子供(幼児、学生)の慰謝料・逸失利益・休業損害の計算方法
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本記事では、子供(幼児、学生)が交通事故の被害にあった時の損害賠償項目のうち、慰謝料・休業損害・逸失利益についてお話ししていきます。
被害者やご遺族が受け取ることができる慰謝料は1つではないことを知っていますか?
休業損害と逸失利益は、被害者の方が働くことができなくなった場合の補償ですが、何がどう違うのでしょうか?
子供が交通事故の被害にあった場合、働いていないので、仕事を休業した場合の補償というのはどう考えればいいのでしょうか。
将来的に得られるはずだった収入である逸失利益について、仕事についていなかった子供の場合はどのように計算すればいいのでしょうか?
こうした、さまざまな疑問について解説していきます。
子供が被害者の場合の休業損害について
休業損害とは、ケガの治療をして完治するか、または症状固定の診断を受けて後遺症が残るまでの間に被害者の方に生じた収入の減少分に対する補償です。
では、仕事をしていない子供に休業損害は認められるのでしょうか?
【休業損害が認められる条件】
- 収入があり、ケガによって就労できなかったことが条件になるため、原則として子供には認められません。
- ただし、被害者が学生でアルバイト収入があった場合は、休業損害として認められる可能性があります。
- また、事故によるケガのために就職活動ができず、就職が遅れてしまったり、就職できなかった場合は、就職が遅れた期間についての休業損害が賃金センサスの平均賃金に基づいて認められる可能性があります。
※賃金センサスとは、厚生労働省が毎年実施している「賃金構造基本統計調査」の結果をまとめたもので、職業別・年齢別などによって労働者の平均賃金がわかるようになっています。
【認められる金額】
収入があった場合は、交通事故のケガによって就労できなかった期間の収入。
子供(幼児、学生)の逸失利益について
逸失利益とは、交通事故で負った後遺症のために事故以前のように働くことができなくなり、それ以降、将来的に得ることができなくなってしまった収入分のことです。
逸失利益には、「後遺障害逸失利益」と
「死亡逸失利益」の2つがあります。
(1)後遺障害逸失利益とは?
ケガの症状固定後は後遺症が残ってしまうことになるため、ご自身の後遺障害等級の認定を受け、等級が確定したら後遺障害慰謝料を請求することができます。
なお、症状固定により休業損害は受け取ることができなくなります。
【参考情報】:「自賠責後遺障害等級表」(国土交通省)
(2)後遺障害逸失利益の計算はどうする?
後遺障害逸失利益を算定する際は次の計算式を使います。
基礎収入 × 労働能力喪失率 ×
労働能力喪失期間に対するライプニッツ係数
= 後遺障害逸失利益
上記の計算式を基本としながら、実際の交通事故の損害賠償実務では、次のような要因を考慮しながら算定します。
- ・労働能力の低下、喪失の程度
- ・収入の変化
- ・将来の昇進、転職、失業などの可能性
- ・日常生活でどのような不便があるのか など
①基礎収入
原則、被害者の方が事故前に得ていた収入額を基礎とする。
※将来的に現実収入額以上の収入を得られる立証ができれば、その金額が基礎収入となる。
現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても、将来、平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎収入として算定する。
※蓋然性とは、ある事柄が起こる確実性、真実として認められる確実性の度合いのこと。
学生・生徒・幼児の場合、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎とする。
女子年少者の場合、女性労働者の全年齢平均賃金ではなく、一般的には男女を含む全労働者の全年齢平均賃金で算出する。
大学生になっていなくても、大卒の賃金センサスが基礎収入と認められる場合がある。
ただし、大卒の賃金センサスによる場合、就労の始期が遅れるため、全体としての損害額が学歴計平均額を使用する場合と比べて減る場合があることに注意が必要。
②労働能力喪失率
後遺障害等級ごとに決められたパーセンテージがあるため、これを基本として用いるが、実際の算定では、「被害者の方の職業」「年齢」「性別」「後遺症の部位と程度」「事故前後の労働状況」などを考慮しながら総合的に判断していく。
<労働能力喪失率>
※等級名をクリックすると、各等級の詳しい解説ページを表示します
後遺障害等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
第1級 | 100% |
第2級 | 100% |
第3級 | 100% |
第4級 | 92% |
第5級 | 79% |
第6級 | 67% |
第7級 | 56% |
第8級 | 45% |
第9級 | 35% |
第10級 | 27% |
第11級 | 20% |
第12級 | 14% |
第13級 | 9% |
第14級 | 5% |
【出典】:「労働能力喪失率表」(厚生労働省)
③労働能力喪失期間
事故による後遺障害がなければ、あと何年間働くことができたのかを仮定するもので、原則として67歳までとされる。
ただし、未成年者や高齢者の場合は修正が加えられる場合がある。
労働能力喪失期間の始期は症状固定日とされるが、被害者の方の職種や地位、能力、健康状態などによっては違う判断をされる場合もある。
症状固定時の年齢が67歳以上の場合は、原則として労働能力喪失期間を簡易生命表の平均予命の2分の1とする。
なお、症状固定時から67歳までの年数が簡易生命表の平均余命の2分の1より短くなる場合は、原則として平均余命の2分の1とする。
【参考情報】(厚生労働省):令和2年簡易生命表(男)
【参考情報】(厚生労働省):令和2年簡易生命表(女)
④ライプニッツ係数
逸失利益は、被害者の方にとっては将来に受け取るはずだった金額(収入)を前倒しで現在に受け取るものだが、現在と将来ではお金の価値に変動があるため保険会社にとっては将来的な金利分を差し引かずにそのまま支払ってしまうと損をすることになる。
そこで、その差を調整するために用いるのがライプニッツ係数。
ライプニッツ係数の算出は複雑で難しいため、あらかじめ算出されている「ライプニッツ係数表」を使用する。
通常、基準時は症状固定時とする。
2020年4月1日以降に起きた交通事故の場合は、ライプニッツ係数の法定利率は3%で計算する。(以降は3年ごとに見直される)
原則として、後遺症がある場合は生活費を控除しないが、死亡事故の場合は控除する。
(3)後遺障害逸失利益を計算してみる
ここでは、9歳の男児が交通事故のケガにより高次脳機能障害の後遺症を負い、後遺障害等級7級4号が認定された場合を例に逸失利益を計算してみます。
・基礎収入:5,609,700円
※ここでは「令和元年賃金センサス」男性・
学歴計・全年齢の平均賃金を用いる。
・労働能力喪失率:56%
(後遺障害等級7級と仮定)
・ライプニッツ係数:19.545
※児童の場合、18歳で就労を開始すると仮定すると、ライプニッツ係数は67歳
までのライプニッツ係数から18歳に達するまでのライプニッツ係数を差し引いた
ものを用いる。
したがって、ここでは
67年 - 9年 = 58年
に対応するライプニッツ係数(27.331)から、
18年 - 9年 = 9年
のライプニッツ係数(7.786)を
引いたものを採用する。
5,609,700円 × 0.56× 19.545
= 61,399,288円
(4)死亡逸失利益の計算方法
交通事故で亡くなったことで、将来的に働くことができなくなったために得ることができなくなった利益(収入)を死亡逸失利益といい、次の計算式で求めます。
<死亡逸失利益の計算式>
=(死亡逸失利益)
生活費控除率は、被害者の方の家庭での立場や状況によって、概ねの相場の割合が決まっています。
<生活費控除率の目安>
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合 | 40% |
---|---|
被害者が一家の支柱で被扶養者が2人以上の場合 | 30% |
被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合 | 30% |
被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合 | 50% |
被害者が一家の支柱で 被扶養者が1人の場合 |
40% |
---|---|
被害者が一家の支柱で 被扶養者が2人以上の場合 |
30% |
被害者が女性(主婦、独身、 幼児等含む)の場合 |
30% |
被害者が男性(独身、幼児等含む) の場合 |
50% |
<死亡逸失利益の計算例>
ここでは、次の条件で計算をしてみます。
・基礎収入:5,609,700円
※ここでは「令和元年賃金センサス」男性・
学歴計・全年齢の平均賃金を用いる。
・労働能力喪失率:100%
・ライプニッツ係数:20.1312
※児童の場合、18歳で就労を開始すると仮定すると、ライプニッツ係数は67歳までのライプニッツ係数から18歳に達するまでのライプニッツ係数を差し引いたものを用いる。
したがって、ここでは
67年 - 15年 = 52年
に対応するライプニッツ係数(26.166)から、
18年 - 15年 = 3年
のライプニッツ係数(2.829)を
引いたものを採用する。
・生活費控除率:50%
5,609,700円 × 23.338
× (1-0.5) = 65,459,589円
交通事故の慰謝料と計算方法とは?
ここでは、交通事故の慰謝料と計算方法についてわかりやすく解説します。
(1)交通事故の慰謝料は弁護士(裁判)基準で解決する!
交通事故の慰謝料の計算では次の3つの基準が使われるのですが、どれを用いるかで金額が変わってくることに注意が必要です。
「自賠責基準」
法律によって定められている自賠責保険による算定基準で、もっとも金額が低くなる(自賠責保険は被害者救済のために設立されたものであり、最低限の補償であるため)。
人身事故にのみ適用され、物損事故や自損事故には適用されない。
傷害(ケガ)の場合の上限金額は120万円(人身事故で補償される保険金には支払い限度額があるため)。
後遺障害等級が認定された場合は、次の表のように等級によって保険金額が決められている。
【支払限度額1】
神経系統の機能、精神、胸腹部臓器への著しい障害により介護が必要な場合(被害者1名につき)
自賠責法別表第1
常時介護を要する場合 (後遺障害等級1級) |
最高で4,000万円 |
---|---|
随時介護を要する場合 (後遺障害等級2級) |
最高で3,000万円 |
【支払限度額2】
上記以外の後遺障害の場合
第1級:最高で3,000万円~第14級:最高で75万円
自賠責法別表第2
※等級名をクリックすると、各等級の詳しい解説ページを表示します
後遺障害等級 | 慰謝料 |
---|---|
第1級 | 3,000万円 |
第2級 | 2,590万円 |
第3級 | 2,219万円 |
第4級 | 1,889万円 |
第5級 | 1,574万円 |
第6級 | 1,296万円 |
第7級 | 1,051万円 |
第8級 | 819万円 |
第9級 | 616万円 |
第10級 | 461万円 |
第11級 | 331万円 |
第12級 | 224万円 |
第13級 | 139万円 |
第14級 | 75万円 |
「任意保険基準」
各損害保険会社が独自に設定している基準。
各社とも非公表のため正確な数字はわからないが、自賠責基準より少し高いくらいの金額で設定されていると考えられる。
「弁護士(裁判)基準」
これまでの膨大な裁判例から導き出されている基準で、もっとも高額になる。
法的根拠がしっかりしているため、弁護士が加害者側の保険会社と示談交渉を行なう際はこの基準で算定した金額を主張していく。また、裁判でも認められる可能性が高くなる。
弁護士(裁判)基準で計算した金額が、被害者の方が本来受け取るべき正しい金額になる。
そのため、被害者の方としては、弁護士(裁判)基準での示談解決を目指すことが大切になってくる。
(2)ケガを負った場合に受け取ることができる2つの慰謝料と計算方法
「入通院慰謝料」
ケガの治療のために入通院した場合に受け取ることができる。
「後遺障害慰謝料」
後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合に受け取ることができる。
交通事故の被害者の方は、この2つの慰謝料を分けて請求することが大切です。
①自賠責基準による入通院慰謝料の算出方法
ケガが完治した場合の入通院慰謝料は、次の計算式で算出します。
4,300円(1日あたり) × 入通院日数
= 入通院慰謝料
自賠責基準により定められた金額は、1日あたり4,300円。
これは、改正民法(2020年4月1日施行)により改定された金額で、2020年3月31日以前に発生した交通事故の場合は、4,200円(1日あたり)で計算する。
入通院をして治療した場合の対象日数は、次のどちらか短い方が採用される。
「実際の治療期間」
「実際に治療した日数×2」
たとえば、治療期間が1か月(30日)で、3日に1回通院した場合は、
- ①4,300円 × 30日 = 129,00円
- ②4,300円 × (10日 × 2)
= 86,000円
となり、入通院慰謝料は20日分の86,000円が採用される。
後遺症の残らない傷害(ケガ)に対する自賠責保険金の上限である120万円について、治療費や入通院慰謝料などで金額の上限を超えてしまう場合がある。
その際は、上限を超えた金額分を加害者側の任意保険会社に請求していくことになる。
②弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料の算出方法
弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料の計算では、「損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故相談センター東京支部刊)という本に記載されている算定表を用いる。
算定表は、ケガの程度・状態に応じて「軽傷用」と「重傷用」の2種類がある。
「弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料(むち打ちなど軽傷)の算定表」
「弁護士(裁判)基準による入通院慰謝料(重傷)の算定表」
たとえば、1か月入院、6か月通院した場合、重傷用の表の「入院1か月」と「通院6か月」が交わったところの「149」万円が弁護士(裁判)基準での入通院慰謝料になる。
「入院なし」で「通院1か月」の場合は、軽傷用の表の交わった部分の「19」万円が弁護士(裁判)基準での入通院慰謝料になる。
前述した自賠責基準で計算した金額(86,000円)と比較すると、弁護士(裁判)基準で計算した慰謝料は2倍以上の金額になるので、やはり弁護士(裁判)基準で解決するべきだということがわかります。
③後遺障害慰謝料の算出方法
後遺症が残り、後遺障害等級が認定された場合、その等級(1~14級)に応じて支払われるのが後遺障害慰謝料。
相場金額が定められているのには、次の理由などがある。
- ・後遺症の精神的苦痛の程度は、事故ごと被害者ごとで違うため、それぞれの事故によって判断するのが難しく、また膨大な時間がかかってしまうため。
- ・すると、被害者の方への慰謝料の支払いが滞るなどの不具合が生じてしまうため。
ただし、これはあくまでも相場金額であるため、それぞれの事故の状況によっては金額が増額する可能がある。
<自賠責基準・弁護士(裁判)基準による後遺障害慰謝料の金額表>
たとえば7級の場合では、自賠責基準と弁護士(裁判)基準では、被害者の方が受け取る金額は2.4倍も違ってきます。
慰謝料などの示談は、弁護士(裁判)基準で解決することが重要な理由をおわかりいただけるのではないでしょうか。
(3)死亡慰謝料の金額について
①自賠責基準による死亡慰謝料の相場金額
自賠責保険では、死亡慰謝料は被害者本人の死亡慰謝料と、ご家族などの近親者慰謝料の合算として扱われることに注意が必要です。
被害者本人の死亡慰謝料:400万円(一律)
近親者慰謝料:配偶者・父母(養父母も含む)・子(養子・認知した子・胎児も含む)の人数によって金額が変わる。
1人の場合 | 550万円 |
---|---|
2人の場合 | 650万円 |
3人の場合 | 750万円 |
- 1人の場合
- 550万円
- 2人の場合
- 650万円
- 3人の場合
- 750万円
※被扶養者の場合は、上記の金額に200万円が上乗せされる。
②弁護士(裁判)基準による死亡慰謝料の相場金額
被害者の方の家庭での立場の違いなどによって、次のように相場金額が設定されています。
被害者が一家の支柱の場合 | 2,800万円 |
---|---|
被害者が母親・配偶者の場合 | 2,500万円 |
被害者がその他(独身者・幼児・高齢者など)の場合 | 2,000万~2,500万円 |
- 被害者が一家の支柱の場合
- 2,800万円
- 被害者が母親・配偶者の場合
- 2,500万円
- 被害者がその他(独身者・幼児・高齢者など)の場合
- 2,000万~2,500万円
※ただし、事故の状況、加害者の悪質性などによって金額が変わる場合がある。
ここまで、子供(学生・幼児)が交通事故の被害にあった場合の慰謝料と逸失利益、休業損害の計算方法などについてお話ししてきました。
いかがでしょうか、正確で適切な金額を計算して加害者側の保険会社に示談交渉で認めさせるのは難しいと感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな時、心強い味方になるのが交通事故に強い弁護士です。
示談交渉がなかなか進まない、損害賠償金額に不満があるような場合は一度、相談してみるといいと思います。
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代表社員 弁護士 谷原誠