交通事故の過失割合と過失相殺で損をしないための知識
交通事故の被害に遭った場合、死亡事故の場合は49日が終わってから、怪我の場合は治療が終了してから、示談交渉が始まります。
いよいよ慰謝料などの損害賠償金額を決める手続が始まることになります。
そこで問題となってくることに「過失割合」というものがあります。
過失と聞くと、加害者に関係することと思う人もいるかもしれませんが、じつは被害者自身にも関わってきます。
被害者の過失、と聞くと違和感があるかもしれませんが、これは、被害者に責任がある、というわけではなく、被害者に生じた損害のどれだけが加害者に負担させるべき責任で、どれだけの損害を被害者が負担すべきか、という問題です。
今回は、この過失割合について詳しく説明していきます。
目次
なぜ被害者にとって過失割合が重要になるのか?
交通事故の損害賠償の交渉では、加害者側の任意保険会社から「過失割合」というものを主張されることがあります。
加害者の故意または過失によって交通事故が起きるのですから、当然、加害者側に過失があることは明らかです。
加害車両による追突事故や信号無視、センターラインオーバーによる事故などは、もちろん被害者の過失はゼロとなります。
しかし、被害者も車で道路を走っているような場合には、多くの場合に、被害者にも過失が認定されてしまいます。
仮に、あなたが車やオートバイで優先道路を走っていて信号のない交差点に差しかかったところ、脇道から飛び出してきた車に衝突されたという場合でも、過失割合が発生してしまうのです。
このように、交通事故の被害者側にも、交通事故発生の原因となる何らかの事情(過失や不注意など)があった場合に、加害者に賠償させる金額からその事情の割合の分だけ差し引くことを「過失相殺」といい、その割合を過失割合といいます。
「過失」といわれると、後遺障害などでつらい思いをしている被害者も悪いと言われている感じる人もいると思いますが、必ずしもそういう意味ではありません。
法律的には、加害者の不法行為に基づく被害者の損害賠償請求権というものは、そもそも損害の公平な分担という理念から認められた権利であるため、被害者にも一定の事情がある場合には、その割合を損害賠償金額から差し引くことが公平である、という考え方によるものだからです。
納得がいかないという人もいると思いますが、これが法的な考え方なのだと理解したほうがいいと思います。
さて、過失割合は全体を100として、「90対10」とか「75対25」というように表現します。
これは、被害者にも10%なり25%の過失が認められたということで、損害賠償金額からその割合の分が減額されることになるのです。
たとえば、全体の損害額が2000万円、過失割合が80対20であれば、被害者の過失分400万円が差し引かれて、1600万円しか加害者は請求ができなくなってしまうのです。
被害者にとって、これは大きなことです。
ですから、被害者としては相手の保険会社が過失割合を主張してきた時には、できるだけその割合を低くするための証拠集めや主張が大切になってくるのです。
過失割合はどのように決まるのか?
過失割合については、裁判所や弁護士、保険会社もすべて同一の基準を用いて算定しています。
この基準は、東京地裁にある、交通事故を専門に扱う「民事27部」という部署が中心となって作成していることから、全国の基準となっています。
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しかし、事故の状況によって過失割合がいつでも一律に決まるわけではありません。
というのは、この認定基準では多数の事故の状態について、まず基本の過失割合を明確にし、その後に修正要素によって加害者側に5~20%程度過失を加算したり、被害者側にも5~20%程度過失を加算したりという調整を図っているからです。
そして最終的に、事故の具体的事情によって適正な過失割合に落ち着くように作成されています。
少し専門的な話なので、わかりにくいかもしれませんが、次に具体的にどのような場合に過失が加算されるのかを、加害者側と被害者側でそれぞれ見てみましょう。
「加害者側に過失が加算される場合」
①住宅地・商店街における事故
②被害者(歩行者)が児童・老人
③歩行者が集団
④速度違反・飲酒・合図なしなどの道路交通法違反がある
⑤著しい過失・重過失がある
「被害者側に過失が加算される場合」
①夜間
②幹線道路(歩行者の場合)
③横断禁止場所の横断
④速度違反などの道路交通法違反がある
⑤著しい過失・重過失がある
過失割合の決定には実況見分調書が重要
過失割合において、交通事故での状況判断では、事故現場の写真や被害者自身が作成した図なども使用されますが、もっとも重視されるのは警察が作成した「実況見分調書」です。
警察は、交通事故の現場で実況見分という現場検証を行い、事故当時の様子や被害状況などを調べます。
さらには、加害者と被害者の双方から話を聞いて事故についての記録を書類に書いていきますが、この書類のことを実況見分調書といいます。
実況見分調書は被害者が取り寄せることもできますし、弁護士が取り寄せることもできます。
また、裁判所から文書送付嘱託によって取り寄せることもできます。
訴訟を起こしてから実況見分調書取り寄せるのでは、それだけ時間が無駄になってしまうので、示談交渉で過失割合が争点になりそうな場合は必ず訴訟提起前に取り寄せておいてください。
最近では、被害者自身が警察などに問い合わせて所在を確認し、自分で取り寄せてから弁護士のところに持っていき、相談するケースも増えています。
実況見分調書は、警察が作成したということもあり、示談交渉でも裁判でも大きな影響力を持ちます。
また、一度作成された内容を変更するのは非常に難しいので、事故後の実況見分では嘘や勘違いで証言しないように十分慎重に対応することが大切です。
【参考記事】
交通事故で実況見分により慰謝料が減額される理由とは?
「当法律事務所の解決事例」
74歳の男性が交通事故被害のため死亡しました。
保険会社は、被害者の過失が15%あると主張しましたが、遺族はその過失割合が妥当かどうか判断できませんでした。
そこで、納得のいかない遺族が当法律事務所に法律相談しました。
当事務所で実況見分調書などを検討したところ、被害者の過失割合はもっと低いはずだと判断。
そこで、加害者側の任意保険会社と交渉しましたが、保険会社は強硬な態度で被害者の過失を譲らなかったため、裁判をすることになりました。
我々は、事故状況で加害者の過失が大きいことを主張し、被害者の過失を5%に抑えることに成功。
最終的に賠償金として、3500万円を獲得しました。
過失相殺では、賠償額の全体から被害者の過失分を差し引くので、賠償金が3500万円だとすると、過失が10%違うだけで約350万円も賠償金が異なってきます。
そのために、被害者側と加害者側で激しく争われた事案だったのです。
【参考記事】
みらい総合法律事務所の解決実績はこちら
交通事故後の治療で被害者の過失割合が大きくなる場合もある
ところで、過失割合では交通事故における過失以外のことが問題になるケースもあります。
それは、事故後の治療過程で被害者に過失があり、損害が拡大してしまった場合です。
交通事故で傷害を負った場合、被害者自身は損害を拡大させてはならない「注意義務」を負担します。
しかし、中には仕事が忙しいなどの理由で治療や通院に間を空けたり、適切な治療を受けない被害者もいます。
これは問題です。
なぜなら、医師から指示された治療方針に従わなかったことが原因でケガによる傷害が悪化して損害が拡大したような場合には、その拡大した損害部分については被害者自身の負担になってしまうからです。
また、事故にあった直後は問題がなかったのに、後から体のどこかが痛んできたり体調が悪くなったりするケースがあります。
この場合、その症状が本当に交通事故によるものなのか、それとも他の要因が関係しているのか医学的に証明できなくなってしまい、結局、示談交渉で被害者の主張が受け入れられないといったケースもあります。
これは被害者にとっては大きな損失になってしまいます。
ですから、ケガの治療は医師の指示に従うこと、一定期間は治療をしっかり受けること、通院中に何らかの体調の変化があった時には些細なことでも医師に相談して判断をあおぐこと、これらのことは必ず守ってほしいと思います。
被害者側の過失
交通事故の過失相殺をするためには、被害者が事理を弁識する知能を有していることが必要です。
しかし、損害の公平な分担という理念から、被害者と一定の関係がある者に過失があった場合には、「被害者側の過失」として過失相殺ができることとされています。
この点について、最高裁昭和42年6月27日判決(出典:判例時報490号47頁)は、「民法七二二条二項に定める被害者の過失とは単に被害者本人の過失のみでなく、ひろく被害者側の過失をも包含する趣旨と解すべきではあるが、本件のように被害者本人が幼児である場合において、右にいう被害者側の過失とは、例えば被害者に対する監督者である父母ないしはその被用者である家事使用人などのように、被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうものと解するを相当とし、所論のように両親より幼児の監護を委託された者の被用者のような被害者と一体をなすとみられない者の過失はこれに含まれないものと解すべきである。」としています。
過去の事例では、夫の運転する自動車に同乗中の妻が、その自動車と第三者の自動車との交通事故でケガを負った事案において、運転者である夫に過失がある場合には、その夫婦の婚姻関係がすでに破綻に瀕しているなどの特段の事情のない限り、第三者が妻に対して負担する損害賠償を定めるについて、夫の過失を被害者側の過失として斟酌するとしたものがあります(最高裁平成19年4月24日判決、出典:判例タイムズ1240号118頁)。
しかし、約3年前から恋愛関係にあり、将来結婚する予定であった被害者の女性については、被害者側に含まれない、とした判例もあります(最高裁平成9年9月9日判決、出典:判例時報1618号63頁)。
過失割合の交渉をするタイミングはいつがいいのか?
交通事故の被害者から相談を受けていると、事故直後から慰謝料や過失割合について加害者側の任意保険会社と激しく争って、疲れ果ててしまっている方がいます。
では、過失割合の交渉をするタイミングは、いつがいいのでしょうか?
これは、死亡事故では49日が終わってから、怪我の場合は病院でのケガの治療が完全に終了してから、が正しい答えになります。
なぜなら、治療中に過失割合や慰謝料について保険会社と交渉しても、後でひっくり返されることがあるからです。
治療が完了しなければ慰謝料が計算できないし、後遺障害等級も決まりません。
また、過失割合も治療完了後の示談交渉の中で変わったいくこともよくあります。
ですから、ケガの治療中は治療に専念しつつ、治療費、付き添い看護費、交通費、その他の実費と休業損害をもらうことについての交渉に集中しましょう。
そして、治療が完了し、後遺障害等級が確定してから、最終的な損害賠償金と過失割合についての交渉を始めるのがいいと思います。
ここまで、交通事故被害にあった時の過失割合について説明してきました。
自賠責保険の場合には、70%未満の過失については全額が被害者に支払われます
これは、自賠責保険の制度が被害者の救済を目的に作られた制度だからです。
しかし、任意保険では、被害者側に過失があれば加害者の保険会社側は過失割合を主張してきます。
その場合、被害者の方はご自身の過失割合を少しでも下げるための交渉をしていかなければいけないのですが、相手は交通事故と保険のプロですから、とても手強い相手です。
過失相殺については、こちらの記事も参考にしてください。
【参考記事】
図解で解説!交通事故の過失割合と過失相殺で損をしないために大切なこと
自賠責保険の重過失減額
自賠責保険においては、示談交渉で行われるような過失相殺は行われません。
自賠責保険は、交通事故の被害者保護を目的としています。
本来であれば、被害者の過失に合わせて過失相殺をし、賠償額を減額すべき、とするのが不法行為法の理念である公平の原則となります。
しかし、自賠責保険では、被害者保護を優先させ、多少の過失の場合には、過失減額を行わないこととされています。
一定以上の過失があった場合のみ、減額するという扱いです。
では、どの程度の過失がある場合に減額されるのか、というと、傷害部分と後遺障害部分により、以下のように定められています。
(1)傷害部分について
7割以上10割未満 2割減額
(2)後遺障害部分について
・7割以上8割未満 2割減額
・8割以上9割未満 3割減額
・9割以上10割未満 5割減額
このように、自賠責保険では、被害者の保護が図られていますので、被害者の過失がある程度あるときは、示談交渉の前に自賠責保険に被害者請求をしておくことも検討すると良いでしょう。
自賠責保険への被害者請求について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
【参考記事】
【交通事故の保険金】自賠責保険への被害者請求の方法を解説
【動画解説】交通事故の示談金が減額される「過失相殺」とは?
代表社員 弁護士 谷原誠