時効|交通事故の示談金が0円に!?損をしないための知識を解説
目次
交通事故の解決までは時間がかかる
交通事故の被害にあって、怪我をすると、その解決までには、ある程度の時間がかかります。
加害者の刑事事件からはじまり、示談交渉をし、損害賠償金の入金によって終了します。
怪我をした場合には、治療をしなければなりません。
その治療もすぐに終わるとは限りません。
治療が何年もかかることもあります。
そして、治療が終わらないと、損害額が確定しないので、示談交渉は治療終了後に始まります。
そして、示談交渉は、保険会社は、なるべく示談金額を低くしようとし、被害者は、示談金額をなるべく高くしようとするので、すぐに示談が成立することは少ないです。
その結果、示談交渉が何年もかかる場合があります。
交通事故の解決プロセスは、以下のようになります。
- ・交通事故発生
- ・加害者の刑事事件の進行
- ・被害者の治療開始
- ・治療の終了
- ・後遺障害がある場合は後遺障害等級認定申請
- ・示談交渉
- ・示談成立
- ・決裂の場合は訴訟へ
このように、交通事故の解決までには、多数のプロセスがあります。
そして、実は、交通事故の示談交渉を成立させないと、示談金が消滅してしまう事態が生じる場合あります。
それは、「時効消滅」という制度です。
交通事故の示談金の消滅時効とは?
法律の世界には「消滅時効」というものがあるのをご存知でしょうか?
消滅時効とは、一定の時間が経過したために、あることの効力や権利が消滅する制度です。
じつは、交通事故の被害者が行なう損害賠償請求にも時効があります。
時効の期間を過ぎて、加害者がそれを援用してしまうと、被害者の方は慰謝料などの損害賠償金を加害者側に請求することができなくなってしまいます。
つまり、慰謝料などを1円も受け取ることができなくなってしまうということです。
被害者の方にとって、突然の交通事故でケガをして、後遺症という大きな損害を受けたうえに、時効により損害賠償金が0円になってしまう状況などあってはならないことです。
交通事故の被害者の方は、加害者側の保険会社との示談交渉を「面倒だ」とか、「あとでやればいい」などと先送りにしたり、放っておくと大変なことになってしまいます。
損害賠償請求権の時効の期間について
交通事故における損害賠償請求権の時効の期限は、損害賠償の内容によって次のように異なります。
(1)自賠責保険に対する被害者請求の時効
交通事故については、傷害・死亡の場合は事故の翌日から3年、後遺障害がある場合は症状固定日の翌日から3年です。
(2)加害者に対する損害賠償請求権の時効
・加害者に対する損害賠償請求の時効は、「損害及び加害者を知った時」(民法724条)から物損については3年、人身損害部分については5年です。
・あるいは、損害及び加害者がわからなかったとしても、事故日から20年を経過すれば時効により消滅します。
・後遺障害がある場合には、症状固定した時点で初めて後遺障害を含む損害について知ったことになるので、人身損害の時効は症状固定日から5年となります。
より正確には、事故等の時点が午前零時でない限り、初日不算入とされますので、当該日の翌日が起算点となります。
(最高裁昭和57年10月19日判決)
時効を完成させない方法とは?
被害者の方が肉体的、精神的につらいので示談交渉を延期したいという場合や、なかなか示談交渉が解決しない時など、さまざまな理由から時効を完成させない必要が生じる場合があります。
そのような時は、次のような方法があります。
- ・加害者側に債務を承認する書面(同意書)を書かせる
- ・賠償金の一部を支払わせる
- ・裁判を起こす
- ・加害者に内容証明郵便を送付する など
なお、内容証明郵便(催告)によって時効の完成が猶予される期間は6ヵ月です。
この場合には、6ヵ月以内に裁判等を起こす必要があります。
また、書面又は電磁的記録(メールなど)によって、損害賠償に関して協議を行なう旨の合意を加害者との間で取り交わした時には、以下のいずれか早い時までの間、時効は完成しないこととなります。
- その合意があった時から1年
- その合意において当事者が協議を行なう期間(1年未満)を定めた時は、その期間
また、自賠責保険やご自身が契約している保険会社との時効期限が近づいているような場合は、時効が完成してしまう前に、保険会社から債務を承認する書類をもらっておけば時効の完成が猶予されるので、忘れずもらっておくようにしましょう。
ただし、自分が契約している保険会社に対する時効と、加害者側の保険会社に対する時効は別のものであることに注意が必要です。
損害賠償請求の時効に関する注意点
(1)異議申立を何度も行なっていたり、交渉が上手くいかずに放置したままで時効期間が経過してしまったような場合には、時効によって請求権が消滅してしまうので注意が必要です。
(2)時効が成立してしまうと、その後は一切の損害賠償請求をすることができなくなってしまうので、時効の管理はしっかりしなければなりません。
(3)時効の更新とは、それまでの期間がリセットされることです。
たとえば、2年が経過した時点で更新した場合、再開した時点からまた3年、あるいは5年後に時効がくることになります。
(4)加害者本人や加害者が加入している任意保険会社が被害者の方の治療費を医療機関に支払った場合、また休業損害を被害者の方に支払ったような場合は、債務の一部承認とみなされます。
そのため、時効は最後の支払いがあった時から、また新たに進行することになります。
(5)示談交渉の際、加害者側の任意保険会社が「損害額計算書」などで示談金額を提示している場合も債務の一部承認となるので、時効は提示日から新たに進行することになります。
消滅時効が完成しそうな時の対応
加害者側の保険会社と交渉していて、時効が完成しそうになった時、保険会社が示談金を提示してくれればいいのですが、なかなか提示してくれない時もあります。
そのまま時間が経過してしまうと、時効が完成してしまいます。
時効が完成し、加害者がそれを援用すると、損害賠償請求権が消滅してしまいますので、それを回避しなければなりません。
その場合には、損害賠償請求権の時効消滅を回避するために、裁判を起こす、ということになります。
裁判を起こすと、そこで時効期間の進行が止まるので、裁判が何年かかっても消滅時効が完成することはありません。
しかし、裁判を起こすといっても、証拠を収集し、訴状を書いて裁判所に提出しなければいけません。
一定の時間がかかります。
その間に消滅時効が完成してしまう可能性もあります。
そこで、裁判の準備をしている間に消滅時効が完成しそうな時は、前述した内容証明郵便を送っておきます。
そうすると、時効完成が6ヵ月間延びるので、その間に裁判の準備を進めることになります。
注意が必要なのは、事故後、加害者が転居している場合には、内容証明郵便が届かない場合がある、ということです。
したがって、消滅時効間際の場合には、内容証明郵便や裁判を起こす前に、加害者の住所を確認しておく、という作業も必要となります。
このあたりは、被害者本人では難しいと思いますので、やはり弁護士に依頼して行なうほうが安全だと思います。
【動画解説】【交通事故】慰謝料請求権が消えてなくなる「消滅時効」
代表社員 弁護士 谷原誠