死亡事故の示談を徹底解説|示談交渉の注意点も
「死亡事故の示談」とは、交通事故により死亡した被害についての損害賠償問題を裁判によらずに当事者間で解決する契約ということになります。
法律的性質は、「和解契約」(民法695条)です。
和解は、話し合いなどをして、相互に譲り合って合意することであり、交通事故の実務では、最終的に、「示談書」や「免責証書」に署名捺印をすることにより成立します。
死亡事故の示談金は、数千万円から場合によっては1億円以上にもなるもので、とても重要なプロセスとなります。
交通死亡事故で被害者の方が亡くなった場合、加害者が任意保険に加入しているなら、通常は四十九日が過ぎるとその保険会社から慰謝料などの損害賠償金(状況によって示談金とも保険金ともいいます)の提示があります。
大切な方が亡くなった悲しみも癒えないまま、お金の話をするのはつらいことかもしれませんが、亡くなった方のためにもご遺族は様々な手続きを行なっていかなければいけません。
そこでまず大切なのが示談交渉です。
ただし、ご遺族が単独で示談交渉をしても保険会社が増額に応じることは少ないのが現実です
では、ご遺族はどうすればいいのでしょうか?
そこで本記事では、交通死亡事故の示談について徹底解説するとともに、示談交渉の注意点も解説していきます。
目次
交通事故の示談をフローチャート解説
交通事故が発生してから示談解決までには通常、次のようなプロセスと手続きが必要になります。
交通事故における示談とは?
交通事故での示談とは、被害者と加害者の間で次のことを話し合い、和解することです。
どのような損害が生じたのか?
損害額はいくらになるのか?
支払い方法はどうするか?
つまり、その過程が示談交渉であり、そもそも示談というのは白黒つけるために争うことではないということです。
示談金は誰が受け取ることができるのか?
死亡事故の示談交渉を行うとしても、まずは、誰が示談金を受け取ることができるのか、を確認しておく必要があります。
そこで、ここでは、死亡事故において示談金を請求できる人は誰か、について解説します。
示談金は、ご遺族であれば誰でも受け取ることができるわけではありません。
受けとることができるのは、法律上の相続人になります。
(1)相続人の順位
亡くなった方に配偶者がいる場合は、つねに相続人になります。
第1位は子、第2位は親、第3位は兄弟姉妹になります。
子がすでに亡くなっている場合、子の子(被害者の孫)が代襲相続により第1位の相続人になります。
(2)相続人の分配割合(法定相続分)
①「相続人が子の場合」
配偶者:2分の1
子:2分の1
※子が2人の場合、2分の1を分けるので、1人の相続分は4分の1となる。
②「相続人が親の場合」
配偶者:3分の2
親:3分の1
※両親(父母)がいる場合、3分の1を2人で分けるので、1人の相続分は6分の1となる。
③「相続人が兄弟姉妹の場合」
配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1
※兄弟姉妹の割合である4分の1をその人数で分配する
上記は、あくまでも法律で定められた割合です。
たとえば、亡くなった方の遺言書がある場合は、その内容に従うことになります。
法的な相続権のない人を相続人の1人にする場合や、分配率を変更したいといった場合は、相続人の間で話し合い、全員の同意が必要になります。
これを、「遺産分割協議」といいます。
後から相続人間で争いになることもあります。
そうならないように遺産分割協議の内容を書面化しておくことが大切です。
交通死亡事故の示談はいつから始めるのか?
死亡事故の慰謝料を請求できる人がわかったら、次は、いつから示談交渉を始めればよいか、ということになります。
交通事故により後遺症が残ってしまった場合は、被害者ご自身の後遺障害等級が認定されてから示談交渉が開始されます。
一方、被害者の方が亡くなった場合は、死亡により損害額が確定するので、通常は四十九日が過ぎた頃に、加害者側の任意保険会社から慰謝料などの損害賠償金の提示があり、ここから示談交渉が開始されます。
ただ、ここで注意していただきたいのは、加害者の刑事裁判との兼ね合いです。
たとえば、刑罰が確定する前に示談を成立させてしまうと、裁判で「慰謝料などの償いがなされ、ある程度、遺族感情が緩和された」とみなされて加害者の刑が軽くなってしまうことがあります。
そのため、交通死亡事故の場合は加害者の刑事事件が終了してから示談交渉を開始するケースが多いことを知っておいてください。
なお、刑事裁判では「被害者参加制度」というものがあります。
刑事裁判というのは、被害者やご遺族ではなく、国が加害者を裁くものであるため、民事裁判のように被害者やご遺族は関与しません。
しかし、被害者参加制度を利用して裁判に参加することで、ご遺族の思いを伝えることができますし、それが判決に影響することもあります。
被害者参加制度を希望される場合は一度、交通事故に強い弁護士に相談してみることをおすすめしています。
交通死亡事故の示談で注意するべき5つのポイント
(1)保険会社の提示額で示談してはいけない
いよいよ示談交渉を開始する段階になったとしたら、示談交渉を開始する前に、ご遺族が知っておかなければならない知識があります。
これらを知っていないと、本来もらえるはずの慰謝料をもらない可能性があるためです。
まず、1つ目は、加害者側の任意保険会社が提示してくる慰謝料などの損害賠償金額、じつはこれ、被害者の方のご遺族が示談してはいけない金額です。
保険会社というのは営利法人ですから、当然、利益を上げるのが目的です。
被害者の方への損害賠償金は保険会社にとっては支出ですから、これをできるだけ低く抑えようとします。
そのため、保険会社の提示額というのは、被害者の方やご遺族が本来であれば受けとることができる金額の2分の1,3分の1、さらにはもっと低い金額であることがあります。
ですから、ご遺族は保険会社が言うことをそのまま受け取って、すぐに示談をしてはいけないのです。
(2)弁護士基準で計算した慰謝料を受け取るべき
慰謝料などの損害賠償金の計算では、次の3つの基準が使われます。
「自賠責基準」
自賠責法により自賠責保険で定められている基準で、3つの中でもっとも低い金額になります。
「任意保険基準」
・各任意保険会社が、それぞれ独自に定めている基準です。
・各社非公表のため正確にはわかりませんが、自賠責基準より少し高い金額になるように設定されています。
「弁護士(裁判)基準」
・3つの基準の中ではもっとも高額になります。
・過去の裁判例から導き出されているため法的根拠がしっかりしており、裁判で認められる可能性が高くなります。
・弁護士(裁判)基準で計算した金額が本来、ご遺族が受け取るべき金額です。
・そのため、弁護士はこの金額を保険会社に主張していきます。
ご遺族としては、弁護士(裁判)基準で計算した適切で正しい金額主張していくことで増額を勝ち取ることが大切になってきます。
(3)死亡事故の2つの慰謝料
慰謝料というのは1つではなく、じつは次の4つがあります。
①入通院慰謝料
②後遺障害慰謝料
③死亡慰謝料
④近親者慰謝料
このうち、死亡事故の場合は、③と④を請求することができます。
「死亡慰謝料」
被害者の方が死亡した場合に、その精神的苦痛や損害に対して支払われるもので、
受取人は死亡した方の相続人になります。
死亡した方の家庭内での立場や状況によって、次のように概ねの相場金額が決まっています
<死亡慰謝料の相場額:弁護士(裁判)基準の
場合>
被害者が一家の支柱の場合 | 2,800万円 |
---|---|
被害者が母親・配偶者の場合 | 2,500万円 |
被害者がその他(独身者・幼児・高齢者など)の場合 | 2,000万~2,500万円 |
- 被害者が一家の支柱の場合
- 2,800万円
- 被害者が母親・配偶者の場合
- 2,500万円
- 被害者がその他(独身者・幼児・高齢者など)の場合
- 2,000万~2,500万円
ここで、「一家の支柱」とは、被害者が扶養義務を負っており、かつ、現実に扶養義務を果たしている親族であり、被害者がその世帯の経済的支柱であったことをいいます。
「母親、配偶者」は、世帯の経済支柱ではないものの、家事の中心を担ったり、子を養育しているような者であり、女性に限定されず、男性でも「母親、配偶者」に該当する場合があります。
共働き夫婦の場合には、各自の収入額や家計への貢献度、家事の分担割合などを勘案して「一家の支柱」と「母親、配偶者」の相場金額の間で慰謝料額を定めることになります。
ただし、これはあくまでも相場金額のため、事故の状況、悪質性などによっては交渉によって増額する場合があります。
「近親者慰謝料」
被害者の方の近親者(ご家族など)が被った精神的苦痛・損害に対して支払われるものです。
受取人が、両親(父母)、配偶者(夫・妻)、子供の場合の金額は概ね、被害者本人の慰謝料の1~3割ほどになることが多いです。
内縁の夫や妻、兄弟姉妹、祖父母にも認められる場合があります。
(4)消滅時効に注意する
法律では「消滅時効」というものがあります。
これは、一定の時間が経過すると、あることの権利や効力がなくなってしまう制度で、交通事故の損害賠償請求でも適用されます。
自賠責保険に対する被害者請求の時効
傷害・死亡の場合は事故の翌日から3年、後遺障害がある場合は症状固定日の翌日から3年。
加害者に対する被害者請求の時効
・「損害及び加害者を知った時」(民法724条)から物損については3年、人身損害部分については5年。
・後遺障害がある場合(症状固定した時点で初めて後遺障害を含む損害について知ったことになるので)、人身損害の時効は症状固定日から5年。
・損害及び加害者がわからなかったとしても、事故日から20年を経過すれば時効により消滅する。
損害賠償請求できる項目と相場金額について
以上の知識を身に着けたら、いよいよ示談交渉の開始です。
示談交渉では、請求できる損害項目をもれなく請求することが大切です。
そのために、死亡事故では、どのような請求をすることができるのか、を知っておく必要があります。
交通死亡事故のご遺族(相続人)が受け取ることができる損害賠償項目には次のものがあります。
(1)葬儀関係費
自賠責保険から支払われる金額は、60万円が上限です。
たとえば、葬儀費用に100万円がかかった場合、次のような請求の仕方があります。
①先に自賠責保険に請求をする場合、ご遺族はまず60万円を自賠責保険から受け取り、残りの40万円については加害者側の任意保険会社と示談交渉していく。
②初めから任意保険会社と100万円について示談交渉をしていく。
保険会社との示談交渉が決裂して提訴した場合、裁判で認められる上限額は150万円(原則として)になります。
ただし、保険会社は120万円以内の金額を提示してくる場合が多いので注意が必要です。
墓石建立費、仏壇購入費、永代供養料などについては、それぞれの事故の事案によって個別に判断されます。
(2)死亡逸失利益
事故にあわずに生きていれば、将来的に得られたはず利益(収入)です。
<死亡逸失利益の計算式>
= (死亡逸失利益)
基礎年収:事故前年の収入を基本として計算します。
就労可能年数:18歳から67歳(原則として)とされます。
ライプニッツ係数:算出が複雑なため、あらかじめ定められた係数表から求めます。
※ライプニッツ係数とは、現在と将来ではお金の価値に変動があるため、その差額を現時点で調整するためのもの(専門的には、中間利息を控除する、という)。
※民法改正により、2020年4月1日以降に起きた交通事故については、ライプニッツ係数の率は3%(以降、3年ごとに見直される)。
【参考情報】:「就労可能年数とライプニッツ係数表」(厚生労働省)
亡くなった場合、所得はなくなってしまうため「労働能力喪失率」は100%になります。
【参考情報】:「労働能力喪失率表」(国土交通省)
生活費控除率:被害者の立場や家庭内での状況などによって、おおよその相場が決められています。
※男性の場合、生活費控除率は50%とされる。ただし、一家の大黒柱で被扶養者がいる場合は、その人数によって30~40%になる場合がある。
<生活費控除率の目安>
被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合 | 40% |
---|---|
被害者が一家の支柱で被扶養者2人以上の場合 | 30% |
被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の 場合 |
30% |
被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合 | 50% |
- 被害者が一家の支柱で被扶養者が1人の場合
- 40%
- 被害者が一家の支柱で被扶養者が2人の場合
- 30%
- 被害者が女性(主婦、独身、幼児等含む)の場合
- 30%
- 被害者が男性(独身、幼児等含む)の場合
- 50%
-
28歳男性被害者の死亡事故について、被害者は事故当時、独身であり、相場としては、生活費控除率50%であるところ、被害者の年齢・職業・家族構成等から、将来的に結婚や扶養等を行う可能性は否定できないとして、生活費控除率を40%とした裁判例。(神戸地裁平成30年1月11日判決)
出典:交通事故民事裁判例集51巻1号9頁
(3)慰謝料
前述の通り、死亡慰謝料と近親者慰謝料があります。
<死亡慰謝料の相場金額>
・母親・配偶者 / 2,500万円
・その他 / 2,000 ~ 2,500万円
(4)弁護士費用
通常、訴訟になり弁護士が必要と認められる事案では、認容額の10%程度が相当因果関係のある損害として損害賠償額に加算されます。
弁護士費用相当額は示談交渉では認められず、裁判で判決までいった場合に認められるものです。
なお、裁判で判決までいくと、「弁護士費用相当額」の他に「遅延損害金」というものが追加されます。
裁判はしたくないと考えるご遺族もいますが、上記のように弁護士費用を加害者側に負担させ、さらには損害賠償金が増加するので、裁判にはメリットがあることも覚えておいていただきたいと思います。
みらい総合法律事務所で実際に解決した増額事例集
最後に、実際の事例では、どの程度の金額で示談がされているのか、また、弁護士に依頼すると、どの程度増額するのか、知っておくことも有用です。
そこで、これまで、みらい総合法律事務所で実際に解決してきた増額事例の一部をご紹介します。
79歳女性の慰謝料等が2,000万円増額
自転車に乗っていた79歳の女性が後方から自動車に衝突されて亡くなった交通事故。
加害者側の任意保険会社は示談金として約2,017万円を提示してきましたが、この金額が適切なものかどうか疑問を感じたご遺族が、みらい総合法律事務所の無料相談を利用。
弁護士の見解は、「金額が低すぎる」というものだったため、示談交渉のすべてを依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉したところ、弁護士基準に準じる金額まで増額したため、示談解決となった事案です。
約2,000万円増額の4,000万円となった事案です。
34歳男性の慰謝料等で約9,345万円獲得
34歳男性がバイクで走行中、右折トラックに衝突された交通死亡事故。
ご遺族は、加害者の刑事裁判への被害者参加を希望されたため、みらい総合法律事務所の弁護士に代理人を依頼。
刑事事件の終了後、弁護士が提訴して裁判に入りました。
裁判では、逸失利益の計算での基礎収入などが争点となりましたが、最終的には弁護士の主張が認められ、約9,345万円で解決した事案です。
53歳男性の死亡事故で5,150万円を獲得
53歳の男性が歩いて道路を横断中、直進してきた自動車に衝突された死亡事故。
ご遺族は、示談交渉は専門家に任せた方がいいと判断され、みらい総合法律事務所の弁護士に示談交渉を依頼されました。
弁護士の判断で、まず自賠責保険から上限金額の約3,000万円を受領。
その後、弁護士が加害者側の任意保険会社と交渉に入りましたが、過失割合などが争点になりました。
粘り強く交渉を続けた結果、保険会社が譲歩し、最終的には自賠責保険金額約3,000万円との合計で、約5,150万円で解決した事案です。
死亡事故の示談交渉は弁護士に任せてしまう
ここまで、交通死亡事故での慰謝料等の示談交渉についてお話ししてきましたが、いかがでしょうか?
ご遺族が単独で、加害者側の任意保険会社と示談交渉をしていく難しさをお感じになったのではないでしょうか。
死亡事故の示談交渉や裁判では、被害者の方は亡くなっているため正しい主張ができず、過失割合などで不利になってしまうことが多くあります。
また、ご遺族が増額を主張しても保険会社が応じることはまずありません。
それが、弁護士が交渉に入ると慰謝料などが増額します。
これが交通死亡事故の示談交渉の現実なのです。
ですから、まずは一度、弁護士に無料相談してみることをおすすめします。
弁護士の説明に納得がいったなら、そこで正式に依頼をすればいいと思います。
みらい総合法律事務所では、死亡事故のご遺族からの無料相談を受け付けています。
示談交渉が進まない、慰謝料に納得がいかない、といった場合は、ぜひご相談ください。
弁護士へのご相談の流れ
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【動画】死亡事故のご遺族のために、示談交渉の解決プロセスを解説
代表社員 弁護士 谷原誠