死亡事故で被害者の過失なし(10対0)の場合の慰謝料
*タップすると解説を見ることができます。
死亡事故の慰謝料は、亡くなった方の精神的苦痛や損害に対して支払われるもので、受取人はご遺族の中の相続人になります。
死亡事故で被害者の過失なし(10対0)であれば損害額全額を請求できますが、過失が出てしまうと賠償額が減額されてしまいます。
これを過失相殺といいます。
死亡慰謝料は、あらかじめ概ねの金額が次のように設定されています。
<弁護士(裁判)基準による死亡慰謝料の相場金額早見表>
被害者の状況 | 死亡慰謝料の目安 (近親者への支払い分を含む) |
---|---|
一家の支柱 | 2,800万円 |
母親、配偶者 | 2,500万円 |
独身の男女、子供、幼児等 | 2,000万円~2,500万円 |
そのために本記事では、死亡事故において、被害者の過失がない場合(10対0)における慰謝料の相場や過失相殺を主張された場合に必要な知識、過失割合のポイントについて解説します。
ぜひ最後まで読んで、過失相殺で損をしないようにしていただきたいと思います。
目次
交通事故の過失割合/過失相殺とは?
交通事故の発生、またその事故に関する損害の拡大について、被害者側にも過失(責任)があった場合、その割合に基づいて損害賠償額を差し引く(減額する)ことを「過失相殺」といいます。
加害者70対被害者30、というように表されますが、これが「過失割合」になります。
慰謝料が2,000万円だった場合、過失割合が加害者70対被害者30であれば、
過失相殺分 | 2,000万円 × 0.3 = 600万円 |
---|---|
被害者の方が受け取る金額 | 2,000万円 - 600万円 = 1,400万円 |
というように、大きく減額されてしまうわけです。
交通死亡事故の過失割合で知っておくべきポイント4つ
過失割合は誰が決めているのか?
交通死亡事故の場合、通常は四十九日が過ぎると加害者が加入している任意保険会社から慰謝料などの損害賠償金の提示があります。
過失割合によって慰謝料や逸失利益などの金額も変わってくるので、とても重要なポイントになります。
ところで、この過失割合は誰が決めているのかというと…保険会社が自分たちの見解に基づき主張しています。
警察には民事不介入のルールがあり、検察は加害者を起訴するかどうかを決めるので、交通事故の過失割合には関わらないのです。
つまり、保険会社が主張してくる過失割合は法的に正しいというものではなく、自分たちの都合で言っているだけですから、最終的には被害者側と加害者側双方の話し合いによって過失割合は決まることになります。
保険会社が主張する過失割合が正しいわけではない
被害者のご遺族に知っていただきたいのは、保険会社が主張する過失割合は正しいとは限らないということです。
じつは、過失割合には一定の基準があり、裁判所、弁護士、保険会社はすべて同じ基準により算定します。
なぜなら、交通事故には同じものは1つとしてないので、一定の基準を設けておかないと、すべての事故でそれぞれ過失割合を算定する際に膨大な時間がかかってしまい、被害者の方はいつまでも損害賠償金を受け取ることができない、という事態になってしまうからです。
ただ、同じ基準を用いるといっても、裁判所、弁護士、保険会社ではそれぞれで算定結果に違いが起きることが往々にしてあります。
たとえば保険会社の場合は、被害者の方の過失割合をできるだけ高く見積もることで自らが支払う慰謝料額をできるだけ低く抑えようとします。
被害者の方やそのご遺族から依頼を受けた弁護士は、過失割合の基準をもとに被害者の方にとって適切な割合を算定し、主張していきます。
裁判になった場合、裁判所は公正な立場から過失割合を導いていきます。
なぜ交通事故で過失割合が争点になるのか?
保険会社は営利企業ですから、利益を上げることがその存在目的です。
収入を増やし、支出を抑えようとするので被害者の方への損害賠償金(保険金)の支払いをできるだけ低くしようとします。
そのため、加害者の過失割合を低くして、被害者の方の過失割合を高く主張してきます。
それに対して被害者の方としては、ある日突然、交通事故にあって負傷し、場合によっては後遺症が残ったり、亡くなってしまうのですから、その補償をできるだけ多く受けたいと考えるでしょう。
(死亡事故では、慰謝料などの受け取りは相続人になります)
死亡事故の場合、大切なご家族を亡くされるのですから、ご遺族の悲しみは大きいでしょう。
お金で癒される、解決できるものでは到底ありませんが、亡くなった方のためにも適正な額の賠償金を受け取りたいと思われるのではないでしょうか。
このように、互いが望むことが正反対のため、示談交渉や裁判では過失割合と過失相殺が大きな争点になることが多いのです。
死亡事故では被害者が不利になる場合がある
交通事故が発生し、警察に通報すると、現場に警察官が急行して実況見分(現場検証)を行ないます。
実況見分では、現場道路や運転車両の状況、最初に相手を発見したポイント、ブレーキを踏んだポイント、衝突したポイントなどを調査し、この結果をもとに「実況見分調書」が作成されます。
また、被害者と加害者双方には聞き取り調査が行われ、「供述調書」も作成されます。
これらは加害者の刑事処分を決めるための証拠となりますが、示談交渉や民事裁判においても重要な資料、証拠になります。
しかしながら、死亡事故の場合、被害者側が不利になってしまうことがよくあります。
被害者の方は亡くなってしまっているため、証言できないからです。
目撃者がいない場合、どうしても加害者側の証言、主張が中心になってしまう場合もあるため、監視カメラやドライブレコーダーが有力な証拠となりますし、事案によってはご遺族が目撃者探しをすることもあります。
なお、実況見分調書や供述調書は、あとから修正することができないので注意していただきたいと思います。
過失割合はどのように決まるのか?
事故の態様による交通事故の5つの類型
交通事故の類型には次の5つがあり、これらの基本の過失割合をもととして各事案の修正要素を考慮しながら過失割合を決定していきます。
- ① 歩行者と四輪車(自動車)・二輪車(バイク)・自転車との事故
- ② 四輪車同士の事故
- ③ 二輪車と四輪車・二輪車・自転車との事故
- ④ 自転車と四輪車・二輪車・自転車との事故
- ⑤ 高速道路上の事故
過失割合を2つの事例から考えてみる
それぞれの事故の状況によって、被害者と加害者双方の基本過失割合に、5~20%程度の過失をそれぞれ加算して調整していきます。
ケース①:横断歩道のない道路を歩行者が横断⇒直進車に衝突された場合
歩行者(被害者)の基本過失割合 | 20% |
---|---|
夜間の場合 | +5% |
幹線道路の場合 | +10% |
児童・高齢者の場合 | -5% |
住宅地などの場合 | -5% |
【解説】
横断歩道がないので信号もないという場所を横断した場合、被害者の過失が通常(信号のある横断歩道を渡っていた場合)より大きいと判断されます。
さらに、夜間の場合なら被害者の過失は5%加算されますが、児童や高齢者の場合は5%がマイナスされます。
ケース②:2本の道路が交差する交差点で優先車Aと劣後車Bが衝突した場合
優先車Aの基本過失割合 | 10% |
---|---|
劣後車Bの明らかな先入 | +10% |
優先車Aの著しい過失 | +15% |
劣後車Bの著しい過失 | +10% |
【解説】
優先ではないほうの道路を走行していたB車が先に交差点に入ったのが明らかな場合は、10%の過失がプラスされます。
なお、著しい過失があった場合は過失が加算されます。
<過失と重過失の内容>
著しい過失とは、通常の限度を超えるような過失のことで、それよりさらに重い過失を重過失といいます。
重過失は過失というよりも、故意と同視されるようなものになります。
- 酒気帯び運転
- 15~30km/h程度の速度超過
- 運転中のスマートフォンなどの使用
- 脇見運転
- ハンドル、ブレーキ等の不適切な操作
- 一般道路でのヘルメットの付着用(二輪車の場合) など
- 酒酔い運転
- 居眠り運転
- 無免許運転
- 30km/h以上の速度超過
- 危険な体勢での運転(二輪車の場合)
- 高速道路でのヘルメットの付着用(二輪車の場合) など
被害者の過失がないと判断されるケースを検証
死亡事故の被害者の方のご遺族としては、「突然の事故で被害にあったのだから過失はないはずだ」と思われるかもしれません。
しかし、被害者の方が交通ルールを守っていたとしても、交通事故では多くの場合で当事者双方に過失(責任)があるとされます。
ただし、次のようなケースでは被害者の方の過失が0(ゼロ)と認められるケースもあります。
自動車(四輪車)同士の事故の場合
追突事故
駐車場で止まっていたら、後ろから車に追突された
これらは、いわゆる「もらい事故」といわれる追突事故の被害で、交通事故でもっとも多いものの1つです。
自動車同士のほか、自動車と二輪車、二輪車同士といったケースがあります。
被害者側の自動車が少しでも動いている場合は過失と認められるケースが多く、過失割合が0と判断されるのは被害者の方の自動車が停車中の場合になります。
ところで、被害者の方に過失がまったくないのに、加害者側(通常、加害者が任意保険に加入している場合はその保険会社)が、次のような主張をしてくる場合があります。
追い越しをしようとしたら妨害され衝突してしまった
こういった場合に注意していただきたいのは、ご遺族が「(被害者である)家族にも非があったかもしれない…」と思ってしまうことです。
そこで過失(責任)を認めてしまえば過失割合は0(ゼロ)にはならないので気をつけてください。
なお、駐車場で駐車禁止の指定のある場所に停車していた場合は過失を問われるので注意が必要です。
対向車のセンターラインオーバー
加害者である対向車がセンターラインを越えてはみ出してきて衝突された場合も、10対0と判断される場合が多くあります。
ただし、道路にセンターラインがある場合でも道路交通法上、被害者の方の過失はなかったとはならない場合があります。
【参考情報】:道路交通法第17条5項
センターラインがない道路では、「被害者も注意をするべきだった」とされて、加害者80対被害者20の過失割合になることが多いといえます。
しかし、事故の状況によって過失割合は変わってくるので、疑問を感じる場合は一度、交通事故に強い弁護士に無料相談してみることをおすすめします。
58歳の兼業主婦の女性が自動車で走行中、居眠り運転でセンターラインを越えてきた加害車両に衝突された交通死亡事故。
ご遺族は自分たちで示談交渉をしていくのは困難と考え、みらい総合法律事務所の弁護士に依頼。
弁護士が加害者側の保険会社と交渉し、最終的に5,200万円で解決した事例です。
信号無視
加害者の信号無視により赤信号で交差点に進入してきた交通事故の場合も、被害者の過失はなし、となる場合が多いといえます。
なお、自動車同士の事故で、被害者、加害者どちらかに次のようなケースが該当する場合には、その当事者側に過失が加算されます。
<過失がプラスされるケース>
速度超過
前方不注意
左右折禁止違反
早回り左右折
大回り左右折
直近左右折
徐行なし
ウィンカーなし
著しい過失・重過失
自動車と二輪車の事故の場合
多くの場合で、自動車と二輪車の事故では、自動車対自動車の場合に準じた過失割合になります。
40歳の女性が原付バイクで走行中、左折してきたトレーラーに衝突されて亡くなった交通事故。
加害者側の保険会社は、ご遺族に約3,422万円の損害賠償金を提示。
ご遺族は、この金額が適正なものかどうか判断できなかったため、みらい総合法律事務所に相談し、そのまま示談交渉を依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉した結果、慰謝料などが大幅に増額し、最終的には約5,858万円で解決した事例です。
自動車と自転車の事故の場合
自動車対自転車の死亡事故の場合、自転車のほうが過失割合が小さくなる傾向がありますが、道路交通法上、自転車は軽車両であり、一定の危険もともなうため、自転車側の過失が0と判断されるケースはそれほど多くはない、というのが実情です。
ただし、次のような場合は自転車の過失が0と判断されます。
自動車が自転車を追い越して曲がろうとした場合
信号機のない交差点の手前で自動車が自転車を追い越し、左折した際に衝突したという事故の場合、自転車側の過失は0と判断されます。
ただし、自動車が自転車より先行していた場合は、自転車は注意しなければいけないのに怠ったとして、自転車の過失が認められます。
対向車の車線はみ出し
対向車の自動車がセンターラインをオーバーして自転車と衝突した場合は、自転車側の過失は0になります。
79歳の女性が自転車で走行中、後方から自動車に衝突された死亡事故。
ご遺族が加害者側の任意保険会社と示談交渉を行なったところ、約2,017万円の示談金の提示があり、この金額が正しいかどうかの確認のため、みらい総合法律事務所に相談しました。
弁護士の見解は「金額が低すぎる」というものだったため、示談交渉を依頼。
弁護士が代理人として交渉したところ、弁護士(裁判)基準に準ずる金額まで保険会社が増額したしたため、最終的に4,000万円で解決したという事例です。
自動車と歩行者の事故の場合
自動車と歩行者の事故では、基本的に歩行者の過失割合は小さくなる傾向があります。
さらに、次のようなケースでは歩行者の過失割合は0になります。
歩行者側の信号が青信号の場合
歩行者が青信号で横断歩道を渡っており(車道の進行方向の信号は赤信号)、自動車が信号無視をして直進して衝突した場合、歩行者の過失割合は0になります。
歩行者が横断歩道を渡っている途中で信号が黄信号や赤信号に変わった場合でも歩行者の過失割合は0になります。
信号機のない横断歩道では、歩行者が横断歩道上、あるいは横断歩道から1、2メートル付近を歩行していたなら、原則として過失割合は0になります。
61歳の男性(無職)が横断歩道を歩行中、直進してきた自動車に衝突されて亡くなった交通事故。
加害者側の任意保険会社は、「事故と死亡の因果関係が不明である」「被害者は無職である」ことなどを理由に慰謝料などの損害賠償金として約1,550万円を提示。
ご遺族が、みらい総合法律事務所の無料相談を利用し、弁護士の説明に納得がいったため、示談交渉のすべてを依頼されました。
弁護士が保険会社と交渉しましたが決裂したため提訴。
訴訟でも争いになりましたが、最終的には和解に至り、自賠責保険金を含め3,000万円で解決した事例です。
歩道に自動車が進入してきた場合
71歳男性が、歩道を歩行中に自動車が突っ込んできて衝突された死亡事故。
ご遺族の被害感情が強く、当初から、みらい総合法律事務所の弁護士に依頼され、加害者の刑事事件にも被害者参加制度を利用し、参加されました。
刑事事件が終了後、弁護士が加害者側の任意保険会社との交渉を開始。
保険会社が譲歩し、相場より高額の慰謝料になったこともあり、最終的には4,300万円で解決したものです。
歩行者が歩道と車道の区別のない道路を右側通行していた場合
歩行者が右側通行をしていれば、過失割合は0になります。
ただし、歩行者が左側を通行していた場合や、ふらつきながら歩行していたような場合では歩行者に過失割合で0.5(5%)が加算されます。
被害者の過失割合を0(ゼロ)にする方法
ここまでお話ししてきた交通事故の状況と過失割合が絶対というわけではありません。
交通事故には、さまざまな態様、状況があり、被害者、加害者それぞれの属性や家庭での立場などすべて違ってくるため、1つとして同じものはありません。
そこで、被害者の方の過失割合を0(ゼロ)にするためには、さまざまな修正要素を証明し、加害者側に主張して認めさせていくことが大切です。
ここでは、修正要素の例を紹介します。
自動車同士の事故の修正要素
自動車同士の事故で次のような事情がある場合、加害者側と被害者側それぞれに該当する過失が加算されます。
大型車
徐行なし
左右折禁止違反
直近左右折
早回り左右折
大回り左右折
速度超過
前方不注意
ウィンカーなし
著しい過失・重過失
自動車対自転車の事故の修正要素
加害者側(自動車)に過失が加算される場合の例
自動車の著しい過失・重過失
自動車が大型車
自動車の速度超過
自動車のウィンカーなし
住宅地・商店街の交通事故
被害者が児童・老人
被害者が自転車横断帯・横断歩道通行中
被害者側(自転車)に過失が加算される場合の例
夜間の交通事故
見通しの悪い交差点での交通事故
自転車の著しい過失・重過失
直近左右折
早回り左右折
大回り左右折
自動車対歩行者の事故の修正要素
加害者側(自動車)に過失が加算される場合の例
住宅地・商店街の交通事故
被害者が児童・老人等
被害者が幼児・身体障碍者
被害者が集団横断中
自動車の著しい過失・重過失
歩道と車道の区別が無い道路
被害者(歩行者)側に過失が加算される場合の例
夜間の交通事故
交通量の多い幹線道路での交通事故
被害者が車両の直前・直後を横断
被害者が立ち止まる・ふらふら歩き・後退
横断禁止の規制がある場所の横断
みらい総合法律事務所は無料相談を行なっています。ぜひご利用ください。
弁護士へのご相談の流れ
↑↑
代表社員 弁護士 谷原誠