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内縁の夫の死亡事故で妻は慰謝料を請求できるか?

最終更新日 2024年 02月10日

内縁の夫の交通死亡事故で妻は慰謝料を請求できるか?

交通事故の慰謝料には、①傷害慰謝料(入通院慰謝料)、②後遺障害慰謝料、③死亡慰謝料、④近親者慰謝料の4種類があり、①~③は被害者の方が負った精神的な苦痛や損害に対して支払われます。

死亡事故では被害者の方はすでに亡くなっているので、死亡慰謝料等の受取人はご家族などの相続人になります。
ただし、相続人には相続順位や分配割合が決まっていて、誰でも受け取ることができるわけではないことに注意が必要です。

配偶者は、つねに相続人になりますが、内縁関係の夫や妻は相続人ではないので、原則として慰謝料を請求することができません。

しかし中には、内縁関係でも損害賠償請求を認めた裁判例がありますので、死亡事故の慰謝料について網羅的に解説したうえで、裁判例をまじえて解説します。

死亡事故の慰謝料請求権者

死亡事故の慰謝料請求権者

誰が慰謝料請求権を取得するのか

交通事故で死亡した場合には、その損害を加害者に請求していくことになります

そこで、誰が損害賠償請求権を取得するのかという問題があります。

つまり、交通事故の被害者が、慰謝料や逸失利益等の損害賠償請求権を自分で取得し、それが相続人に相続されるのか、あるいは、相続人が原始的に自分で損害賠償請求権を取得するのか、という点です。

この点について、判例は、主に、被害者自身が損害賠償請求権を取得し、これが相続によって承継されると考えています。

 

相続人による慰謝料の分配

相続人による慰謝料の分配次に、損害賠償請求権を相続する相続人は誰かという点です。

相続人となるのは、まず配偶者です。配偶者は常に相続人となります。

配偶者とともに相続する相続人は、第一順位は、子です。

配偶者が2分の1、子が1分の1で、子が複数いる場合は、2分の1を按分します。

たとえば、子が2人いて、損害賠償額が1000万円とすると、配偶者が500万円、子がそれぞれ250万円ずつとなります。

子がいないときには、配偶者とともに親が相続人となります。

配偶者が3分の2、親が3分の1です。親が1人の場合は、6分の1ずつとなります。

たとえば、損害賠償額が900万円とすると、配偶者が600万円、親がそれぞれ150万円ずつとなります。

親が両親の場合には、6分の1ずつです。

子も親もいないときには、兄弟姉妹が配偶者とともに相続人となります。

配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。兄弟姉妹が複数の場合は、4分の1を按分します。

たとえば、損害賠償額が1000万円で、兄弟姉妹が2人いるとすると、配偶者が750万円で、兄弟姉妹がそれぞれ125万円ずつとなります。

【参考記事】
【交通死亡事故】慰謝料請求…ご家族がやるべきことは?

 

死亡事故で請求できる損害

死亡事故で請求できる損害では、死亡事故の場合には、どのような損害を加害者らに請求できるでしょうか。

死亡事故で請求できる損害には、主に

  1. 慰謝料
  2. 逸失利益
  3. 近親者慰謝料
  4. 葬儀費用

 
などがあります。

慰謝料

慰謝料は、本人の精神的苦痛に対応するものです。

家族の中での立場によって金額が異なり、

被害者が一家の支柱の場合には、2800万円
配偶者、母親等の場合には、2500万円
それ以外の子供や独身者などの場合には、2000万円~2500万円

が相場となっています。

ここで、一家の支柱とは、被害者の世帯の生計が主に被害者の収入によって維持されている場合です。

その他の場合とは、独身の男女や子供、幼児、高齢者等です。

また、この金額は、あくまでも相場の金額なので、特別の事情があるような場合には、慰謝料が増額する場合もあります。

慰謝料が増額する場合としては、

・飲酒運転、赤信号無視、ひき逃げなど、加害者に悪質な事情がある場合

・被害者の親族が精神疾患にかかったなど、被害者側に特別の事情がある場合

などがあります。

慰謝料が相場より増額する場合について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

詳しい解説はこちら

逸失利益

逸失利益は、死亡したことによって、将来得られたであろう収入に対応するものです。

ただし、将来にわたってもらうべきものを、現時点で一括してもらうことになるので、将来に対する中間利息を控除して計算をします。

そこで、計算式としては、次のようになります。

(基礎収入額×(1-生活費控除率)✕就労可能年数に対応するライプニッツ係数)

このライプニッツ係数が中間利息の控除を計算するための係数となります。

【参考情報】
「就労可能年数とライプニッツ係数表」国土交通省

 

近親者慰謝料

近親者慰謝料
近親者は、被害者が死亡したことによって、近親者が固有の精神的損害を被るので、それに対応したものです。

金額的には、数百万円が認められます。

しかし、近親者慰謝料が認められる場合には、本人の慰謝料が減額されて、合計額が調整される場合も多いので、慰謝料の合計額で考えるようにします。

葬儀費用

葬儀費用は、150万円を限度とし、実際に支出した金額が認定されます。

また、死亡までに治療などがあった場合には、その治療費などが損害となります。

これらの合計額が、損害賠償請求できる金額となります。

【参考記事】
死亡事故の慰謝料増額法とは?損害賠償から刑事裁判対応までの全知識

 

内縁の妻は損害賠償を請求できるか

内縁の妻は損害賠償を請求できるか
婚姻届を提出していないため法律上の夫婦ではないが、実質的には夫婦として共同生活を営んでいる関係を内縁関係といいます。

婚姻届を提出している法律上の妻であれば、交通事故で夫が死亡した場合は、夫が死亡しなければ得られたはずの利益(逸失利益)の損害賠償請求権を相続しますので、当然に自賠責保険金を請求することができます。

これに対し、内縁の妻の場合には相続権がありません。したがって、損害賠償請求権を相続することはできません。

しかし、内縁の妻にまったく賠償がなされないとなると、内縁の妻が内縁の夫の収入によって生計を立てていた場合にあまりに酷です。

そこで、内縁の妻は、相続人ではないので、損害賠償請求権を相続することはできないけれども、被害者の生命侵害によって、自らの扶養利益が喪失したことを損害として損害賠償請求をする論理構成が考えられます。

内縁の妻の損害賠償を認めた裁判例

最高裁平成5年4月6日判決では、交通事故で死亡した被害者に内縁の妻がいた事案において、

「内縁の配偶者が他方の配偶者の扶養を受けている場合において、
その他方の配偶者が保有者の自動車の運行によって死亡したときは、

内縁の配偶者は、自己が他方の配偶者から受けることができた将来の扶養利益の損失を損害として、

保有者に対してその賠償を請求することができる」としています。

【参考記事】
裁判例結果詳細

内縁の妻に被扶養利益と慰謝料を認めた裁判例

大阪地裁平成27年10月14日判決は、61歳の被害者女性と内縁関係にあった男性からの損害賠償請求について、被害者は、

・本件事故当時61歳で、内縁の夫のため家事労働に従事していたこと

・和菓子屋でアルバイトをして、176万908円の給与を得ていたこと

・内縁の夫は、被害者と同居し、自らの年金(月額約15万円)と内縁の妻の上記アルバイト収入等で生活していたこと

が認められることから、被害者の死亡により、扶養利益の喪失という損害を被ったことは明らかであるとして、逸失利益の3分の1に相当する被扶養利益である655万円を認めました。

また、民法711条を類推適用し、内縁の妻の固有の慰謝料として、600万円を認めました。

内縁の妻に慰謝料として1000万円を認めた裁判例

大阪地裁平成9年3月25日判決(交民30巻・2号・470頁)です。

55歳男性の死亡事故で、内縁の妻と子供らから損害賠償請求をした事案です。

裁判所は、内妻は被害者の事実上の妻として扶養を受けており、本件事故により扶養請求権が侵害されたとして、被害者の逸失利益の4割を損害と認めました。

その結果、本件事故は、飲酒の上、ひき逃げである等の事情を勘案して慰謝料として1000万円を認めました。

そして、子供らに対しては、被害者の逸失利益の6割と慰謝料総額1500万円を認めました。

したがって、内縁の妻が、被害者の扶養を受け生活をしていたような場合には、加害者に対して損害賠償を請求できる場合があります。

なお、請求の際には、同居していたことがわかる住民票や、内縁の妻を被保険者とした健康保険証、近隣者・被害者の近親者・勤務先等からの証明などの資料によって、内縁関係にあったことを証明する必要があります。

慰謝料の最新情報解説!

内縁の配偶者の慰謝料請求を否定した裁判例

東京地裁平成12年7月28日判決、出典:交民33巻4号1278頁です。

68歳女性が、歩行中、自動車に衝突されて死亡した事故です。

被害者には内縁の夫がいたことから、内縁の夫が固有の慰謝料を請求しました。

しかし、裁判所は、慰謝料請求を認めませんでした。

理由は、以下のとおりです。

・被害者は内縁の夫と日常生活上、実質的な夫婦であるけれど、入籍しなかったのはお互いの死亡により発生する法律関係をお互いに及ぼしたくないとの意思の顕われがあったと解されること

・内縁の夫の固有の慰謝料まで認めることは本人の意思に反すること

したがって、内縁関係にあれば、当然に慰謝料請求が認められるわけではないことに注意が必要です。

こちらでも解説しています

 

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監修者:弁護士法人みらい総合法律事務所
代表社員 弁護士 谷原誠
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