが、最終的には約1,036万円で解決。
保険会社の当初提示額から約4.2倍に増額したことになります。
【靭帯損傷の解決事例④】
37歳男性の慰謝料などが約2.5倍に増額
37歳の男性が交通事故の被害により、膝の前十字靭帯損傷、胸部打撲などの傷害を負い、右膝の可動域制限の後遺症が残ってしまった事例です。
後遺障害12級7号が認定され、加害者側の任意保険会社は示談金として約424万円を提示。
被害者の方は、この金額が正しいかどうかの判断のため、みらい総合法律事務所の無料相談を利用し、そのまま示談交渉を依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉した結果、最終的に約2.5倍に増額の1,050万円で解決となりました。
代表社員 弁護士 谷原誠