過失割合9対1の場合の慰謝料と示談金の相場
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今回は、交通事故における過失割合が加害者と被害者で9対1の場合、慰謝料や逸失利益などを合計した示談金(損害賠償金)の相場金額は、どう算定されるのかなどについて解説します。
被害者の方は慰謝料などの示談金(損害賠償金)を受け取ることができますが、過失割合の分だけ減額されてしまいます。
ということは、被害者の方の過失割合を大きく判断されればされるほど、受け取る金額が少なくなってしまうということです。
過失割合は被害者の方やご遺族にとって、とても重要なものになってくるので、加害者側から過失割合を主張された場合の対処法などについてもお話ししていきます。
目次
示談金が低い理由の1つは過失割合
加害者側の保険会社が示談金を低く見積もってくる根拠の1つに「過失割合」があります。
過失割合とは、交通事故が発生したことの責任(過失)の割合のことです。
たとえば、「加害者70対被害者30」とか「加害者と被害者の過失割合7:3」といったように表現しますが、この場合は加害者の過失が7割、被害者の過失が3割あったという意味になります。
この過失割合をもとに、慰謝料などの損賠賠償金を減額することを過失相殺といいます。
この過失相殺分が大きくなれば被害者の方が受け取る示談金は減ります。
そのため、加害者側の任意保険会社は被害者の方の過失割合を大きく主張してくるのです。
被害者に過失割合がつくと不利な理由
過失割合がつくと被害者は損害賠償金を全額もらえない
たとえば、損害賠償金の合計が2,000万円で、過失割合が加害者対被害者と判断された場合、次のようになります。
<過失相殺での計算例>
損害賠償金額 | 2,000万円 |
---|---|
被害者側の過失割合 | 3割 |
の場合……
2,000万円 ×(1-0.3)= 1,400万円
保険会社は示談金として1,400万円を提示してくるので、損害賠償金が600万円も減額されてしまうわけです。
過失割合がつくと被害者が加害者に損害賠償をする必要が生じる
基本的に、過失割合が高い方が加害者となりますが、じつは、被害者の方に過失割合が1割でもついてしまうと、被害者の方も加害者に対して損害賠償しなければいけなくなってしまうのです。
たとえば前項のように、被害者の方の損害賠償金が2,000万円で、過失割合が9対1の場合で、加害者側の損害が500万円だったなら、500万円の1割は50万円ですから、この金額を被害者の方は加害者に支払わなければいけないのです。
誰が過失割合を決めるのか?
交通事故の損害賠償問題は、民事の範疇(はんちゅう)になります。
警察や検察は刑事事件に関わりますが、民事事件には関わりません。
警察には民事不介入のルールがあり、検察は加害者を起訴するかどうかを決めるので、民事における交通事故の過失割合には関わらないのです。
では、誰が過失割合を決めているのかというと、最終的には裁判所が決めることになります。
示談交渉や裁判の場面では、保険会社(加害者)は自社が有利になるように(支払う示談金を少なくするために)、さまざまな理由をつけて被害者の方の過失割合を高く主張してきます。
ですから、加害者側の保険会社が主張してくる過失割合をそのまま信じてはいけないのです。
被害者の過失割合は0(ゼロ)になりにくい!?
被害者の方は、突然の交通事故で被害にあっているので、「自分は悪くない」「100%加害者の責任」と思うことがあると思います。
しかし法的には、被害者の方が交通ルールを守っていたとしても、基本的には交通事故は当事者双方に過失(責任)があるとされます。
特に、自動車同士の交通事故で、被害者の方の自動車が動いていた場合は、過失割合がついてしまうことが多いのです。
たとえば、信号機がない交差点での衝突事故で、優先道路を走行していたほうには過失が10%ついて被害者側(A)となります。
一方、非優先道路を走行していたほうが過失が重いと判断され90%の過失がつき、加害者(B)となります。
この場合、被害者側も注意していれば事故を避けられたかもしれないと判断されるため、過失がつくわけです。
なお、被害者の方の基本過失が0(ゼロ)と認められる場合もあります。
詳しい解説は次の記事を参考にしてください。
過失割合の修正要素とは?
過失割合は基本の割合が決められていますが、そこに被害者側と加害者側の双方に修正要素が加えられて調整されていきます。
たとえば、加害者側が自動車で、被害者側が歩行者の交通事故の場合、修正要素は次のようになります。
<過失割合の修正要素の例>
状況 | 自動車 | 歩行者 |
---|---|---|
幹線道路 | -5 | +5 |
夜間 | -5 | +5 |
直前直後横断・佇立・後退 | -5 | +5 |
住宅街・商店街など | +5 | -5 |
歩行者が児童・高齢者 | +5 | -5 |
集団横断 | +5 | -5 |
歩車道の区別なし | +5 | -5 |
歩行者が幼児・身体障害者等 | +10 | -10 |
車の著しい過失 | +10 | -10 |
車の重過失 | +20 | -20 |
警察から「100%あなたは悪くない」と言われたら……注意
交通事故が発生して警察に通報すると、警察官が現場に急行して実況見分(現場検証)と、被害者と加害者に聞き取り調査を行ないます。
その際、被害者の方が警察官から、「あなたは100%悪くない」と言われることがあるのですが、これには注意が必要です。
というのは、警察官は「あなたには刑事責任はありませんよ」と言っているのであって、慰謝料などの示談交渉や民事裁判での過失割合とは関係のない話だからです。
警察は刑事事件を取り扱いますが、民事事件には介入しないことを覚えておいてください。
過失割合が9対1になる交通事故の事例について
ここでは、どういった交通事故の場合に基本的な過失割合が9対1になるのかについて、おもな事故態様から考えてみます。
以下の4つのケース別にわかりやすく解説します。
自動車同士の交通事故
①信号機のない交差点で直進車同士が衝突した場合
- ・優先道路を走行していた自動車の過失割合は1割
- ・もう一方の道路(非優先道路)を走行していた自動車の過失割合は9割
※見通しのきかない交差点では、非優先道路を走行する自動車には徐行義務があります。
②青信号で交差点に侵入した後、赤信号になるのを待って右折した自動車に、右方から直進車が赤信号無視で衝突した場合
- ・右折車の過失割合は1割
- ・赤信号無視の直進車の過失割合は9割
③交差点で非優先道路から右折して優先道路に入った自動車が、優先道路を右方から走行してきた自動車と衝突した場合
- ・右折車の過失割合は9割
- ・直進車の過失割合は1割
④道路外に出るために右折した自動車が、直進してきた対向車と衝突した場合
- ・道路外に出る(商業施設に入るなど)ために右折した自動車の過失割合は9割
- ・直進車の過失割合は1割
⑤追越禁止道路で追い越しをした自動車が、その後に後方車に衝突された場合
- ・追い越しをした自動車の過失割合は9割
- ・後方から接触した自動車の過失割合は1割
自動車とバイクの交通事故
①信号機のない交差点でバイクと自動車が衝突した場合
- ・優先道路を走行していたバイクの過失割合は1割
- ・もう一方の道路(非優先道路)を走行していた自動車の過失割合は9割
②一方通行違反の自動車が交差点で優先道路を走行してきたバイクと衝突した場合
- ・一方通行違反で非優先道路を走行していた自動車の過失割合は9割
- ・優先道路を走行していたバイクの過失割合は1割
③青信号の交差点で右折待ちをしていたバイクに、右方から赤信号無視で直進してきた自動車が衝突した場合
- ・バイクの過失割合は1割
- ・赤信号無視で直進してきた自動車の過失割合は9割
④直進するバイクを追い越した自動車が、前方で左折しようとしてバイクと衝突した場合
- ・バイクの過失割合は1割
- ・左折しようとした自動車の過失割合は9割
⑤道路外に出るために右折した自動車に直進してきたバイクが衝突した場合
- ・道路外に出る(商業施設に入るなど)ために右折した自動車の過失割合は9割
- ・バイクの過失割合は1割
⑥停車中の自動車がドアを開けたところにバイクが衝突した場合
- ・自動車の過失割合は9割
- ・バイクの過失割合は1割
⑦黄色信号で交差点に進入したバイクに、赤信号無視で直進してきた自動車が衝突した場合
- ・バイクの過失割合は1割
- ・自動車の過失割合は9割
※黄色信号の場合は安全に停止することができないときは交差点への進入が認められますが、原則、停止位置を越えて進行してはいけないためバイクにも過失割合がつきます。
自動車と自転車の交通事故
①道路外に出るために右折した自動車に直進してきた自転車が衝突した場合
- ・道路外に出る(商業施設に入るなど)ために右折した自動車の過失割合は9割
- ・自転車の過失割合は1割
②自転車が青信号で横断歩道を横断中、右折または左折してきた自動車が衝突した場合
- ・自転車の過失割合は1割
- ・自動車の過失割合は9割
③左折自動車が後方から直進してきた自転車の巻き込み事故を起こした場合
- ・自動車の過失割合は9割
- ・自転車の過失割合は1割
④黄色信号で交差点に進入した自転車に、赤信号無視で直進してきた自動車が衝突した場合
- ・自転車の過失割合は1割
- ・自動車の過失割合は9割
⑤一時停止規制のない道路を直進した自転車と規制のある道路を直進した車が衝突した場合
- ・自転車の過失割合は1割
- ・自動車の過失割合は9割
自動車と歩行者の交通事故
①歩行者が青信号で横断歩道を歩行中、右折または左折してきた自動車が衝突した場合
- ・歩行者の過失割合は1割
- ・自動車の過失割合は9割
※歩行者にも左右の安全確認義務があるため、一定の過失が認められてしまいます。
②徐行義務がある道路を走行中の自動車が、信号機や横断歩道がない交差点を歩行中の歩行者に衝突した場合
- ・歩行者の過失割合は1割
- ・自動車の過失割合は9割
※次のような場合などでは、自動車に徐行義務があります。
・歩行者が歩行中の道路が優先道路の場合
・自動車が走行している道路のほうが、歩行者が歩行中の道路より明らかに広い場合
・自動車が広い道路から狭い道路に向かって右折・左折する場合
・一時停止規制のある道路を歩行者が横断している場合
・丁字路の交差点で歩行者が直線路を歩いている場合
③歩行者が車道を歩行していた場合
- ・歩行者の過失割合は1割
- ・自動車の過失割合は9割
※次のような場合などが該当します。
・歩道上に障害物などがあり、歩行者がやむを得ず車道にはみ出して歩行していた場合
・歩道と車道の区別がない幅8メートル未満の道路で、歩行者が道路の中央部分を歩いていた場合
④歩行者が信号機が黄色の時に横断歩道の歩行を開始したところに、赤信号で走行してきた自動車が衝突した場合
- ・歩行者の過失割合は1割
- ・自動車の過失割合は9割
※歩行者にも左右の安全確認義務があるため、一定の過失が認められてしまいます。
⑤歩行者が信号機が赤色の時に横断歩道の歩行を開始して青信号に変わったところに、赤信号で走行してきた自動車が衝突した場合
- ・歩行者の過失割合は1割
- ・自動車の過失割合は9割
過失割合が9対1の時の注意ポイント
ここでは、過失割合を9対1と判断された場合に注意するべきポイントについて解説します。
加害者側の請求額が大きくなる場合がある
たとえば、ある交通事故で被害者の方の損害額が400万円だったとします。
一方、加害者が亡くなり、損害額が4,000万円だったとします。
過失割合は9対1で加害者のほうが大きかったので加害者となるのですが、被害額も大きかったわけです。
こういったケースでは、それぞれの請求額は次のようになります。
400万円 × 0.9 = 360万円
「加害者の請求額」
4,000万円 × 0.1 = 400万円
被害者の方に過失割合が1割でもついてしまうと、このように被害者の方の支払額のほうが大きくなってしまう場合があるのです。
たとえば、次のようなケースが該当します。
- ・加害者が亡くなった、または重傷を負った
- ・加害者の乗用車が高級車
- ・加害者が高所得者 など
自分の保険を使うと保険料が値上がりしてしまうことも
上記のようなケースなどで、被害者の方が加害者に損害賠償金を支払わなければいけなくなった場合、被害者ご自身が契約している任意保険を使うと、損をしてしまう可能性があります。
というのは、ご自身の保険等級が下がってしまい、その後に支払う保険料が値上がりしてしまうからです。
賠償金額によっては被害者の方が契約している任意保険を使わないほうがいい場合もあるので、一度、保険会社の担当者に問い合わせてみるといいでしょう。
過失割合が9対1の時の対処法について
加害者側の任意保険会社と交渉する
前述したように、過失割合を設定しているのは加害者側の任意保険会社ですから、「過失割合に納得がいかない」「過失割合を10対0にしたい」のであれば、まずはこの保険会社と交渉をしてみるべきです。
しかし、相手は損害保険のプロであり、自社の利益のために動いているのですから、被害者の方が交渉しても受け入れることはまずありません。
では、どうすればいいのでしょうか?
示談金額の増額を最優先に示談交渉をする
過失割合に納得がいかない方もいらっしゃると思いますが、ここは考え方を変えて、慰謝料などの合計である示談金(損害賠償金)に目を向けてみましょう。
今後の生活、家族の将来の問題もあるので、仮に過失割合をつけられたとしても、トータルで受け取る示談金が満足できる金額に増額するのであれば、そちらを最優先に考えて加害者側の任意保険会社と示談交渉をするのです。
しかし前述したように、保険会社が示談金の増額を受け入れることは、ほとんどありません。
では、どうすればいいのでしょうか?
交通事故に強い弁護士に相談・依頼する
こうした時に頼りになるのが、交通事故に精通した弁護士です。
弁護士に相談・依頼すると次のようなメリットがあります。
①ご自身の正しい後遺障害等級を知ることができる。 |
②等級が間違っていたら、異議申立をして正しい等級認定を受けることができる。 |
③正しい過失割合を知ることができ、修正の交渉を任せることができる。 |
④適正な弁護士(裁判)基準で計算した慰謝料額がわかる。 |
⑤結果的に慰謝料などの損害賠償金が増額する可能性が高い。 |
⑥加害者側の任意保険会社との難しく、煩わしい示談交渉から解放される。 |
⑦裁判を起せば、さらに損害賠償金が増額して、弁護士費用を保険会社から支払わせることもできる。 |
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