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外国人が被害者の場合の損害賠償額の計算

最終更新日 2024年 04月24日

外国人が被害者の場合の損害賠償額の計算

ここでは、外国人の方が交通事故の被害にあった場合の損害賠償項目と認定基準、計算について、裁判例を交えながら解説します。

外国人が交通事故の被害者の場合の注意ポイント

外国人への損害賠償は日本での就労形態などによって変わってくる

外国人の方が交通事故の被害にあった場合の損害賠償ついては、日本での就労形態や就労可能期間などが問題になり、損害賠償額の算定が異なってきます。

<就労形態>

  • ・就労可能な在留資格のある者
  • ・不法就労していた者(就労可能な在留資格がない)
  • ・旅行者
  • ・密入国者 など

<就労可能期間>
外国人の被害者の方の就労可能期間は、

  • ・来日目的
  • ・本人の意思
  • ・在留資格の有無
  • ・在留資格の内容
  • ・在留期間
  • ・在留期間更新の実績および蓋然性
  • ・就労資格の有無
  • ・就労の態様等の事実的及び規範的な諸要素

などを考慮して認定されます(最高裁平成9年1月28日判決)。

外国人であっても、永住者の在留資格があり、日本で育って就職し、今後自国に帰る予定はまったくなかったという人であれば、日本人と同様の逸失利益、慰謝料が認められるでしょう

しかし、たとえば在留資格が「技能」で、技術的な指導のために日本に来ているような場合では、これまでの在留期間の更新歴、帰国する意思、就労の具体的態様などを考慮して、今後どのくらいの期間を日本で就労が可能かを認定して、損害額が算定されることになります。

逸失利益の場合、たとえば日本での就労があと3年ほどしか見込めず、その後は自国へ帰るという蓋然性が認められれば、3年分の逸失利益は日本での年収を基礎に算定され、その後の逸失利益については統計などを用いて自国で得られたであろう収入を認定したうえで算定します

慰謝料についても、本国で使われることを前提として、日本との賃金水準、生活水準等の経済事情の相違を考慮したうえで決められることになります。

不法滞在者の場合、最高裁平成9年1月28日判決では、日本での滞在、就労は不安定であるため、事実上はある程度の期間滞在している不法滞在外国人がいることを考慮しても、不法滞在者の就労可能期間を長期間認めることはできないとしています。

そのため、特別な事情が認められない限りは、日本での就労期間を症状固定日から2年程度と認定するケースが多いといえます。

どこの国の法律が適用されるのか?

外国人が日本国内で交通事故の被害にあった場合、日本の法律では、結果の発生地=事故発生地の法に従うことになります。

「法の適用に関する通則法」
第17条(不法行為)
不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。

また、民事訴訟法第3条の2では、被告の住所などが日本国内にある場合は、日本の裁判所が管轄権を有すると規定しています。

そのため、日本国内で起きた交通事故については、日本で裁判を行なうことになります。

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交通事故の損害賠償項目で知っておくべきこと

交通事故の損害賠償項目には何があるのか?

交通事故の被害者が受け取ることができる損害賠償項目には、さまざまなものがありますが、大きくは「人身損害」と「物的損害」に分けられます。

さらに、人身損害は「財産的損害」と「精神的損害」に分けられ、財産的損害は「積極損害」と「消極損害」に分けられます。

なお、慰謝料というのは損害賠償項目のひとつで、精神的損害に分類されます。

また、示談金というのは損害賠償金と同じもので、被害者側と加害者側の立場や視点の違いによって呼び方が変わるだけだと覚えておいてください。

積極損害とは?

交通事故により、被害者の方が実際に支払わなければいけなくなった費用があります。

たとえば、次のような項目です。

  • ・治療費(診察料・入院費・手術費・薬代など)
  • ・入院座雑費
  • ・付添看護費
  • ・宿泊費
  • ・交通費
  • ・後遺障害が残った場合の補助器具費用(車いす・義手・義足など)
  • ・文書費(各種証明書など)
  • ・子供の学費
  • ・葬儀費用 など

これらが、積極損害になります。

動画で解説を聞きたい方はこちら

消極損害とは?

被害者の方が交通事故の被害にあわなければ、手にしていたはずの収入分消極損害といいます。

たとえば、ケガの治療のために入通院して仕事を休まざる得なくなった場合の補償が休業損害です。

症状固定後に後遺障害が残り、それまでのように働くことができなくなったために得られなくなってしまった収入(利益)後遺障害逸失利益亡くなった場合死亡逸失利益です。

外国人が被害者の場合の損害賠償額算定の注意ポイント

損害賠償額を算定する際の基準について

交通事故の被害者の方が外国人の場合、どこの国を基準にして損害賠償額を算定するのかという問題があります。

日本の物価水準や所得水準を基準に計算するのか、それとも母国の水準かということです。

永住者などの在留資格を持っている場合は、将来にわたり日本に在留することが想定されるため、日本人と同様に日本の物価水準や所得水準を基準にします。

しかし、たとえば逸失利益で平均賃金を使って計算する場合などでは注意が必要です

日本と被害者の方が属する国の賃金差が大きい場合があるからです。

たとえば、被害者の方が国民の所得水準が日本の数分の1というような国の国民の場合、自賠責保険金などが支払われると、その金額だけで損害賠償が済んでしまうような計算になる場合もあります。

【裁判例①不法就労の外国人男性の慰謝料が減額】

不法就労だったスリランカ人男性の死亡事故で、原審では逸失利益が約1,300万円、慰謝料が2,600万円を認めた。これに対して、控訴審では原判決を取り消し、逸失利益が約1,300万円、慰謝料が500万円とし、既に支払われていた自賠責保険金2,586万円を下回ることが明らかだとして、請求を棄却した。
(東京高裁平成13年1月25日判決 判タ1059号298頁)

積極損害の算定の実例

積極損害については原則、支出した実費全額の賠償が認められます。

渡航費 本国への渡航費や看護のために来日した親族などの渡航費については人数や回数が制限されて認められています。
遺体運搬費 交通事故で死亡した外国人の場合は、母国への遺体運搬費も認められます。

裁判例では、在留資格のあるアメリカ人のアメリカへの遺体運搬費用と付き添いの従業員1名分の同行費用が認められたものがあります。
(名古屋地裁平成25年7月19日判決 自保ジ1908号87頁)

消極損害の算定の実例

<休業損害>
就労資格のある外国人の場合、日本人と同様の損害が認められます。

就労資格のない外国人が不法就労をしていた場合でも、現実に得ていた収入額を基礎として計算します。

密入国者の場合は、そもそも在留資格がないため休業損害は一切認められないという考えもありますが、裁判例と多くの学説では不法就労者と同様の扱いとなっています。

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 <逸失利益>
労働能力喪失期間が長期になり、日本との所得格差がある場合は、具体的な在留資格によって判断されます。

①永住者 日本人と同様に判断されます。
②就労可能な在留資格を有する者 日本における現実収入をもとに、在留期間の定め、特に更新の可能性の立証ができれば長期間で認められることになります。

日本での就労が一定期間しか見込めず、その後は本国や他の国へ出国する見込みであるなら、日本での就労期間は日本での収入等を基礎とし、その後は出国先の収入等を基礎として逸失利益が算出されることになります。

そこで、裁判所は5~10年間は日本での現実収入をもとにして、それ以後は本国の収入を基礎とする方式をとっています

ただし、帰化をした、あるいは日本人と結婚しているので永住の可能性が高いといった場合は67歳までの就労可能期間を認める判決もあります。

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慰謝料の算定の実例

被害者本人分の慰謝料には、

  1. 傷害慰謝料(入通院慰謝料)
  2. 後遺障害慰謝料
  3. 死亡慰謝料

の3つがあります。


 

傷害(ケガ)を負った場合の傷害慰謝料については原則、日本人と同様の扱いになります。
一方、後遺障害慰謝料と死亡慰謝料は高額になるため、将来的に日本に在留する見込みの有無によって判断が変わってくる傾向があります。

【裁判例②定住者の在留資格があったため日本人の基準で慰謝料が認められた】

後遺障害11級が認定されたブラジル人が事故後にブラジルに帰国したが、事故当時は定住者の在留資格で日本に住んでいたことから、日本人と同基準の慰謝料420万円が認められた。
(名古屋地裁平成23年1月14日判決 交民44巻1号1頁)
 
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監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所 代表社員 弁護士 谷原誠
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