子供の死亡事故の慰謝料・賠償金の相場と計算
私たちの法律事務所には、交通事故でお子さんを失くし、怒りと悲しみにくれたご両親からの相談が多くあります。
子供が交通事故死してしまった場合、ご両親など相続人は、賠償金として、①葬儀費用、②死亡慰謝料、③逸失利益などを請求できます。
本記事では、子供が交通事故死した場合に請求できる賠償金の種類、計算方法、相場を解説するとともに、実際にみらい総合法律事務所が解決した子供の死亡事故の解決事例をご紹介します。
参考になれば幸いです。
目次
子供の死亡事故での適正な慰謝料・賠償金額は?
子供が交通事故で死亡した場合、適正な慰謝料・賠償金額は、いくらになるのか?以下で説明していきます。
葬儀費
自賠責保険から支払われる金額は、100万円(定額)。
裁判で認められる上限額は原則として150万円です。
150万円を下回る場合は実際に支出した額となります。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、交通事故で死亡した子供が将来得たであろう収入を推測して請求するものです。
計算式は次のようになります。
次からはこの計算式にある専門用語を解説していきます。
「基礎収入」
基礎収入とは、交通事故で死亡しなければ将来労働によって得られたであろう収入です。
子供の場合は、将来の収入額は不確定であるため、賃金センサスの平均賃金を基礎収入とします。
つまり、平均賃金くらいは収入を得るだろう、というように考えるわけです。
「生活費控除」
生活費控除とは、基礎収入から、生きていればかかったはずの生活費分を差し引くことです。
生活費控除率の目安は次のとおりです。
<生活費控除率の目安>
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合 | 40% |
---|---|
被害者が一家の支柱で被扶養者2人以上の場合 | 30% |
被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合 | 30% |
被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合 | 50% |
- 被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合
- 40%
- 被害者が一家の支柱で被扶養者が2人の場合
- 30%
- 被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合
- 30%
- 被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合
- 50%
したがって、子供の場合の生活費控除率をここでは50%とします。
「就労可能年数」
就労可能年数は、原則として67歳までです。
ただし、職種、地位、能力等によって、67歳を過ぎても就労することが可能であったと考えられる事情がある場合は、67歳を超えた分についても認められることがあります。
「ライプニッツ係数」
ライプニッツ係数とは、損害賠償の場合、将来受け取るはずであった収入を前倒しで受け取るため、
将来の収入時まで利息を複利で差し引く係数のことです。
これらを用いて死亡事故の慰謝料計算は行われます。
少し難しい内容でしたが、下のリンクでは死亡事故の慰謝料を簡単に計算することができます。
死亡慰謝料の相場表
慰謝料は、ご家族の精神的損害に対して支払われるものなのですが、精神的損害は目に見えず、数値化することができません。
そのため、いくらにするかを裁判所が決める時に、裁判官の感覚によって金額がバラバラになってしまう可能性があります。
そこで、過去の裁判例の集積によって、死亡慰謝料については、一応の相場が作られています。
<弁護士(裁判)基準による死亡慰謝料の相場金額早見表>
被害者の状況 | 死亡慰謝料の目安 (近親者への支払い分を含む) |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
独身の男女、子供、幼児等 | 2000万円~2500万円 |
なお、両親など近親者の慰謝料も数百万円程度認められますが、この場合には、本人の慰謝料が少し減額され、慰謝料合計額の調整が図られることになります。
子供の死亡事故の弁護士費用
裁判を弁護士に依頼したことにより発生する弁護士費用は、
弁護士に依頼して、裁判で損害賠償を請求した場合、請求認容額の10%程度が弁護士費用として認められます。
この金額は、実際に被害者のご家族が支払う弁護士費用とは無関係で、加害者側の保険会社から支払われるものです。
なお、この弁護士費用相当額については、示談交渉では認められませんし、裁判で判決までいかないと、十分な金額は認められないのが通常です。
しかし、場合によっては、被害者のご家族が実際に弁護士に依頼して支払う弁護士報酬を、保険会社からの損害賠償金でまかなえてしまうことがあるのです。
【子供の交通事故死】刑事事件と慰謝料の注意点は?
子供が交通事故死をした場合、法律的には、①刑事事件、②民事事件、③行政事件の3つの手続が進んでいきます。
「行政事件」
加害者の免許の取り消しや停止などのことで、被害者のご家族が関与するものではありません。
「刑事事件」
交通死亡事故を起こした加害者に対し、どのような刑罰を科すか、という手続です。
子供を失ったご家族としては、加害者に対して厳罰を科して欲しい、と望むのが通常でしょう。
しかし、刑事事件においても、ご家族は当事者ではありません。
なぜなら、刑事事件は、国家が犯罪者にどのような刑罰を科すかという手続だからです。
ただし、亡くなった子供のご両親が刑事事件に関与できないわけではありません。
まず、警察や検察庁で事情聴取を受けます。
その時に、被害感情について聞かれるので、「厳罰に処してください」などと供述することができ、その内容が供述調書に記載されます。
「被害者参加制度とは?」
ご家族は、加害者の刑事裁判に参加して、意見を陳述することができます。
これを、「被害者参加制度」といいます。
被害者参加の申請や手続き方法、どのような意見を述べたらよいのかなど、初めての経験でわからないことばかりだと思います。
疑問や不安がある場合は、交通事故に精通した弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
被害者参加制度について、もっと詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
参考記事:交通事故の被害者参加をサポート
慰謝料の注意ポイント
交通事故の加害者の刑事事件が進行している時に注意していただきたいことがあります。
それは、加害者から香典を受け取ったり、慰謝料を受け取ったりすると、加害者の刑罰が軽くなる可能性がある、ということです。
なぜかというと、お金を受け取ることで、被害感情がその分だけ慰藉された、と評価されることがあるためです。
そのため、刑事事件進行中には、加害者からは一切お金も受け取らず、示談交渉もしない、という方針をとることのほうが多いです。
この場合も、弁護士に依頼しておけば、加害者や保険会社に対する防波堤となってくれますので、ご家族としては気が楽になると思います。
なぜ保険会社は適正額より低い金額を提示するのか?
通常、死亡事故では、四十九日が終わった後に加害者側の保険会社から連絡が来て、示談金が提示されます。
刑事事件中、示談交渉を拒否していた場合には、刑事事件が終わった後になります。
被害者やご家族の中には、保険会社が必ず適正な金額を提示してくれると信じている方がいますが、これは間違いです。
私たちが相談を受けている中で多くの場合、保険会社は適正な金額より低い金額を提示してきます。
それは、なぜなのでしょうか?
保険会社は営利を追求しているから
保険会社が株式会社の場合には、営利を追求しなければなりません。
会社が利益を出すためには、売上を増やすだけでなく、支出を減らすことが必要です。
保険会社が交通事故の被害者に対し、高額の示談金をどんどん払っていたら、利益が減ってしまいます。
そこで、保険会社は、なるべく示談金の支払いを低額におさえ、利益を出そうとするのです。
このような仕組みがあるために、残念なことですが、子供の事故死においても、保険会社から適正な慰謝料が提示されなくなってしまうのです。
慰謝料計算には3つの基準があるから
交通事故で、保険会社が被害者の方に対して慰謝料を提示する場合、次の3つの計算基準があります。
②任意保険基準
③弁護士基準(裁判基準)
金額の大きさは、「弁護士基準>任意保険基準>自賠責保険基準」となっていて、弁護士基準がもっとも高額で適正な慰謝料額の基準となります。
示談交渉において、保険会社は自賠責保険基準か任意保険基準で慰謝料を提示してくることが多いこと、そして被害者のご家族は弁護士基準での解決を目指していくべき、ということを憶えておきましょう。
死亡事故の慰謝料はさらに増額される場合がある
場合によっては、子供の死亡事故の慰謝料額が相場より増額されるケースがあります。
たとえば、次のようなケースです。
・加害者に飲酒運転、無免許運転、信号無視など悪質な運転行為があった場合
・被害者のご遺族に暴言を吐くなど被害感情の悪化が強い場合(通常の事故よりも特に精神的な損害が大きいと判断されるケース)
ただし、注意しなければならないのは、慰謝料の増額は、保険会社側から持ちかけられることはありませんし、裁判所が勝手に増額してくれることもないことです。
慰謝料増額は、被害者側が発見し、強く主張することが必要です。
そのためには、ご家族は、どのような場合に慰謝料が増額されるのかを知っていなければならない、ということになります。
しかし、それは法律の素人には難しいでしょう。
そのような意味でも、やはり子供の死亡事故の示談交渉は、交通事故に強い弁護士に相談・依頼することを検討したほうがいいと思います。
子供の死亡事故で慰謝料を相場より増額した裁判例をご紹介します。
加害者は、朝まで量がわからないくらいに飲酒して自動車を運転し、死亡事故を起こしました。
加害者は事故の後、被害者を救護せず、コンビニエンスストアで強力な口臭消しを購入し、捜査段階で嘘の供述をし、ご両親は心療内科に通院せざるを得ない、というような事情がありました。
そこで、裁判所は、当時の慰謝料の相場は2000万円~2200万円であったにもかかわらず、本人分の慰謝料を2750万円、両親分合計500万円の合計3250万円を認めました(大阪地裁平成20年9月26日判決、出典:自動車保険ジャーナル1784号15頁)。
加害者は、勤務する会社から、運転する大型貨物車の助手席ドアのガラス部のスモークフィルムを取り外すよう指示をされていたにもかかわらず、そのままにしていました。
そのため、左方向の視界が悪化しており、それが事故の一因となったという事情、及び慰謝の措置を講じていないという事情がありました。
裁判所は、慰謝料の相場としては、当時2000万円~2200万円だったところ、本人分2000万円、父母合計800万円、弟分200万円の合計3000万円を認めました(千葉地裁平成19年10月31日判決、出典:交民40巻5号1423頁)。
交通事故で子供が死亡した場合の慰謝料増額事例
次に、みらい総合法律事務所が実際に増額解決した子供の死亡事故の事例を見てみましょう。
1歳の女の子が残念ながら、交通事故で命を落としました。
保険会社は、四十九日が終わった後、悲嘆にくれるご両親に対し示談金として、3399万3570円を提示しました。
ご両親は、怒りと悲しみのあまり、示談交渉する気力もなく、死亡事故の被害者弁護に定評のある、みらい総合法律事務所の弁護士に示談解決の依頼をしました。
弁護士が保険会社と交渉した結果、最終的に、5193万8463円で解決しました。
保険会社が提示した額から、約1800万円も増額したことになります。
保険会社が提示した、このお子さんの命の値段は、1800万円も低かった、ということです。
参考記事:実際の解決事例(死亡事故)
代表社員 弁護士 谷原誠