過失割合10対0の交通事故の示談金の相場と示談交渉する際の注意点
交通事故の原因がすべて加害者にある場合、事故で生じた損害は全額補償してもらうことができますが、加害者が事故の全責任を認めるとは限りません。
損害賠償金の額は過失割合によって変動しますし、過失割合が10対0となったとしても示談交渉はしなければなりませんので、適切な示談金を受け取るためには準備と対策が不可欠です。
本記事では、交通事故の過失割合が10対0になるケースと、示談金の相場について解説します。
目次
交通事故の過失割合とは
過失割合は、交通事故が起きた責任の割合を数値で表したものです。
加害者に全面的に非がある交通事故は、被害者の過失はゼロなので、過失割合は10対0となります。
一方、被害者の不注意が事故原因の一つとなっている場合、被害者にも過失がありますので、過失割合は被害者側に傾きます。
被害者の過失が認定されてしまうと、過失分だけ加害者の責任が軽減(過失相殺)され、損害賠償金として受け取れる額は減少します。
そのため、交通事故の被害者は必要な補償を受けるためにも、被害者自身に過失がないことや、過失が部分的であることを示談交渉の場で示さなければなりません。
交通事故の過失割合が10対0になる交通事故の事例を解説
交通事故が発生した責任がすべて加害者にある、過失割合10-0に該当するケースをご紹介します。
過失割合の決め方
過失割合は「基本過失割合」をベースに、「修正要素」を加味した上で算定します。
基本過失割合は、事故の類型によって決められている過失割合です。
たとえば、青信号で直進した車と赤信号で直進した車の事故の場合、赤信号で直進した車に全面的な非があるため、過失割合は10:0となります。
修正要素は、事故が発生した状況を踏まえて、過失割合を加算または減算する要素をいいます。
基本過失割合が7:3のケースでも、加害者に非にある修正要素が加味されたことで、最終的な過失割合が8:2や9:1になることもあります。
反対に、被害者の過失割合が増える要素があれば、過失割合が6:4や5:5になるケースもあるので注意が必要です。
仮に、過失割合が5:5の場合、損害額が1,000万円だとすると、損害賠償金額は、半分の500万円になってしまう、ということです。
過失割合は、過去に行われた交通事故に関する裁判等を参考にしながら、当事者間の話し合いで決定します。
参考にできる判例があれば話し合いは比較的まとまりやすいですが、似た事例が存在しない場合や、特殊な状況下で発生した交通事故の場合、参考にする判例を見つけるのは難しいです。
ケース1:信号機がある交差点の直進同士の交通事故
信号無視が原因で生じた交通事故の場合、過失割合が10対0になる可能性があります。
青信号で直進する車に対して、赤信号の車が直進したことで事故が発生したときは、青信号で直進した車に非はないため、基本過失割合は10対0となります。
一方で、相手方が赤信号で交差点に直進してきたとしても、被害者の車が黄や赤で交差点に進入した場合には、過失割合が10対0にはならないので注意してください。
<交差点の直進車同士の事故>
信号の色 | 過失割合(A:B) |
---|---|
直進車A(赤):直進車B(青) | 10:0 |
直進車A(赤):直進車B(黄) | 8:2 |
直進車A(赤):直進車B(赤) | 5:5 |
ケース2:信号機がある交差点の右折車と直進車の交通事故
直進車同士の交通事故と同様、青信号で直進してきた車に、赤信号の右折車がぶつかった場合、基本過失割合は10対0となります。
右折車と直進車の交通事故は基本的に右折車の方が過失割合は高くなりますが、双方が青信号のケースや、直進車が黄・赤の信号で交差点に侵入したときは、過失割合が10対0にはなりません。
<交差点の右折車と直進車の事故>
信号の色 | 過失割合(A:B) |
---|---|
右折車A(赤):直進車B(青) | 10:0 |
右折車A(青):直進車B(青) | 8:2 |
右折車A(黃):直進車B(青) | 7:3 |
右折車A(黄):直進車B(黄) | 4:6 |
右折車A(赤):直進車B(赤) | 5:5 |
ケース3:センターオーバーによる交通事故
センターオーバーによる交通事故も、過失割合が10対0になる可能性がある事故です。
中央線が設けられている道路の場合、車は左側を走行することになりますが、対向車が中央線を超えたことで交通事故が発生したときは、センターオーバーをした車に全面的な事故原因があります。
したがって、センターオーバーをしていない被害者側に著しい過失や、重過失などの修正要素がなければ、過失割合は10対0となります。
ケース4:追突事故
追突事故についても、過失割合が10対0になる可能性がある事故です。
追突事故は追突した車の前方不注意などが原因で発生することが多く、追突された被害者側が事故を回避するのは困難であるため、基本的に追突した側に非があります。
被害者側が急ブレーキをしたなど、修正要素があるときは過失割合が変動することもありますが、特段の非がなければ過失割合は10対0となります。
過失割合10対0の交通事故の示談金の相場をケース別に解説
過失割合10対0の交通事故の場合、被った損害をすべて補償してもらうことができますが、慰謝料については、算定する基準によって受け取れる額が変わってきます。
- ・自賠責保険基準
- ・任意保険基準
- ・弁護士基準
自賠責保険基準は、自賠責保険から支払われる慰謝料を計算するための基準で、算定される額は3つの中で最も低いです。
任意保険基準は、保険会社ごとに設定している基準をいい、加害者が加入している保険会社によって提示される金額は変わってきます。
弁護士基準は、交通事故の慰謝料を計算する際に用いる基準で、「裁判基準」と呼ばれることもあります。
3種類の基準の中で最も受け取れる慰謝料が大きいのは、弁護士基準に基づいて算出した場合ですが、弁護士基準で慰謝料を算定するためには、判例などを調べなければなりません。
また、加害者側も判例や被害者側に過失があったとする証拠を提示してきますので、被害者のみで弁護士基準を基にした示談交渉をするのは難しいです。
入院慰謝料の相場
自賠責基準の慰謝料の相場は3種類の基準の中でも最も低く、入院に対する慰謝料については1日当たり4,300円です。
弁護士基準による入院慰謝料は、負傷した怪我の程度や入院期間によって異なり、軽度の怪我における入院慰謝料は、10万円から30万円が目安です。
一方、重度の怪我については、50万円から200万円を超えるケースもあるなど、怪我の程度や入院期間によって受け取れる額は変わります。
後遺障害慰謝料の相場
交通事故で後遺障害を負った場合には、後遺障害慰謝料を請求することができます。
後遺障害は、交通事故による傷害が治療を続けても改善せず、症状固定になったものをいい、後遺障害等級によって受け取れる後遺障害慰謝料の額は異なります。
自賠責基準は、後遺障害等級ごとに金額が定められており、最低額は第14級の75万円です。
介護を要する後遺障害については、第1級は4,000万円、第2級は3,000万円と、自賠責基準で算定する場合でも慰謝料は高額になります。
<自賠責基準の後遺障害慰謝料>
等級 | 金額 |
---|---|
第1級 | 3,000万円 |
第2級 | 2,590万円 |
第3級 | 2,219万円 |
第4級 | 1,889万円 |
第5級 | 1,574万円 |
第6級 | 1,296万円 |
第7級 | 1,051万円 |
第8級 | 819万円 |
第9級 | 616万円 |
第10級 | 461万円 |
第11級 | 331万円 |
第12級 | 224万円 |
第13級 | 139万円 |
第14級 | 75万円 |
<介護を要する後遺障害に対する慰謝料>
等級 | 金額 |
---|---|
第1級 | 4,000万円 |
第2級 | 3,000万円 |
出典:後遺障害等級表
弁護士基準の後遺障害慰謝料は、自賠責基準のように明確な金額は定められていませんが、自賠責基準の1.5倍から3倍が目安となります。
交通事故で後遺障害を負った場合、事故後の生活に支障が出ますので、生活を続けていくためにも、正当な慰謝料を受け取ることが大切です。
過失割合が10対0の交通事故で注意すべきポイント
交通事故の非がすべて加害者にあったとしても、必要な対策や準備をしないと過失割合が10対0から動く可能性もあるので注意してください。
無症状でも病院を受診すること
これは、過失割合とは関係がないのですが、交通事故の被害者となった場合、無症状でも病院を受診してください。
交通事故の怪我には、むち打ちなどの表面上で確認できない怪我もありますし、交通事故が起きてから数時間から数日後に症状が出ることもあります。
怪我の治療費も損害賠償の対象となりますが、病院に行かなければ怪我と交通事故との因果関係はわかりません。
交通事故が原因の怪我だったとしても、因果関係が確認できなければ怪我に対する損害賠償を受けられませんので、怪我の有無を確認するためにも必ず病院に行ってください。
怪我が完治・症状固定になるまで通院を継続する
怪我の治療費は加害者に請求できますので、完治するまで通院してください。
後遺障害等級認定を受けるためには、後遺障害診断書を作成してもらう必要があります。
症状固定は、交通事故による怪我が治療を受け続けても改善する見込みがない状態をいい、通院を継続していないと医師が症状固定の判断をできません。
そのため、交通事故による怪我が完治または症状固定の判断が下されるまでの間は、病院で治療・経過観察を受けてください。
被害者が加入する保険は適用できない
過失割合10-0のケースでは、被害者に事故が発生した責任がないため、被害者が加入する保険会社に示談交渉を依頼することはできません。
ただし、加入している保険に弁護士特約を付けている場合には、特約を活用して弁護士に依頼することは可能です。
弁護士特約は、弁護士に損害賠償請求を依頼する際に生じる費用を補償する特約で、加害者に全面的な非がある事故だけでなく、被害者に事故原因がある場合でも適用できます。
被害者が示談交渉する選択肢もありますが、交通事故の損害額や算定方法について揉めることが想定されますので、過失割合が10対0であっても、弁護士に示談交渉の代理を依頼することが望ましいです。
保険契約者に全面的な非がある場合や、故意に起こした事故や重過失があるケースで弁護士特約を適用することはできませんが、加害者が原因で発生した事故の示談交渉においては、弁護士特約を活用して弁護士に依頼することを検討してください。
まとめ
過失割合は交通事故の状況や当事者の属性によって変動しますので、被害者も自身の正当性を主張しなければなりません。
過失割合が10対0の事故でも、加害者が全面的に責任を認めるとは限りませんし、加害者が加入する保険会社が保険金の支払いを抑えるために、被害者にも過失があったと主張してくることも考えられます。
交通事故による損害額を正確に算出しないと、納得できる補償は受けられませんので、交通事故の示談交渉については専門家である弁護士に一任することを推奨します。
みらい総合法律事務所は無料相談を行なっています。ぜひご利用ください。
代表社員 弁護士 谷原誠