交通事故による車の評価損を相手方に損害賠償請求できるのか?
交通事故で損壊した自動車の車両価格は、完全に修理したとしても、事故前まで戻ることはありません。
車両価格が下がれば、自動車を売る際に受け取れるお金も減ってしまいますので、評価損に対する賠償を加害者に求める必要があります。
本記事では、交通事故による自動車の評価損の概要と評価損が認められるケース、相手方に損害賠償を請求する際の注意点について解説します。
目次
交通事故の「評価損」(格落ち損害)とは?
交通事故の評価損は、交通事故が原因で下がった自動車の価値をいい、「格落ち損害」と呼ばれることもあります。
自動車に傷がつけば車両価格は下がりますが、損傷個所を修復することで価値を一定水準まで戻すことは可能です。
一方、交通事故に遭った場合、損壊した部分を完全に修理したとしても事故前の価値まで戻すことは難しいため、自動車に評価損が生じます。
交通事故が原因で評価損となる主な理由は、次の3つです。
- ・修理しても故障箇所が残っている可能性
- ・自動車に事故歴(修復歴)が残る
- ・事故に遭った自動車は縁起が悪い(と思う人が多い)
中古車は商品ごとに取引価格が設定されますが、商品の評価損となる要素が多い自動車ほど取引価格は下がります。
故障するリスクの高い自動車は敬遠されますし、一般的な自動車と事故歴のある自動車を比べた場合、事故車が積極的に購入されることはありません。
「交通事故に遭った自動車は縁起が悪い」との考えは主観的なものなので、自動車自体の価値を下げる要素ではないです。
しかし、事故物件の家賃が相場よりも低くなるのと同様、主観的に忌み嫌われる要素は市場価値を引き下げる要因となります。
自動車の評価損も損害賠償請求の対象
交通事故の損害賠償には、怪我に伴う入院費・治療費などの人的損害に対する補償だけでなく、自動車の修理費用などの物的損害も含まれます。
自動車の評価損は交通事故が原因で自動車の価値が下がった損害ですので、評価損も損害賠償の対象です。
自動車の評価損に対する損害賠償請求をする際は、交通事故で被った損失額を算定しなければなりません。
交通事故による損壊や修理状況によっては評価損が否認される場合や、軽度の評価損しか認められないこともあるので注意が必要です。
また、加害者や加害者が加入する保険会社は、交通事故で自動車の評価損は生じていないと主張することもあるため、交通事故で物的損害を被った際は自動車の修理費用や買換費用だけでなく、評価損も適正に算出することが大切です。
交通事故で自動車の評価損が生じるケース
次のいずれかに該当する場合、自動車に評価損が発生しますので、評価損を含めた額を損害賠償金として請求する必要がありますが、評価損を損害賠償金として認めるかどうかは見解が分かれています。
評価損が認められるためには、修理しても外観や機能に欠陥が生じ、または事故歴により自動車の価値の下落が見込まれる必要があります。
交通事故による自動車の損壊が大きい
交通事故では自動車に強い衝撃が加わりますので、損壊した部分だけでなく、見えない場所のパーツが故障している可能性もあります。
自動車は数多くの部品が使用されていますので、1か所でトラブルが発生してしまうと、自動車全体で不具合が起きやすくなります。
交通事故でフレームがゆがんだ場合、フレームの修理や交換で自動車の見た目を事故前の状態まで戻すことはできますが、交通事故の衝撃でフレーム以外のパーツもゆがんでいることも考えられるため、自動車全体の故障を漏れなく確認することは困難です。
故障するリスクがある自動車は、それだけで価値が下がりますので、交通事故による損壊が大きい場合には、評価損が認められやすいです。
修復歴車・事故歴車に該当する
修復歴は自動車が交通事故で損壊し、修理した際の履歴をいいます。
交通事故に遭った自動車は、一般的には「事故車」、自動車業界では「修復歴車」と呼ばれています。
日本自動車査定協会(日査協)や自動車公正取引協議会(公取協)では、統一基準として修復歴車の定義を定めており、交通事故やその他の災害で自動車の骨格等に欠陥を生じたものまたは、その修復歴のあるものを修復歴車としています。
ボンネットタイプの自動車の場合、次の骨格部位に損傷があるものや、修復されているものは修復歴車に該当します。
- フレーム(サイドメンバー)
- クロスメンバー
- インサイドパネル
- ピラー
- ダッシュパネル
- ルーフパネル
- フロア
- トランクフロア
一般的に中古車を購入する人は修理歴のある自動車を避ける傾向にあり、修理歴の有無は中古車の価値を判断する際の大きな要素です。
同種の自動車が2台あった場合、交通事故に遭った自動車を積極的に選ぶ人はいませんので、修復歴車や事故車の取引価格は必然的に下がります。
交通事故による評価損が認められないケース
評価損が認められないケースとして多いのは、客観的な価値の低下がないと判断された場合です。
初年度登録から相当年数経過している自動車は、経年劣化による損傷などがある程度想定され、車両価格も元々抑えられていることから、評価損が認められにくい傾向にあります。
事故による損傷が軽微であれば修復が可能ですし、他の部品等に及ぼす影響も少ないため、評価損として認められにくいです。
また、ねじ止め部位(部分)は骨格部位には該当しないため、骨格周囲を修理したとしても、修復歴車や事故車にならないこともあります。
交通事故の評価損を算定する方法
交通事故が原因による自動車の評価損は、主に「修理費基準法」と「総合勘案基準」のいずれかを用いて算定します。
修理費基準法は、実際に要した修理費用を基準に評価損を算定する方法です。
事故で生じた修理費用に一定割合を乗じて評価損を計算することになりますが、事故で低下する評価額は、車種や事故当時の自動車の状態によって異なります。
裁判では修理費用に乗じる割合が焦点となりやすく、修理費用のおおむね10%から50%の範囲で評価損が認められることが多いです。
総合勘案基準法は、様々な要素を総合的に考慮して算定する方法です。
自動車の車種や新車登録から事故発生時点までの年数、事故による修理費用などを総合的に勘案して、評価損を算定します。
上記以外の算定方法としては、売却金額をベースに算定する「売却金額基準」や、日本自動車査定協会が設けた基準に従って算定する「査定協会基準」があります。
法律で定められた評価損の算定方法はなく、どの評価基準に基づいて評価損を算定しても問題はありません。
ただし、評価損が客観的かつ合理的に妥当であることを証明できないと相手側は納得しませんので、評価額の算定は専門家に依頼することが望ましいです。
交通事故に遭った自動車の査定方法
交通事故が原因で事故車になった自動車の評価損は、専門家に査定を依頼してください。
車両価値の低下は車種や損傷の度合い、修復歴などを考慮するため、被害者が評価損を算定するのは難しいです。
自動車の修理費用については、整備工場に依頼して見積もりを出してもらうことができます。
一方、評価損の査定については、日本自動車査定協会に査定依頼することが可能です。
「一般財団法人日本自動車査定協会(JAAI)」は、自動車の査定を行う第三者機関であり、査定額を算出するだけでなく、事故減価額証明書を発行します。
評価損に対する損害賠償を交渉する場合、交通事故で下がった価値を客観的に示すことが重要です。
主観的な意見だけでは相手方は納得しませんので、評価損による損害額を客観的に示すためにも、事故減価額証明書が取得できる日本自動車査定協会に査定依頼するのも選択肢です。
評価損で弁護士費用特約を使用できる場合とは
加害者が任意保険に加入していれば、交通事故で生じた修理費用等を支払ってくれますが、評価損に対する補償には応じない可能性があります。
弁護士に評価損の交渉を依頼する方法もありますが、その際に弁護士費用特約を利用することも可能です。
弁護士費用特約は、弁護士に委任する際にかかる費用を補償する特約で、被害者が加入している自動車保険に弁護士費用特約が付されている場合には、特約を利用して示談交渉を依頼することができます。
評価損が認められれば受け取れる損害賠償金の額は増えますし、弁護士費用は特約でまかなわれますので、弁護士に依頼したことで自己負担が生じることは原則ありません。
注意点として、自動車保険における弁護士費用特約は自動車事故による事故を対象としているため、自転車同士や、自転車と歩行者の事故での適用はできません。
また、被害者に故意または重過失があった場合についても、弁護士費用特約は利用できない点には気を付けてください。
示談交渉で評価損を認めさせるのは難しい
物的損害のうち、修理費用は見積金額や実際に要した金額を提示できるのに対し、評価損は実際に低下した価値を示すことが難しいため、示談交渉で意見が分かれやすいです。
交通事故による評価損は、被害を受けた自動車の被害状況だけでなく、車種や年数によって左右されます。
評価損が生じたことが事実だとしても、加害者や加害者が加入する保険会社が評価損を認めるとは限りません。
提示できる証拠等が乏しければ、評価損に対する補償を拒否することもありますし、示談交渉が決裂すれば、裁判に発展することも考えられます。
被害者と加害者の保険会社では示談交渉に関する知識量に差がありますので、被害者だけで評価損に対する補償を求めることは大変です。
そのため、納得する形で示談を成立させたい場合は、交渉または裁判を弁護士に任せることも視野に入れてください。
評価損の損害賠償請求は弁護士に委任すること
交通事故の物的損害は加害者に補償してもらうことができますが、評価損に対する補償は拒まれ、裁判が必要となることも想定されます。
補償を拒否されないためには、評価損を具体的に算定することはもちろんのこと、算定した根拠となる資料や証拠を揃えることが大切です。
損害賠償の示談交渉の場では専門知識を要しますし、加害者の保険会社は示談交渉に精通しているため、被害者だけで交渉するのは難しいです。
交渉が長引けば精神的に辛い思いをしますので、、交通事故に関する手続きを当初からすべて弁護士に委任することも検討してください。