脇見運転による交通事故の過失割合と違反点数・罰則を解説
脇見運転は、重大な事故に繋がる非常に危険な運転であり、事故を起こした際には違反点数が付されるだけでなく、反則金等を支払うことになります。
加害者に過失が認められるため、加害者の過失割合は高くなります。本記事で脇見運転による罰則と、交通事故の過失割合への影響をご確認ください。
※本記事は、2025年2月20日時点の法令に基づいています。
目次
脇見運転とは?安全不確認・
前方不注意との違い
脇見運転は、道路交通法第70条に規定される安全運転義務に違反する行為ですので、脇見をしながら車を運転することは法律で禁止されています。
脇見運転の定義
脇見運転は、運転中に前方への注意が散漫になり、他のことに気を取られてしまう運転をいいます。
風景や新しくオープンしたお店の状況が気になり、前方から視線を逸らしたり、車内で探し物をするために視線を下に向けるなどの行為が脇見運転に該当します。
脇見運転が原因で交通事故が発生した場合、安全運転義務違反の対象となります。
内閣府の「令和5年中の道路交通事故の状況」によると、令和5年中に発生した交通死亡事故2,618件のうち、55.3%(1,147件)は安全運転義務違反が原因で発生しており、脇見運転だけでも交通死亡事故全体の10%(262件)を占めています。
参考情報:令和5年中の道路交通事故の状況(内閣府)
安全不確認・前方不注意の違い
安全不確認は、前方や後方だけでなく、左右の安全確認を怠ることをいいます。
一時停止や徐行運転をしていたものの、安全確認が不十分であり、横から飛び出してきた人や車などに気が付くのが遅れた場合、安全不確認として安全運転義務違反になります。
前方不注意は、前方への注意が散漫になり、危険の発見ができない運転をいいます。
脇見運転も前方不注意の一つで、注意力や集中力が低下し、ぼんやりした状態で車を運転する「漫然運転」についても、前方不注意による安全運転義務違反に該当します。
脇見運転が起きやすい
シチュエーション
毎日同じ道を運転していると注意力が散漫になりやすく、ベテランドライバーでも脇見運転をしやすい状況に陥りやすいので気を付けてください。
車外の景色に気を取られた
自動車は、常に周囲を気にしながら運転しなければならず、特定の場所に注意を向けてしまうと、それ以外の場所の情報が入らなくなるので危険です。
観光地やドライブスポットは、運転しながら情景を感じられる魅力がある反面、景色を見ることに集中してしまうと、対向車や歩行者などの発見が遅れてしまいます。
脇見運転をしてしまうと、前方を走っている車がブレーキをしたことに気が付かないため、速度を落として走行していたとしても衝突事故が起きてしまいます。
車内の会話に夢中になった
同乗している家族との会話に盛り上がってしまうと、前方への注意力が下がり、飛び出しなどへの反応が遅れてしまいます。
運転手が同乗者の方を向いて会話するのは危険ですし、一瞬でも前方から視線を外した場合、脇見運転になるので注意してください。
カーナビを注視した
カーナビは便利なツールですが、カーナビの注視も脇見運転に該当します。
不慣れな場所を運転する場合、カーナビを見る回数が増えますので、カーナビのルート変更や場所の確認は停車してから行ってください。
エアコン操作に気を取られた
車内の温度と外気温の差でフロントガラスが曇った場合、ガラスにエアコンの風を吹き付けることで曇りを取り除きますが、エアコンの設定を変えるために視線を下げる動作も脇見運転になります。
夏場と冬場は車内温度を調整するため、運転中にエアコンの温度調整や風向きの設定を変える方もいますが、操作に気を取られて前方から視線を逸らさないよう気を付けてください。
運転中に車内の落とし物を
拾おうとした
運転中にポケットのスマホが落ちたり、飲み物がこぼれてしまったときは、反射的に落とした物を拾おうとしてしまいますが、非常に危険なのでやめてください。
拾う時間は数秒であったとしても、その間に車は数十メートル進んでいます。
急いで落とし物を拾おうとして、アクセルとブレーキを踏み間違えることもありますので、落とし物は車を停止させてから拾ってください。
脇見運転に対する違反点数と罰則
脇見運転による交通事故を起こした場合、違反点数の加算と反則金の支払いが発生しますが、運転中のスマホ操作による脇見運転に対する罰則は特に厳しくなっています。
違反点数
自動車で交通違反をした際には違反点数が付され、過去3年間の累積点数等に応じて免許の停止処分や取消処分の対象となります。
脇見運転で安全運転義務違反となった場合、物損事故であれば2点、人身事故は被害者の負傷等に応じて違反点数が加算されます。
違反点数が6点になると30日間の免許停止処分の対象となり、15点以上は運転免許が取り消しされます。
<交通事故の付加点数表>
交通事故による被害の程度 | 不注意の程度 (※) |
点数 |
---|---|---|
死亡事故 | 専ら | 20点 |
上記以外 | 13点 | |
傷害事故 (治療期間が3か月以上または 後遺障害が存するもの) |
専ら | 13点 |
上記以外 | 9点 | |
傷害事故 (治療期間が30日以上 3か月未満であるもの) |
専ら | 9点 |
上記以外 | 6点 | |
傷害事故 (治療期間が15日以上 30日未満であるもの) |
専ら | 6点 |
上記以外 | 4点 | |
傷害事故または、建造物損壊 事故 (治療期間が15日未満で あるもの) |
専ら | 3点 |
上記以外 | 2点 |
※「専ら」は、交通事故のほとんどが違反行為者の不注意で起きたケースをいいます。
反則金
脇見運転で事故を起こした場合、赤信号無視と同額の反則金が科されます。
運転していた車両の種類によって科される額は異なり、反則金の納付期限は告知を受けた日の翌日から起算して7日以内です。
- 大型車:12,000円
- 普通車:9,000円
- 二輪車:7,000円
- 小型特殊車:6,000円
- 原付:6,000円
「ながらスマホ」に対する罰則
「ながらスマホ」は、運転中にスマートフォン(スマホ)を使っての通話や、画面を見る・操作することをいいます。
令和元年(2019年)12月1日から、車の「ながらスマホ」に対する罰則が強化されており、懲役刑に処されることもあるので気を付けてください。
<「ながらスマホ」に対する違反点数・反則金>
携帯電話を保持 しての通話や画像 注視した場合 (保持) |
携帯電話を使用した ことで事故を起こす など、交通の危険を 生じさせた場合 (交通の危険) |
|
---|---|---|
罰則 | 6カ月以下の懲役 または10万円以下の 罰金 |
1年以下の懲役 または30万円以下の 罰金 |
反則金 | 大型車:25,000円 普通車:18,000円 二輪車:15,000円 小型特殊車: 12,000円 原付:12,000円 |
なし (非反則行為として 罰則が適用) |
違反点数 | 3点 | 6点 |
脇見運転は過失割合の修正要素に
なる?事例別に解説
交通事故は発生した状況によって基本過失割合が定められていますが、加害者が脇見運転をしていた場合、過失割合が変動する可能性があります。
過失割合の修正要素に該当するもの
過失割合の修正要素は、過失割合の比率を加算・減算する要素をいいます。
基本的な過失割合は、過去の裁判例から類似した事故を基準に算定しますが、過失割合が変動するような修正要素がある場合には、基本過失割合に加算または減算の修正を行います。
<過失割合の主な修正要素>
事故の時間帯 | 夜間 (日没から日の出) |
---|---|
事故発生の場所 | 幹線道路 歩車道の区別がない道路 見通しの悪い道路 住宅街 繁華街 人通りの激しい場所 |
被害者の属性 | 幼児 児童 高齢者 身体障害者 ・車いす利用者 ・視覚障害者 ・聴覚障害者など |
著しい過失 | 前方不注意 ・脇見運転 ・漫然運転 運転操作不適切 携帯電話の使用 酒気帯び運転 速度違反 (時速15㎞以上30㎞未満) |
重過失 | 酒酔い運転 居眠り運転 無免許運転 正常な運転ができない状態 速度違反(赤切符) (時速30㎞以上) |
事故状況 | 直前直後横断 歩行者の立ち止まり、後退 飛び出し ふらつき運転 ふらつき歩行 |
車種 | 大型車 |
著しい過失は、事故態様ごとに通常想定される程度を超えるような過失をいい、脇見運転や漫然運転は「著しい過失」に該当します。
居眠り運転や無免許運転、時速30㎞以上の速度違反については、故意に起こした事故と同程度の扱いがされる「重過失」の対象です。
同じ類型の交通事故でも、事故が発生した状況は個々に違いますので、基本過失割合をベースに修正要素を加味して最終的な過失割合を算定します。
脇見運転による過失割合の
修正要素
修正要素による過失割合の加算・減算の幅は、ケースごとに異なります。
脇見運転についても、事故事例によって加算される割合は違うため、交通事故の状況を確認しながら修正要素を適用する必要があります。
<脇見運転をしていた場合の修正割合>
事故類型 | 修正割合 |
---|---|
車同士の事故 | 5%~10% |
車と歩行者の事故 | 5%~10% |
車と自転車の事故 | 5%~20% |
車と単車の事故 | 5%~20% |
高速道路の事故 | 10%~20% |
脇見運転で加算される割合は、10%が目安です。
たとえば、基本過失割合が7対3のケースで加害者が脇見運転をしていた場合、最終的な過失割合は8対2になることが想定されます。
一方、高速道路における脇見運転など、脇見運転による事故の過失が重く見られるときは、過失割合が20%程度変動することも考えられます。
脇見運転が原因の追突事故の
過失割合は10対0
脇見運転は修正要素の一つであり、脇見運転だけで過失割合が大幅に変動することはありません。
しかし、脇見運転が原因で追突事故が発生した場合、被害者に特段の非がなければ過失割合は10対0となるため、加害者から追突されたときは、被った損害を全額請求することができます。
示談でまとまらない場合は
裁判で過失割合を決める
交通事故の過失割合は、加害者と被害者が話し合って決めますが、示談交渉で過失割合がまとまらない場合は、裁判所に判断を委ねることになります。
裁判では客観的な証拠を提示できるかがポイントとなりますので、示談交渉がもつれ、裁判に発展するときは、1度弁護士に相談してください。
加害者が脇見運転を認めない場合の対処法
加害者の脇見運転が原因で交通事故が発生したとしても、加害者が脇見運転を認めるとは限りません。
脇見運転の有無は過失割合に影響しますので、被害者は加害者が脇見運転をしていた事実を立証することが求められます。
ドライブレコーダーや事故現場周辺の防犯カメラは、客観的に事故発生時の状況を確認できる証拠として有用ですが、ドライブレコーダー等で加害者が脇見運転をしていたのか確認できないこともあります。
映像で脇見運転が確認できなかったときは、現場に居合わせた第三者の証言や、ブレーキ痕の存在を証拠として活用します。
目撃情報は脇見運転をしていた事実を示す証拠になりますし、脇見運転をした状態で衝突した場合、事故現場にブレーキ痕が残らないため、ブレーキの有無で脇見運転を証明することもできます。
ブレーキ痕の存在は警察が作成した実況見分調書で確認できますので、必要に応じて警察から情報を入手することを検討してください。
脇見運転の過失割合に納得が
いかない場合は弁護士に要相談
脇見運転による交通事故の被害者となったときは、早い段階で弁護士に相談してください。
交通事故で負傷していれば、怪我の治療を優先して行わなければなりませんし、示談交渉で加害者と話し合うのは精神的な負担が大きいです。
交通事故が発生した時点では脇見運転していたことを認めていたとしても、示談交渉の場では一転、脇見運転を否定することも考えられます。
警察が作成した供述調書には、加害者が脇見運転を認めた記述が残っていることもあるため、加害者の対応次第では実況見分調書や供述調書の入手も必要です。
しかし、証拠の収集には多大な労力を伴いますし、加害者が加入している保険会社が代理人となった場合、被害者だけで交渉を有利に進めるのは難しいです。
被害者は加害者を選ぶことができませんので、適正な慰謝料や損害賠償金を受け取るためにも、脇見運転の事故に遭った際は弁護士にご相談ください。
みらい総合法律事務所は無料相談を行なっています。ぜひご利用ください。
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代表社員 弁護士 谷原誠