交通事故の後遺障害等級認定の手続と慰謝料
この記事を読むと次のことがわかります
まず、あなたに知っておいていただきたいことは、後遺障害等級が間違っていると、被害者の方は、事故により怪我などの損害を被った上、適正な賠償額を得られずさらに損害を被る、ということです。
現実に、後遺障害等級が間違って認定されることが起こっています。
私たち、みらい総合法律事務所では、年間1000件以上の被害者の方々から相談を受け、多くの交通事故の損害賠償事件を解決してきました。
そこで、この記事では、正しい後遺障害等級が認定されるための申請方法、慰謝料額などについて、まずは実際に私たち弁護士が依頼を受け、解決したオリジナルの事例などを紹介しながら、
・自賠責後遺障害等級が正しく認定されることの重要性
・後遺障害等級が正しく認定されるための方法
などについて解説していきたいと思います。
目次
交通事故でケガをした場合、まずは保険会社から治療費等を払ってもらいながら治療をすることになります。
そして、治療をしつつも、その間に警察の事情聴取等に対応しなければなりません。
しかし、ケガが完全に治らず「症状固定」となり、「後遺症」が残ってしまうことがあります。
症状固定というのは、それ以上治療を続けても、治療効果が上がらなくなった状態のことです。
その場合には、これからの人生で苦痛が続くわけですから、その分の慰謝料などを支払ってもらう必要がありますが、そのためには「どの程度重い」後遺症なのかを判定しなければなりません。
それが、「自賠責後遺障害等級認定」です。
自賠責で後遺障害に該当するための要件は、以下のとおりです。
(1)症状固定の状態で身体に存する傷害と因果関係を有する障害であること
(2)将来においても回復が困難と見込まれる精神的又は身体的な毀損状態であること
(3)障害が医学的に認められること
(4)労働能力の喪失を伴う障害であること
(5)自賠法施行令に定める等級に該当するものであること
後遺障害等級は、交通事故でケガをした被害者に残った後遺症を、ケガをした部位や程度により類型化した表に基づいて評価し、〇級〇号というように認定されます。
後遺障害等級は1級~14級までに区分されていて、1級がもっとも重い後遺障害で、慰謝料などの賠償金額も高額になります。
たとえば、後遺障害等級1級は四肢麻痺や遷延性意識障害などで寝たきりになったような場合や両眼失明など、重篤な後遺症が残った場合に認定されます。
交通事故によって両足を膝関節以上で切断するというケガをしてしまった場合、治療を行なっても切断してしまった足は元に戻ることはありませんので、足の切断という後遺症が残った、ということになり1級5号が認定されます。
なお、片足を膝関節以上で切断した場合は、後遺障害等級4級5号です。
交通事故のケガでもっとも多いのは頸椎捻挫や腰椎捻挫です。
この場合、後遺症としては神経症状が残ってしまい、後遺障害等級は、12級13号か14級9号、ということになります。
認定された後遺障害等級に応じて、慰謝料や逸失利益などが計算され、損害賠償金トータルの金額が算出されることになるので、後遺障害等級認定の手続はとても大切です。
自賠責後遺障害等級表や後遺障害等級申請について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
後遺障害等級申請で交通事故の被害者がやってはいけない7つのこと
後遺障害の内容別の詳細記事
後遺障害の内容別に詳しい記事を読みたい方は、以下の記事をお読みください。
遷延性意識障害の後遺障害等級と解決事例集
脊髄損傷
【脊髄損傷】後遺障害等級と慰謝料の相場と示談金の計算
高次脳機能障害
【高次脳機能障害】症状・判断ポイント・後遺障害等級と増額した事例
脊柱圧迫骨折
【脊椎圧迫骨折】交通事故の頸椎・胸椎・腰椎の後遺障害と慰謝料計算
手足の指の切断
手足の指の切断における後遺障害等級と慰謝料の知識
てんかん
交通事故で【てんかん】の後遺障害等級と慰謝料の相場
上肢・下肢の骨折
交通事故での骨折の後遺障害等級と慰謝料の相場と計算
正しい後遺障害等級の認定を受けることで慰謝料がアップ!
なぜ、正しい後遺障害等級の認定を受けることが重要なのでしょうか。
それは、交通事故の損害賠償では、後遺障害等級によって、慰謝料の計算が行われるからです。
ここで、みらい総合法律事務所が実際の解決した事例をご紹介します。
正しい後遺障害等級が認定されたことで慰謝料などが約4300万円もアップした事例
31歳の女性が、交通事故で負ったケガのため外貌醜状と上肢機能障害の後遺症が残ってしまい、自賠責後遺障害等級でそれぞれ7級と12級が認定されたという事案です。
保険会社は、「被害者の過失が大きい」として、「すでに治療中に支払った治療費や休業損害を合計すると、これ以上払うものはない」と主張して示談金(損害賠償金)の支払いを拒否してきました。
被害者の方から相談を受け、みらい総合法律事務所で検討した結果、「後遺障害等級が間違っているのではないか」との結論になり、被害者の方は異議申立から示談交渉までのすべてを依頼されました。
異議申立の結果、後遺障害等級は上肢機能障害が12級から10級にアップしました。
その後、弁護士が保険会社と交渉しましたが決裂したため提訴。
最終的には裁判で当事務所の主張が認められ、約4300万円で解決した事例です。
こうした事例を見ると、いかに後遺障害等級が大切なのかご理解いただけると思います。
そして、被害者の方だけで判断、交渉していくのがいかに難しいかもおわかりいただけるかと思います。
【参考記事】
みらい総合法律事務所の解決実績はこちら
後遺障害等級によって慰謝料が計算される
後遺障害によって請求できる2つの損害なぜ、後遺障害等級が異なることで、上記のように賠償額が大きく違ってくるのでしょうか。
それは、交通事故の損害賠償額の計算は、後遺障害等級が何級かによって、行われるためです。
後遺障害等級によって計算が違ってくるのは、
(1)後遺障害慰謝料
(2)逸失利益
の2つです。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料というのは、後遺障害が残ったことによって、将来ずっと精神的な苦痛を受け続けることになるので、それを補償するためのものです。
後遺障害等級1級から14級まで、過去の裁判例によって、だいたいの相場が定まっています。
【後遺障害慰謝料の相場金額)
等級 | 慰謝料額 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
慰謝料について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
重度後遺障害では近親者慰謝料も認められる
慰謝料は精神的苦痛を慰謝するためのものです。
交通事故は被害者が損害を被るものなので、原則として、被害者本人に慰謝料が認められます。
しかし、たとえば、遷延性意識障害(植物状態)、脊髄損傷などにより、寝たきりになったような重度の後遺障害が残った場合には、ご家族の精神的苦痛も非常に大きなものとなります。
大切なご家族が寝たきりになってしまった悲しみ、将来的にずっと介護をしなければならない精神的苦痛は、とても大きなものとなるでしょう。
また、介護のために仕事を辞めなければならなくなる場合もあります。
そこで、このような死亡にも比肩するような大きな精神的苦痛を受けたような場合には、近親者にも固有の慰謝料が認められる場合があります。
これを「近親者慰謝料」といいます。
「近親者慰謝料」について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
逸失利益
次に、逸失利益ですが、これも、後遺障害等級によって、計算方法が異なります。
逸失利益というのは、後遺障害が残ったことによって、将来得られたはずの収入が得られなくなることによる損害です。
逸失利益の計算式は、以下のとおりです。
【基礎収入✕労働能力喪失率✕就労可能年数に対応するライプニッツ係数】
後遺障害等級は、このうち、「労働能力喪失率」の部分に関わってきます。
各後遺障害等級に対応する労働能力喪失率は、以下のとおりです。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35 |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
【参考情報】
国土交通省「労働能力喪失率表」
このように、労働能力喪失率が大きくなればなるほど、逸失利益の金額も大きくなるということになります。
後遺障害逸失利益の計算例
それでは、ここで、例を挙げて、実際に後遺障害逸失利益の計算は、どのようにするのかを説明したいと思います。
交通事故前年度の年収500万円であった45歳の会社員が、交通事故によりむち打ちのケガを負い、自賠責後遺障害等級14級9号(神経症状)が認定されたとします。
14級の労働能力喪失率は5%、14級(神経症状)の労働能力喪失年数は5年程度とされることが多いので、この数値を採用します。
逸失利益の計算式は、
【基礎収入✕労働能力喪失率✕就労可能年数に対応するライプニッツ係数】
です。
そこで、
500万円✕0.05✕4.580=114万5000円
となります。
ここで、自賠責後遺障害等級認定に誤りがあり、実は、12級13号が正しい等級だとしたら、どうなるでしょうか。
12級の労働能力喪失率は14%、12級(神経症状)の労働能力喪失期間は10年程度とされることが多いので、この数値を採用します。
500万円✕0.14✕8.530=597万1000円
このように、自賠責後遺障害等級が違うと、480万円も逸失利益の計算が違ってきてしまいます。
それだけ、自賠責後遺障害等級認定は重要だ、ということです。
後遺障害の中で、逸失利益の計算をする上で注意すべきものがあります。
詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
交通事故の慰謝料や逸失利益で注意するべき後遺障害
交通事故における後遺障害等級認定の手続きについて
後遺障害等級認定を行なうのは誰か
後遺障害等級は、「損害保険料率算出団体に関する法律」という法律に基づいて設立された「損害保険料率算出機構」(略称「損保料率機構」)という団体が認定しています。
具体的な調査については、全国の都道府県庁所在地等に設置した自賠責損害調査事務所が行なっています。
【参考情報】損害保険料率算出機構「当機構で行う損害調査」
後遺障害等級はいつ申請するべきか
症状固定とは
後遺障害等級認定を受けるためには、損保料率機構に対し、後遺障害等級の申請を行ないます。
申請を行うタイミングは、「症状固定」の診断がされてからです。
症状固定とは、これ以上治療を続けても治療効果が上がらないと医師が判断することです。
症状固定と診断されると、「後遺症が残った」ということになるので、医師に「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」(以下「後遺障害診断書」とします)を書いてもらいます。
後遺障害診断書と、その他それまでの治療の診断書などの医学的な資料を提出して、自分の後遺症が後遺障害等級の何級何号に当たるのかを審査してもらい、後遺障害等級認定に進むことになります。
症状固定に関して注意するポイント
症状固定は、治療の状態をみて医師が判断することになるのですが、その判断は簡単ではないことも多いです。
たとえば、打撲や骨折後に生じる運動障害や、むち打ちや脊椎の損傷等から生じる神経障害などは、その日によって症状の程度が変わるため、治療効果が上がっているのかどうか微妙なこともあります。
このときに、加害者側の任意保険会社の担当者や弁護士から、「治療期間が半年を過ぎていますから、そろそろ症状固定として後遺障害等級の申請をしたほうがいいですよ」と言われることもあります。
あるいは、「もう症状固定なので、治療を打ち切りますよ」と言われることもあります。
しかし、保険会社に言われるままに安易に症状固定としてはいけません。
なぜなら、症状固定とすると、その時点で被害者の方の交通事故による損害が確定したことになるからです。
症状固定とした後、「状態がよくなっているから、もっと治療を続けたい」と思っても、原則として症状固定後の治療費は加害者に請求できないので、自腹で支払わなければなりません。
また、入通院に関する慰謝料にも問題が起きてきます。
この慰謝料は入通院期間をもとに算定します。
入通院期間とは、治療を開始した日から症状固定日までとなるので、症状固定後に通院したとしても、慰謝料や交通費、休業損害等は加害者に請求できません。
さらに、治療期間が短いことで、症状もそれほど深刻なものではないのだろうと評価されてしまって、後遺障害等級が認定されない、ということもあり得ます。
こうした知識がないまま症状固定としてしまうと、後遺障害等級認定にも影響がおよび、もらえるはずの治療費がもらえなかったり、慰謝料額が少なくなってしまったりと、被害者の方が損をしてしまうことになってしまうので注意が必要です。
保険会社が症状固定をすすめてきたとしても、まだ治療効果が上がっているのであれば医師とよく話し合い、まだ治療が必要であることを保険会社に伝えてもらったり、その旨の診断書を書いてもらったりして、治療を継続すべきです。
そのためには、治療の段階から医師に自覚症状や治療の効果について伝えるなどのコミュニケーションをとり、良好な関係を作っておくことも大切になってきます。
なお、保険会社が「これ以上治療を継続するなら、治療費の支払いはできません」と言って治療費の支払いを打ち切ったとしても、治療効果がでているうちは自分で治療費を立て替えて支払い、後日、後遺障害等級が認定されれば、立て替えた治療費を請求することができます。
後遺障害等級認定の申請には2つの方法がある
損保料率機構に対する後遺障害等級認定の申請方法としては、事前認定と被害者請求という2つの方法があります。
「事前認定」
事前認定とは、交通事故の加害者の加入している任意保険会社を通して後遺障害等級の申請をする方法です。
自動車の保険は、強制保険である自賠責保険と、任意で加入する任意保険があります。
自賠責保険は支払われる保険金が定額制となっていて、自賠責保険では足りない分を補うのが任意保険です。
任意保険会社は任意一括払いサービスとして、自社の負担分の損害賠償額と、本来自賠責保険で支払われるべき損害額を被害者に一括して支払う方法をとっている場合が多いです。
任意保険会社が一括払いを行なう場合は、被害者に賠償金額を支払った後に自賠責保険に本来自賠責保険会社が負担するべき金額を請求することになりますが、もし自賠責保険の支払の対象にならない部分まで任意保険会社が支払ってしまうと、任意保険会社が損をしてしまいます。
そのため、被害者の後遺症が自賠責保険の後遺障害等級に該当するかどうか、該当する場合は何級に認定されるのかを自賠責保険に事前に確認しておくことが必要になるので、事前認定といいます。
メリットは、加害者側の任意保険会社が後遺障害等級の申請手続を行なってくれるので、被害者の方がすることは特になく、手続きが楽であるということです。
デメリットは、保険会社が主導で行なうため、被害者の方が後遺障害等級についての知識などがないまま手続きが進められてしまい、どのような書類が提出されているのかなどが把握できなかったり、提出書類に不足があったために正しい後遺障害等級が認定されない場合があったりすることです。
任意保険会社の一括払制度について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
交通事故における「一括払制度」とは?
「被害者請求」
被害者請求とは、被害者が加害者の加入している自賠責保険会社に直接申請し、後遺障害等級の認定を受ける方法です。
加害者の加入している自賠責保険会社に連絡をして、後遺障害等級認定の被害者請求に関する資料一式を送ってもらい、そこに書かれている方法に従って必要書類を自賠責保険会社に提出します。
主な必要書類は次のとおりです。
交通事故証明書
交通事故発生状況報告書
診断書
診療報酬明細書
通院交通費明細書
休業損害証明書
印鑑証明書
委任状(被害者本人が請求できないとき)
自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書
レントゲン、MRI画像等
その他症状を裏付ける検査結果や意見書等の医学的な資料
メリットは、事前認定のように任意保険会社を通さないので、被害者の方が申請の主導権を握ることになり、手続きの流れや提出する資料などを把握することができることです。
また、後遺障害等級が認定されれば、等級に応じた損害賠償金が自賠責保険会社から直接支払われるので、最終的な示談の前にまとまった金額を先に受け取ることができ、余裕をもってその後の交渉を進めることができるという点もあげられます。
デメリットは、被害者の方が自分で請求を行なうので、提出する資料を集めたりと手続に手間がかかることです。
後遺障害等級認定は、基本的に提出された書類のみで審査され、提出していない書類はないものとして扱われるため、自分の症状を裏付けるような診断書を提出していなかったり、診断書は提出したけれど自覚症状等の欄に十分な記載がなかったり、必要な検査や画像診断を行なっていなかったりと、資料が不足していると適正な後遺障害等級が認定されないことに注意が必要です。
【参考情報】国土交通省「支払までの流れと請求方法」
被害者請求について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
【交通事故の保険金】自賠責保険への被害者請求の方法を解説
交通事故で正しい後遺障害等級が認定されるために大切なこと
正しい後遺障害等級が認定されるためのポイント
治療をしっかり受ける
自賠責後遺障害等級認定は、書面審査が原則となります。
提出された書類や検査結果に表れていないことについては、「存在しない」と判断されることになります。
つまり、交通事故の被害にあって、ケガをしたにもかかわらず我慢して治療を受けないと、「ケガがない」と判断される恐れがある、ということです。
したがって、交通事故の被害にあって、ケガをした、あるいはどこかに痛みなどがある場合には、すぐに医療機関に行って正しく診断を受けることが大切になってきます。
交通事故にあって、すぐに治療を受けず、しばらくしてから医療機関に行って診断を受けたとしても、それが交通事故によるものか、その他の原因によるものかの判断が難しくなってしまいます。
交通事故直後は特に痛みなどがなくても、数日して痛みなどが生じることもあります。その場合も、不具合を感じたらすぐに医療機関を受診するようにしましょう。
治療中の治療費をどこまで請求できるかについて、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
【交通事故の治療費】どこまで請求できるのか?(入院費、介護費など)
症状固定までしっかり通院する
次に、治療を開始した場合には、症状が固定するまでしっかり通院するようにしましょう。
必要がないのに通院することはありませんが、医師の指示があるにもかかわらず、忙しくて、あるいは我慢して通院しないと、「たいしたケガではない」と判断される恐れがあります。
つまり、「治療の必要がないから通院していないのだ」と判断される可能性がある、ということです。
また、治療に専念しないと、本来治るものも治らなくなってしまう可能性もあるでしょう。
したがって、治療を開始したら、医師の指示にしたがって、症状固定まで、しっかりと通院することが大切です。
しっかりと検査をしてもらう
自賠責後遺障害等級認定は、書類審査が原則です。
だとすると、治療において撮影される画像や検査結果がとても重要、ということになります。
したがって、ケガの治療に必要な検査はできる限りやってもらった方がよい、ということになります。
後遺障害等級が正しく認定されるためのポイントは、自分のどの部位のどのような症状が、後遺障害等級表の何級何号に当てはまる可能性があるのかを把握し、その等級が認定されるために必要な要件を満たす医学的な資料を集めることです。
自分で自覚している症状のことを「自覚症状」、その自覚症状を証明する検査結果や画像など医学的な資料からの医師の所見のことを「他覚所見」といいます。
後遺障害等級が認定されるためには、この自覚症状と他覚所見、画像などが一致していることが必要になります。
例として、交通事故の怪我でもっとも多いむち打ち症(頚部外傷性症候群)で考えてみます。
むち打ち症で認定される自賠責後遺障害等級は、12級13号か14級9号です。
12級13号は、「頑固な神経症状」で、他覚所見により神経系統の障害が証明されるものです。
14級9号は、「神経症状」で、神経系統の障害が医学的に推定されるものです。
自覚症状、他覚所見、画像所見により判定されます。
検査としては、ジャクソンテスト、スパークリングテスト、筋萎縮検査、腱反射検査、握力テスト、筋電図、徒手筋力検査などを行います。
画像としては、レントゲン、MRIで、神経圧迫をみます。
そして、それぞれに異常所見があるだけでなく、それらの整合性もあわせてみることになります。
詳細は省きますが、損傷を受けた神経と皮膚の感覚障害の領域が整合しているか、なども検討することになります。
(参考記事)公益社団法人日本整形外科学会「むち打ち症」
正しい後遺障害等級が認定されなかった場合の対処法
書類の不備がなければ通常は1~2ヵ月(重傷の場合や判断が難しい場合はさらに数ヵ月かかる場合もあります)で、事前認定で申請した場合には加害者側の任意保険会社から、被害者請求で申請した場合には申請先の自賠責保険会社から審査の結果が送られてきます。
先にお話したように、自分の目指す後遺障害等級の基準を満たす資料を漏れなく提出していれば目指した後遺障害等級が認定されると思いますが、事前認定で任意保険会社に任せきりでどのような書類を提出しているかまったく知らなかったり、被害者請求を自分で行なったが基準を満たす資料に漏れがあったりした場合には、納得のいく結果がでないことになります。
そうなってしまった場合の対処方法としては、後遺障害等級について「異議申立」をすること、あるいは紛争処理申請をすることがあります。
【参考情報】
「異議申立」国土交通省
後遺障害等級認定の異議申立とは
後遺障害等級の異議申立とは、審査を行なった損保料率機構に対して、異議申立書等の書類を提出して、再度、後遺障害等級の申請をすることです。
異議申立書については、決まった形式はありません。
ポイントとしては、まず審査結果の理由等をよく読んで、なぜ後遺障害等級が認定されなかったのか、あるいはなぜ自分が目指していた後遺障害等級よりも低い等級になってしまったのかをよく検討します。
そして、その理由を覆すような新たな医学的な資料、たとえば再検査結果や画像、医師の診断書、意見書等の書面を提出します。
異議申立は何度でもすることができますが、審査結果に納得できないという不満や苦情、自覚症状がどんなにつらいかなどについて書いた書面だけを提出しても、結果は変わらないので注意が必要です。
異議申立をするには、後遺障害等級に関する審査基準を熟知し、それを立証するための医学的検査を認識した上で、医証を集める必要があります。
望む結果が得られなければ、結局は慰謝料額も変わりませんし、時間だけを浪費することになります。
異議申立をする際は、交通事故の後遺障害に強い弁護士に依頼することで結局は良い結果を得られると思います。
・交通事故の弁護士費用の相場と加害者に負担させる方法
異議申立書のポイント
異議申立では、認定結果の間違いを指摘する必要があります。
また、正しい後遺障害等級を指摘する必要があります。
そのため、異議申立書では、(1)自覚症状と、(2)他覚所見にわけて、以下のような内容を記載することになります。
(1)自覚症状
①症状が一貫していること
②事故の状況と傷害部位が整合していること
③残存した障害は、医学的知見に照らして合理性があること(医師の意見書を検討する)
(2)他覚所見
①画像診断による異常所見の指摘(医師に該当箇所を指示してもらうことを検討する)
②神経学的検査による異常所見の指摘
③自覚症状と画像所見による異常所見と神経学的検査による異常所見が全て医学的に整合していること
この場合、新たな診断書や医師の意見書、検査の実施等が必要となる場合も多いので、交通事故に精通した弁護士に依頼することをおすすめします。
後遺障害等級に関する紛争処理申請とは
紛争処理申請とは、損保料率機構とは別の機関である「自賠責保険・共済紛争処理機構(以下「紛争処理機構」とします)」というところに、紛争処理申請書等の書類を提出して、後遺障害等級の申請をすることです。
紛争処理機構は、自賠責保険や共済保険の支払いに関し、被害者と保険会社等との間で生じた紛争について、公正かつ適確な解決による被害者の保護を目的として設立された指定紛争処理機関です(自動車損害賠償保障法23条の5)。
損保料率機構に新たな資料を提出して異議申立を何度かしたけれど結果が変わらなかったという場合でも、紛争処理機構では適正な後遺障害等級が認定されることもあります。
この場合、保険会社は紛争処理機構が出した結果に従わなければなりません。
ただし、損保料率機構への異議申立は、時効期間内であれば何度でも行なうことができるのに対し、紛争処理機構への申請は一度きりしかできませんので注意が必要です。
紛争処理機構の紛争処理のプロセスについては、次の情報を参考にしてください。
なお、紛争処理申請をしても納得のいく結果が出なかった場合には、裁判を起こすことになります。
異議申立により示談金額が大幅に増額した事例
最後に、異議申立により正しい等級が認定され、その結果、示談金が大幅に増額した事例をご紹介します。
解決事例:正しい後遺障害等級が認定されたことで示談金額が約4.8倍に増額
56歳男性の交通事故です。
骨折等の傷害を負い、左肩関節の可動域制限で、自賠責後遺障害等級12級6号が認定されました。
被害者が、みらい総合法律事務所の無料相談を利用したところ、後遺障害等級12級6号の認定が間違っていると判断されました。
そこで、被害者は、異議申立を弁護士に依頼し、異議申立をしたところ、後遺障害等級は10級10号にあがりました。
当初保険会社は、被害者に対し、示談金として248万9233円を提示していました。
しかし、異議申立で正しい後遺障害等級が認定された結果、最終的に、1211万円で解決しました。
当初提示額の約4.8倍に増額したことになります。
解決事例:異議申立により後遺障害等級がアップして示談金額が約18倍に増額
交通事故による右膝骨折で後遺症を負った男性の事例です。
自賠責後遺障害等級14級10号が認定され、加害者側の保険会社から示談金額として、248万6647円が提示されました。
金額に疑問を感じた被害者の方が、みらい総合法律事務所の無料相談を利用したところ、弁護士から「後遺障害等級14級は12級に上がる可能性があります」との意見があったため、すべての手続きを依頼されました。
弁護士が新たな資料を付けて異議申立をしたところ、後遺障害等級は12級13号が認定されました。
その結果、最終的には、4500万円で相手側と和解が成立。
保険会社の当初提示額から、なんと約18倍に増額したことになります。
被害者の方は、あやうく約4250万円を損してしまうところだったわけです。
このように、後遺障害等級認定は、交通事故の被害者にとってとても大切ですので、正しい後遺障害等級を認定されることが重要です。
そのためには、後遺障害等級認定がされた場合には、後遺障害に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
後遺障害慰謝料が相場より増額される場合
後遺障害慰謝料は、自賠責後遺障害等級に応じて一応の相場が設定されていることは既に述べたとおりです。
相場はあくまで相場であって、裁判所を拘束するわけではありません。
場合によっては、後遺障害慰謝料が相場より増額され、高額の慰謝料が認められる場合もあります。
ここでは、自賠責後遺障害等級別に、後遺障害慰謝料が相場より増額された裁判例をご紹介します。
後遺障害等級1級の後遺障害慰謝料
21歳女性が、交通事故により、高次脳機能障害で1級3号、1眼摘出で8級1号の併合1級が認定された事例です。
裁判所は、
・生死の境をさまよい6回の大手術を受けたこと
・両親の介護の精神的負担も極めて重いこと
などから、後遺障害慰謝料として、相場金額2800万円のところ、本人分3200万円、父母各400万円の合計4000万円を認めました。
(東京地裁平成15年8月28日判決、出典:交民36巻4号1091頁)
後遺障害等級2級の後遺障害慰謝料
70歳女性主婦が、交通事故により、高次脳機能障害の後遺症で2級1号が認定された事例です。
裁判所は、加害者がいったんは衝突を認めながらその後不自然不合理な弁解を繰り返して否認したことなどから、後遺障害慰謝料として、相場金額2370万円のところ、本人分2500万円、子1名に250万円、子2名に各150万円の合計3050万円を認めました。
(東京高裁平成28年11月17日判決、出典:自保ジャーナル1990号1頁)
後遺障害等級3級の後遺障害慰謝料
64歳男性が、交通事故により、右下肢欠損傷害及び右股関節機能障害で4級相当、左下肢関節機能障害で10級10号の併合4級が認定された事例です。
裁判所は、身体活動が大幅に制約されるに至ったことなどの事情から、後遺障害慰謝料として、相場金額1990万円のところ、2100万円を認めました。
(名古屋地裁平成29年2月21日、出典:交民50巻1号172頁)
後遺障害等級4級の後遺障害慰謝料
45歳主婦の女性が、交通事故により心房破裂による心房縫合、腹壁瘢痕ヘルニア、腸閉塞等で5級3号、胸椎圧迫骨折で11級7号の併合4級が認定された事例です。
裁判所は、
・胸部から下腹部にかけて縦走する傷痕はV字形状にくぼんでえぐれ、
・臍や腹部はでこぼこしており、
・通常の感受性のある女性なら精神的苦痛を感じずにはいられない
として、後遺障害慰謝料の相場は1670万円のところ、1800万円を認めました。
(仙台地裁平成19年2月9日判決、出典:自保ジャーナル1740号19頁)
後遺障害等級5級の後遺障害慰謝料
56歳男性が、交通事故により、高次脳機能障害で5級2号が認定された事例。
裁判所は、顕著な認知障害、人格変化が生じ、随時の付添、看視、声掛けが必要になったなどとして、後遺障害慰謝料の相場は1400万円のところ、1500万円を認めました。
(名古屋地裁平成19年12月7日判決、出典:交民40巻6号1758頁)
後遺障害等級6級の後遺障害慰謝料
46歳男性が、交通事故により、右膝関節機能障害、右足関節機能障害で7級相当、右下腿開放骨折後の変形癒合で12級8号、右下腿等瘢痕で12級相当の併合6級が認定された事例。
裁判所は、症状固定後も骨膜炎が再発するなどし将来的に右下肢を切断するかもしれないとの不安を抱えながら生活していること等を考慮し、後遺障害慰謝料の相場1180万円のところ、1300万円を認めました。
(神戸地裁平成26年12月12日判決、出典:交民47巻6号1540頁)
後遺障害等級7級の後遺障害慰謝料
36歳男性が、交通事故により、左上肢のRSDで後遺障害等級7級相当の後遺症が残った事例です。
裁判所は、現在の状態を維持するために今後も治療を続けなければならないことなどから、後遺障害慰謝料の相場1000万円のところ、1200万円を認めました。
(長崎地裁大村支部平成17年10月28日判決、出典:交民38巻5号1493頁)
後遺障害等級8級の後遺障害慰謝料
11歳女性が、交通事故により、足指の機能障害で9級15号、左足瘢痕で12級13号の併合8級が認定された事例。
裁判所は、
・後遺障害の内容が多岐にわたること
・重篤で経過観察や継続治療を要し、今後も手術を繰り返す可能性があること
・醜状のため素足になることが困難であること
などから、後遺障害慰謝料の相場830万円のところ、996万円を認めました。
(大阪地裁平成19年12月14日判決、出典:自保ジャーナル1736号11頁)
後遺障害等級9級の後遺障害慰謝料
58歳の男性が、交通事故により、右股関節、右膝関節及び右足関節の可動域制限で準用10級、右足関節の変形で12級8号、右下肢の短縮障害で13級9号、右下肢の醜状痕、植皮術後瘢痕で12級の併合9級が認定された事例。
裁判所は、後遺障害慰謝料の相場690万円のところ、750万円を認めました。
(名古屋地裁平成18年12月13日判決、出典:自保ジャーナル1710号17頁)
後遺障害等級10級の後遺障害慰謝料
50看護師の女性が、交通事故により、複視で10級相当が認定された事例。
裁判所は、両眼の麻痺の場合には労働能力の喪失に与える影響は大であるとして、後遺障害慰謝料の相場550万円のところ、800万円を認めました。
(東京地裁平成18年12月25日判決、出典:自保ジャーナル1714号2頁)
後遺障害等級11級の後遺障害慰謝料
27歳の女性が、交通事故により、下顎神経障害で12級、歯牙欠損で12級、外貌醜状で12級の併合11級が認定された事例。
裁判所は、未婚女性として多大な苦痛を受けることを考慮して、後遺障害慰謝料の相場420万円のところ、500万円を認めました。
(東京地裁平成13年8月7日判決、出典:交民34巻4号1010頁)
後遺障害等級12級の後遺障害慰謝料
プロのベース奏者として活動したことがあり、再度プロを目指して練習に励んでいた52歳の男性が、交通事故により、右環指障害で12級が認定された事例。
裁判所は、40歳を過ぎながらも一年発起して将来音楽で生計を立てることを目指し、低収入に甘んじながらベースの練習に励んでいたとして、後遺障害慰謝料290万円のところ、350万円を認めました。
(東京地裁平成16年12月1日判決、自保ジャーナル1588号16頁)
後遺障害等級13級の後遺障害慰謝料
26歳男性が、交通事故により、左手ひとさし指欠損等により13級相当が認定された事例。
裁判所は、左手ひとさし指の激痛、左足の痛みで立ち作業が困難となりメカニックを断念したことに鑑み、後遺障害慰謝料の相場180万円のところ、200万円を認めました。
(大阪地裁平成18年1月12日判決、出典:自保ジャーナル1669号2頁)
後遺障害等級14級の後遺障害慰謝料
38歳男性が、交通事故により、左上肢の知覚障害等により14級10号が認定された事例。
巧緻な手作業と集中力を要求される仕事の特殊性、唯一の生業としてきた石工の仕事に復帰することが困難な状況になったことなどから、後遺障害慰謝料の相場110万円のところ、180万円を認めました。
(東京地裁平成13年8月29日判決、出典:交民34巻4号1133頁)
後遺障害等級認定を弁護士に依頼するメリット
交通事故の示談交渉において、後遺障害等級認定がとても重要なことはご理解いただいたと思います。
しかし、後遺障害等級は難しく、専門的知識がないと正しく認定されることができません。
そこで、後遺障害等級認定手続を弁護士に依頼することも検討しましょう。
ここでは、後遺障害等級認定を弁護士に依頼するメリットを解説します。
正しい後遺障害等級認定を受けることができる
正しい後遺障害等級認定を受けるには、的確に医療記録などを提出して、正しい主張をしていくことが必要です。
ただ、そのためには、自賠責後遺障害等級認定システムの知識が必要です。
しかし、それは専門性が高く被害者が身につけるのは大変です。
さらに、法律ではないので、全ての弁護士が身につけている知識でもありません。
そこで、正しい後遺障害等級認定を受けるためには、交通事故に精通した弁護士のサポートを受ける必要があります。
また、自賠責後遺障害等級認定は間違っていることがあります。
その場合には、「異議申立」の手続を行って、正しい後遺障害等級認定を受けることが必要となってきます。
ここでも、交通事故に強い弁護士のサポートを受けた方が異議申立が通りやすいでしょう。
高額の後遺障害慰謝料を受け取ることができる
後遺障害慰謝料の計算には、3つの基準があります。
・自賠責基準
・任意保険基準
・弁護士基準
自賠責基準は、自動車損害賠償保障法によって定められた最低限の保障です。
被害者救済のために、自動車の保有者等に自賠責保険への加入を義務づけています。
しかし、自賠責保険金だけで被害者が被った損害の全てを補償することはできません。
そこで、多くの場合に、加害者等は、任意保険にも加入しています。
被害者は通常、加害者が加入する任意保険の担当者と示談交渉を行います。
その任意保険が提示してくる示談金が任意保険基準です。
任意保険基準は、自賠責基準よりは高額ですが、それでも適正な金額ではありません。
そこで、弁護士は、最も高額な「弁護士基準」により、加害者に対して慰謝料を請求します。
被害者は、弁護士に依頼することにより、この最も高額な弁護士基準による慰謝料を受けることができます。
この記事のおさらい
【参考記事】
【弁護士基準】交通事故の慰謝料をできるだけ高額で示談する方法とは?
代表社員 弁護士 谷原誠